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プーチン大統領は北方領土を返還する意思があるか

プーチン政権下のロシアとの間に、北方領土返還に向けた交渉が進められ、平和条約の締結が実現するでしょうか。
 
 
まず、以下は北方領土問題の日露の主張の違いや平行線について書かれた「フォート・ロス」の英語版記事の訳です。

Putin on Kuril Islands: "We are ready to buy a lot, but we won't sell anything" - Fort Russ

 
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ロシア・アセアン・サミットの記者会見に於いて、ロシアのヴラジミール・プーチン大統領は、「モスクワはクリル・アイランド(北方領土の意)問題について、どんな取引も行なうつもりはない」という考えを示しました。
 
タス通信の報道によれば、ロシアの指導者は、
「我々は、何も売るつもりはない。多くのものを買う用意は出来ているが、売るものは何もない」と語っています。
 
プーチン大統領は、「ロシアは、日本を含め、領土問題についての議論を踏まえた平和条約締結に関して、全ての関係国と話し合いをする用意がある。日本は我々の隣人である。我々は高いレベルの相互(信頼)関係を築いてきた。」と話しました。

 

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5月6日、日本の安倍晋三首相はソチでの交渉の終わりに、ロシアの大統領に向けて新しい提案をすると述べています。また、プーチン大統領とのこれまでの話し合いの結果、この問題への解決への同意に達したと語りました。
 
5月13日、トーキョーが北方領土を買い取る事をモスクワに提案したというニュースが流れましたが、ロシア連邦の外務省はこの情報を「全くのナンセンスだ」と一蹴しています。
 
ロシアの外務省は、これほど現実からかけ離れた話はない。日本との我々の協議が、経済援助との引き換えにした、北方領土の売り渡し、或いは引き渡しであるという、こんなことを日本の安倍晋三首相が新しい案として提案したという話は、原始的ですらある」と反発しています。
 
ロシアと日本の関係は、未解決の領土問題によって先行きが暗いようです。第二次世界大戦後、この二カ国の間には平和条約が締結されていない。日本は1855年に日露の間に結ばれた下田条約をもとに、北方領土4島(の引き渡し)を主張しています。
 
モスクワは、第二次世界大戦後、北方領土がソヴィエト連邦に併合され、国際法の規定に則って、ロシアの主権下にあることを疑う余地はない、としています。
 

 

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また、ロシアの「プラウダ」紙は、「どんなことがあっても、日本が北方領土を得ることは無い」として記事で、
 
『平和条約は二カ国の間の全ての論争を終結させることができる。ロシア連邦外務省のウェブサイト、ホームページにあるように、交渉は1955年から続いているが、実際には1991年まで何も変化はなかった。1990年代となり、交渉は、「これから解決に向けて努力する」「早急に平和条約を締結できるように、続いて交渉をしていく」「交渉の場を設けていく」という合意や宣言に限られていたと言って良い。最近になって、政府・政党が現実的な行動を起こし始めたのが本当だ。平和条約を締結するにあたっての一番の障害は、日本の側に、領土に対する欲が生じてきた事だろう。
 
共同宣言で合意したように、二島だけ(の譲渡)に止まらず、日本は4島を主張している。2012年、時の鳩山由紀夫首相は、日本は二島返還(論)を受け入れないだろう、と発言している。この問題と平和条約締結に関してのまずスタート地点は、これら4島の主権がどこの国にあるのかを明確にすることにある。ロシア当局は、ロシアは全ての法的責務を全うし、あとは日本の返答次第だと宣言している。トーキョーは1956年の宣言を尊重し、国後・択捉の要求を引き下げるべきだ。
 
法的、また政治的な違いは、外交上の困難を更に増している。慶応大学教授で国際関係の専門家である細谷雄一氏によれば、この場合、伝統的な外交は、世論によって大きく左右される「民主主義的」外交に立ち替わっているようだ。
 
その結果として、社会はしばしばナショナリストらの意向、感情と、基本的無知によって動かされ、有権者からの支持を失なう事を恐れる政治家らに、論理的でバランスのとれた外交を反故し、ポピュリズムに陥るような悪影響を及ぼしている。
 
領土問題に関するロシアと日本、両国の立場は、基本的に違っている。但し、原則においては、両国の国民に支持されている。これは日本内にも見ることができる。
 
この国に於いては、妥協や柔軟性を見出そうとするような、どんな気配でも、『弱さ』、或いは悪ければ、『売国行為』として受け取られる。

 

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平和条約を締結する機会は、しばし、日本の政権交代によって、延期されてきた。2006年以降、日本は7人の首相を掲げてきた。日本の首相のアドバイザーであり、外交について提言をしてきた谷内正太郎は、この交渉は時間がかかるため、モスクワはトーキョーが安定した政権を確保するまで、交渉する事はないだろうと言っている。明らかに、この問題には多くの困難が存在し、簡単に解決できる内容ではない。それでもこれは解決できるし、解決されなければならない。この問題を解決するのに、重要なのは何だろうか。
 
