読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

トランプ支持者の愛国心

トランプ支持者の考えるアメリカに対する一番の脅威は、プーチン大統領のような「外敵」ではなく、獅子懐中の虫、即ち、内側から国の保守伝統を破壊しようとするリベラル派です。彼らにとっては、プーチンがクリミアを違法併合しようが、ポーランドやバルト三国に侵略しようが、或いは中国が人工島を建設してそこから軍機を飛ばし、尖閣を侵略する事よりも、連邦最高裁判官にリベラル派判事を任命したり、バラマキ福祉政策や難民受け入れることの方が『脅威』だと感じられるようです。

 

勿論、西側自由諸国が共産主義の侵略を受けるような事態になれば、自由社会のリーダーであるアメリカには軍事介入をする道義がありますが、トランプはNATOや同盟国がプーチン(及び)中国によって侵略を受けても、それまでそれ相当の支払いをアメリカに対してしてこなかった場合には、アメリカには介入の義務はないと主張し、介入へのハードルを高めています。ロシアや中国がどこを侵略しても、米軍の軍事介入の義務がないならば、アメリカにとって脅威とは言えないと考えているようですし、戦争や侵略によって同盟国の経済や市場が破壊されれば、貿易相手を変えれば良い程度の経済認識しか持ち合わせていません。(トランプ氏は、日本の為にも軍事介入をする必要を感じていません。)

 

    f:id:HKennedy:20160801135303j:plain

 

トランプ氏は、これを正当化する為に「アメリカは今まで、同盟国によって良いように利用されてきた」という真実ではないプロパガンダを流し、被害者意識を煽動しています。勿論、主要メディアはトランプ氏の外交知識や貿易に関する基本的知識の欠如を酷評していますが、トランプ支持者の多くは、白人低学歴者であり、多くの国のナショナリストがそうであるように、「主要メディアは真実を報道しない」と信じ、扇情的なブログや視聴率重視のテレビ番組の啖呵を切るコメンテーターから情報を得ています。

 

トランプ支持者の多くは、福祉の恩恵には預かっていない、白人低所得者、低学歴層です。福祉の恩恵を受けるほど困窮をしている訳ではありませんが、決して楽ではない生活の中で、その不満をバラマキを行なう民主党に向け、「豊かな同盟国」に対する義務を重視しません。

 

ですから、「アメリカをまず第一に」というスローガンに惹かれつつ、「何がアメリカを偉大な国としていたのか」という根本的理解を置き去りにしています。スローガンや啖呵では解決しない複雑な国際政治の絡みを理解する事もありません。

 

オバマ大統領の当選の基となったのが、聞こえが良く、中身がないスローガンであった事は、今まで保守派から批判の的となっていましたが、今回の選挙では、保守派はトランプ氏による全く同じ手法に騙されています。ここから判断できるのは、保守派であっても、リベラル派であっても、聞こえが良く、中身がない、扇情的なスローガンに惹かれ、事実を無視する傾向が大衆にはある点です。

 

プーチン大統領率いるクレムリンは、自国民とクリミアの市民を迫害し、彼らを拷問にかけ、裁判を通さずに殺害しています。明らかに「人道に対する罪」を犯していますが、トランプ氏が敵国ロシアの独裁者プーチンとの強い関わりを持っていてもそれが気にならないのは、トランプ支持者の74%が、ヒラリーは刑務所にいるべきだと感じ、66%がロシアよりも大きな脅威だと感じ、何と33%が、ルシファー(キリスト教のサタンの名前)と関わりを持っていると信じています。(このルシファーの時点で、彼らが投票するに相応しい知的レベルを持ち合わせていない事を示唆しています。)

Clinton Image Improves Following Conventions; Leads Trump by 5 - Public Policy Polling

 

ヒラリー・クリントンによるe-mailの私的サーバー使用問題で、ヒラリー候補が問題発覚の直後、3万通のe-mailを消去したことは、厳しく糾弾されて当然です。

 

これらの3万通のe-mailが、娘の結婚式、パーティー、ヨガのレッスンについて書かれていたe-mailならば、消去をする必要は無かったでしょう。この点で、保守派の「そんな筈はない」という疑いは当然です。実際に、一端消去されたものの発見(?)され、今までFBIに提出されたメールの中には、機密扱いのものがありました。

 

但し、国家機密扱いのものが含まれているe-mailを、トランプ氏の主張通り、ただヒラリー潰しの為に「ロシアにハッキングさせ、公開」すれば、ヒラリー以上にアメリカの安全保障を傷つけます。これは「ヒラリーの秘密」以上に、「国家の機密」であり、公開されて困るのは、ヒラリー以上にアメリカです。

 

国のシステムを、敵国に向けて「ハッキングして下さい」と頼むことは、冗談では済まされません。例えばハッキングされたのがトランプ側のシステムであり、ハッカーが中国政府傘下の組織であったとして、ヒラリー・クリントンが中国政府に対し、「トランプ氏が公開しない、納税証明の情報をハッキングして公開して下さい」と話した場合、保守派は彼女が「冗談です」と言っても許さず、当然ながら彼女の愛国心や大統領候補者としての資質を疑い、彼女の証人喚問や逮捕を求めるでしょう。ヒラリー・クリントンの発言が冗談で済まされず、国家を裏切る行為と見做されるなら、トランプ氏に対しても同じ物差しで測られるべきです。

 

ところが、トランプ氏は、その暴言の数々、嘘の数々の為に、何を言っても真剣に受け取られないという特権さえ保持しているようです。


トランプ支持者との議論で、その経済政策の与える悪影響を指摘すれば、彼らは「トランプ氏はきっと、それを実現させないと思う」と答え、「公約を破るから大丈夫」という、尋常では考えられない免罪をトランプ氏に与えています。

 

-----

 

アメリカはオバマ大統領を生き延びました。ヒラリー・クリントンも生き延びるでしょう。しかしながら、トランプを生き延びる事は難しいと、どの専門家も口を揃えて警告しています。

 

ヒラリー・クリントンの嘘や不正が罰を受けることなく、彼女が大統領となることが「正義」だとは思われませんが、ヒラリー・クリントンは西側のなり得る政治家の中で最も腐敗した政治家であっても独裁者とは違います。恐怖政治や強権を振うよりは、共和党が多数を占める議会との協調路線をとると思われます。

 

ヒラリーこそアメリカに対する一番の脅威と考えるような人々は、本当の独裁者、恐怖政治というものがどんなものだか、余りにも知らなさ過ぎます。

 

トランプ支持者たちは、ヒラリーを憎む以上に、自国を愛する必要があります。