原則を失い、ロシア人ジャーナリストの墓に唾を吐くディネーシュ・デスーザ氏

「オバマのアメリカ」という映画を製作し、オバマ大統領の政策の不可思議に関する分析を試みたディネーシ・デスーザ氏が、トランプ氏のプーチン賛美に相乗りをする形で、いくつかのツイート発言を行なっています。

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「ドナルド・トランプ氏が尊敬しているのは、我々の誰かさんとは違って、プーチンが彼の国を愛し、その益の為に戦う点だ」
 
これについては当然ながら、元チェスの世界チャンピオンであるロシア人民主化運動家のゲイリー・カスパロフ氏や、トム・ニコルズ氏、マックス・ブート氏など多くの保守派の諜報専門家からの猛烈な批判を浴びています。
 
 
デスーザ氏は反オバマ、反ヒラリーを掲げ、今年は彼の政策した「ヒラリーのアメリカ」という反ヒラリー映画も公開されましたが、彼が自身に対するヒラリー・クリントンからの弾圧の可能性を恐れ、トランプ氏を支持したい気持ちは理解できるものの、207人にも上る自身への批判を書いたジャーナリストを次々に殺害したプーチンを愛国者として称え始めた事は、彼の今までのオバマ大統領やヒラリー候補に対する批判は「個人的な憎しみを基にしたものではないか」という疑いを起こさせます。
 
「プーチンによって殺されたジャーナリストの墓に唾を吐くのは止めろ。」「いっそのこと黙っている方が良い」というカスパロフ氏の返信の方が理に叶っています。

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プーチンがロシア人ナショナリストからの熱狂的な支持を受けている事は事実です。
 
1999年に起こされたアパート爆破事件で300人のロシア人が殺されましたが、事件発生直後からプーチン首相(当時)は、チェチェンへの報復を誓い、第二次チェチェン戦争勝利もあって、熱狂的な支持を得ました。
 
但しこの事件は第二次チェチェン戦争のキッカケを欲しがった当時首相であったプーチンがFSB(ロシア連邦保安庁)を使って起こした自作自演であることが判明しています。勿論、このアパート爆破事件によって、子供を含む住民は眠れない夜を過ごし、PTSDなどで苦しみ、この事件を不審に思ったジャーナリストや学者、政治家などは調査を始めましたが、調査を担った人々は殺害され、投獄され、強制労働を課されています。
 
 
プーチンによる「拡張主義」はロシアのナショナリストからの支持を受けるでしょうが、ロシアの民主化を願い、人権の向上や経済の発展を心から願っているプーチン反対派も多くいます。但し、テレビやラジオのメディアなどではプーチン批判は許されません。プーチン批判が出来るのは、海外へ向けた英語発信できる活字メディアです。一般のロシア人はこのような英語ジャーナルは読まず、テレビやラジオのプーチン賛美を情報源としています。制限のある情報の中での支持ですから、北朝鮮の人民がいくら「強い指導者である金正恩さまを慕います」と語っても、「そう思い込まされている」と考える方が正確であるのと同じです。
 
また、プーチンを支持するのはナショナリストであって、愛国者(Patriot)ではありません。ナショナリストと愛国者の違いを簡単に述べますが、ナショナリストには「我々は敵に囲まれている。母国の偉大さ(誇り、かつての領土)を取り戻す」というメッセージがあります。ナショナリストにとって、この『敵』とは、交戦状態となっている敵国、及び仮想敵国を指すだけでなく、時には同盟国や近隣国を指します。ナショナリストは『愛国』を強調する為に敵を必要としますが、愛国者には敵の存在を作り出す必要がありません。
 
これはドナルド・トランプやその支持者にも言える事ですが、彼らは意図的に「アメリカは利用され、搾取されてきたが、偉大なアメリカを取り戻す」というメッセージを流し、同盟国や近隣の友好国を敵視するナショナリズムを煽動しています。彼らは決して愛国者ではありません。
 
日本には、ロシアの流すプロパガンダに対抗する諜報の専門家が全く存在しないのかもしれません。ですからロシアのエージェントが堂々と「親ロシア」のメッセージを垂れ流しているようです。馬淵睦夫氏などの語ることは100%クレムリンのプロパガンダそのものであって、彼は典型的なロシアのエージェントだと言えます。ジョン・シンドラー氏など諜報の専門家によれば、トランプ氏は「知らないうちにロシアの国益の為に活躍する愚かなエージェント」であるそうですから、発言、活動、公式履歴から見て、馬淵氏も同じ類か、或いは金銭授与のある正式なエージェントでしょう。
 
言論の自由や人権を重んじる西側の人間にとって、ロシアの愛国が何かは常識的に判断されます。
 
もう一点、現在、多くの市民が虐殺されているシリアに於いて、ISISによって殺害された市民の数が2016年7月末に2,686人であるのに対し、ロシアによって殺害された市民の数は2,704人となっています。イスラム教過激派には聖戦を戦い、領土を拡張していくことが使命であるようですが、果たして西側の常識は、イスラム国(ISIS)のリーダーであるアブー・バクル・アル=バグダーディーを「愛国者」、或いは「強い真の指導者」と呼ぶでしょうか? 

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勿論、アブー・バクル・アル=バグダーディーを少しでも擁護し、評価するような発言は、西側の常識から言って容認できるものではありません。
 
オバマ大統領を指して独裁者と呼ぶことに躊躇を感じず、プーチンには賛辞を贈るような人々は、己の利益、或いは個人的な損得の為に原則を棄てた人々です。全ての人々が死や弾圧を覚悟して発言しなければならないとは思いませんが、かつて自らが掲げた原則や、原則の為に命を棄てた人々を軽んじるくらいなら、黙っていた方がよほど良いでしょう。