まず、1956年共同宣言の「二島譲渡」の実施は、速やかで自動的なものではないことを、ハッキリと、明確に宣言されなければならない。
 
この明確な立場表明によって、外交交渉の緊張はほぐれるだろう。次に領土問題が存在する事を認識する必要がある。これは複雑な問題であり、建設的な交渉がなされなければならない。その上で関係国の国益と威厳を侵害しないように、問題が何であるか、明確にされるべきだ。
 
ロシアは、二国間の国交回復に向けた外交上の段階に加え、以下の備えをしなければならない。
 
1、早急に極東地域に於ける経済状況が、大きく改善されなければならない。
2、アジア太平洋地域に於ける外交を活性化させなければならない。
3、極東におけるもしもの侵略攻撃に備えるため、強力な戦略的軍事同盟の強化を形成しなければならない。
 
交渉は単純には行かないだろうが、相互が益を受ける事が出来る解決法を見出すことは重要である。これには、ロシアの国益もさることながら、政治家が落ち着き、納得できるアプローチをとることが求められている。ロシア人、日本人、世界の人々が、この平和条約を必要としている。』

 

と書いています。

Japan will not get Kurils from Russia, no matter what - PravdaReport

 
プラウダ紙は、1903年創刊の最も古いニュース・メディアであり、ソヴィエト時代のような国営新聞としての権威はありませんが、この記事からロシア当局の意向を読み取る事が出来ます。
 
プラウダ紙は、北方領土返還交渉が進まない非を日本側に見出し、交渉を進める条件のまず第一歩として、「1956年共同宣言の二島譲渡の実施が、速やかで自動的なものではないことを、ハッキリと、明確に宣言すること」を挙げています。
 
この問題が進展しないことを、日本の外交力や外務省の責任にする言動は日本側にも見られますが、この批判は的を得ていません。北方領土問題が進展しない第一の非は、領土を返還する意志が全く無い現在のロシア政府にあり、この事実を直視しない限り、現実的で国益を鑑みた外交は望めません。
 
プラウダ紙は、ロシア側が領土返還に向けて行わなければならない準備として、「日本側が4島返還の要求の放棄すること」を前提とした上で、
 
①ロシア経済の回復、②極東地域における外交活性化と、③ロシアが攻撃される際に対応する為の「軍事同盟の強化」挙げています。
 
これらが交渉の前に実現化されて、初めて交渉が出来ると主張しているのですが、それでも「容易ではない交渉」ですから、時間がかかり、これらの前条件が整えられても、返還は自動的ではないようです。

 

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さて、ロシア側の準備の為の「経済の回復」として、クリミア侵略に発端した経済制裁の解除を行なえば、日本は欧米との関係を大きく損ないます。欧米との関係を損なってまで経済制裁の解除に踏み切っても、プーチン大統領自身が「北方領土と経済問題を混合するつもりは無い」と宣言しています。
 
また、「戦略的軍事同盟の強化」というものは、中国との軍事関係の強化が念頭に置かれていると思われますが、経済を回復させ、極東での外交力を増し、中国との軍事関係の強化を果たしたすまで、日本はロシアの動きさえ、「領土譲渡」に向けた前段階として傍観する他ないようです。
 
「これらの要求を認めれば領土が帰ってくる」という期待があるとすれば、それは甘いものでしょう。ロシアが領土を返還できない真の理由は、別にあるからです。
 
ロシアは北方領土にミサイル基地の建設を進めており、菅官房長官は懸念を表明していますが、プーチン大統領にはそれを顧みるつもりは全くありません。北方領土の領海は、オホーツク海から太平洋に向けたロシア海軍運航の権利を保障し、ロシア海軍にとって重要な軍事戦略の拠点となっています。
 
プラウダ紙の主張は非現実的でありながら、「領土譲渡を匂わせる政治家は売国奴と見做される」という指摘は、的を得ています。
 
最近のロシアの情勢は緊張を増し、プーチン大統領は数週間前に、ナンバー2と呼ばれた側近を排除したばかりで、プーチン大統領による元KGBの同僚や将軍の排除が、ほぼ毎日行なわれています。KGBやクレムリンの有力者とすれば、プーチンを排除して、今日のロシアの不都合の全ての責任をプーチンに負わせることに誘惑がないとは言えません。自身がそのように権力の座についたプーチンは、自身の身の危険を承知している為、不安材料の排除を行なっているのでしょう。
 
 

Vladimir Putin Sacks Longtime Ally as Kremlin Chief of Staff

 

このような状況に於いて、「売国奴」として見做される領土譲渡を、プーチンが進める可能性は、限りなくゼロに近いと言えます。