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プーチンのプロパガンダ組織『ウィキリークス』と米大統領選工作

国際政治事情 アメリカの政治事情 プーチン・ロシア
ジョン・シンドラー氏は、安全保障の専門家、また国家安全保障局のアナリストであり、反諜報活動、スパイ、テロリズムの専門家です。また海軍将校、軍事大学の教授でもあり、4つの著書を書いています。
 
彼が数日前、ウィキリークスによる民主党のe-mail流出事件に関連した、ウィキリークスとロシア政府の関わりをオブザーバー誌に書かれました。
 
ウィキリークスによる民主党e-mail流出は、ロシア政府によるトランプ支持の一環であり、目的とするところはドナルド・トランプ氏の当選による「対ロシア政策解除」と「クリミアのロシア領有承認」だと考えられています。
 
またトランプ氏が公約として示唆する「NATO撤退」、「極東地域の米軍撤退」は、ヨーロッパや中東、北方領土におけるロシアの権威と発言力を強めるでしょう。
 
トランプ氏のトップアドバイザーであるポール・マナフォート氏が、「プーチンの傀儡」と呼ばれたウルクライナの独裁者、ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ元大統領のアドバイザーであった事も、決して偶然ではありません。
 
 
 
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最近のウィキリークスによる米国民主党全国委員会の2万通にわたるe-mailの公開は、政治的脅威とスキャンダルを最高レベルにまで引き上げた。これらの民主党内の内輪のコミュニケーションは、民主党やフィラデルフィアで開催されている党大会最終日の今日、民主党の大統領候補者として指名されるヒラリー・クリントンにとって喜ばしいものではない。
 
ウィキリークスはヒラリーの即位に、醜い捻りを生じさせている。民主党のe-mailはクリントン・キャンペーンの影の部分と不誠実さ、勿論その腐敗ぶりを浮き彫りにしている。バーニー・サンダースやドナルド・トランプなど、ヒラリーの対抗者たちに対して行なってきたことは不快で、ひょっとすると違法かもしれない。これをクリントン・チームの醜い側面と言うことは、タイタニック号は氷山を避けられないと言うようなものだ。

 

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          ウィキリークスの『編集長』、ジュリアン・アサンジ
 
今回の膨大な量の流出の波及効果は、深刻なものだ。民主党委員会委員長のデビー・ワサーマン・シュルツはフィラデルフィアでの党大会の前に辞表の提出を余儀なくされ、民主党指名選期間に民主党内からも強い批判を浴びていたサンダース議員は、「この内幕に驚いてはいないが、落胆をしている」と答えている。民主党はこれからドナルド・トランプと共和党に立ち向かうのに一致しているとは全く言えない。
 
4日間にわたる民主党全国委員会豪華ショーの夜以上に、データの流出を行なって、ヒラリーが今年の11月にホワイトハウスに引っ越しをする試みを邪魔する好機はないだろう。ウィキリークスはハッキングしたe-mailでクリントン陣営へのダメージを図る脅しとして公表された。民主党はこれらの流出したメッセージの多くが本物であると否定する事は出来ないし、もし本物でないならば、ワイサーマン・シュルツ委員長の辞任を要求する事はなかったろう。それでも、どのようにプライバシー保護組織を標榜する組織がこれらのe-mailを入手したのかには疑問が残る。
 
しかしながら、よくよく考えれば、こういった事は何も不思議なことでは無い。独立したサイバー・セキュリティーの専門家が分かり切った事として査定したように、民主党がロシアの諜報機関の一端の大規模なハッキング・グループの標的となっていた事は知られていた。去年は、「コージー・ベア」或いは「APT29 」と呼ばれているグループが、スピア型攻撃(*1)によって多くの西側のプライベート・ネットワークやホワイト・ハウス、国務省や統合参謀本部への不正アクセスを行なっている。民主党本部へのハッキングを行なった「ファンシー・ベア」及び「APT28」は、以前書いたように、よく知られたロシアの諜報機関最前線である。
 
(*1スピアフィッシングとは、特定の人物を狙い、偽のメールを送ったり、ウイルスを仕込んだりしてパスワードや個人情報などを詐取する詐欺。もとは魚釣りの用語で、銛(もり)や水中銃で魚を突き刺す釣り方のこと。大手銀行のオンラインバンキングなど有名なサービスの不特定多数のユーザを狙う通常のフィッシングとは異なり、対象の素性を調査した上で、その個人に合わせた手法が個別に考案されるのが特徴である。例えば、大企業の支店に勤務する社員に「本社の情報システム部の者だが調査に必要なのであなたのパスワードを教えてほしい」といったメールを送り、だまされた社員から聞き出したパスワードを使ってその企業のネットワークに不正侵入するといった手が使われる。他にも、上司や取引先に成りすまして業務上の機密情報や知的財産を詐取するといった事例が報告されている。)
 
これらの「ベア」は、民主党へのハッキングを隠そうとしていない。あるケースでは、キリル文字を使ったロシア名をサインに残している。そしてこれがクレムリンに帰属している事もサイバー・セキュリティー部門の独立した分析家によって確認されている。答えは単純だ。クレムリンに雇用されているロシアのハッカーらは、民主党の情報を盗み何千もの不名誉なe-mailを含む盗まれたデータを、全世界に流出するように、ウィキリークスに流したのだ。
 
勿論これは、ウィキリークスがモスクワの命令に従い、ヴラジミール・プーチンと親密な関係を築いている事を意味する。情報流出に関して民主党は、クリントン陣営がその見方に同意しているように、この選挙に於いてモスクワはヒラリーの大統領就任よりも、ドナルド・トランプの処理を願い、ウィキリークスを使ってヒラリー・クリントンの妨害を行なっていると発表した。この見解は、先週までは多くの人にとって信じられない内容だっただろうが、ホワイト・ハウスはこれを重要視し始めたし、実際、その通りなのだ。
 
真実は、反諜報活動とロシア・スパイとのやり取りの経験の技能を体験済みの人間には、ウィキリークスはもう何年もあからさまなクレムリンの諜報活動最前線である事は分かり切っていた。それでも、民主党と主要メディアにおける彼らの同労者が、私がスパイ戦争でロシアのセキュリティー機関へとの戦いから得た長い経験を基に、2013年からずっと公表してきた考えに突然達したことは喜ばしい。
 
ウィキリークスは2010年、不機嫌な陸軍兵であるブラドリー・マニング(現在はチェルシー・マニング)によって盗まれた25万通の国務省の非公開外電をインターネットで公開した時から国際的に認識されるようになった。この事件は当時の国務長官であったヒラリー・クリントンにとって大きな失点であり、世界的なスキャンダルとなった。
 
ウィキリークスは、表向き個人組織として、実際にはオーストラリア人のハッカーで、2012年半ばからスウェーデンにおける強姦の容疑がかけられ、ロンドンのエクアドル大使館に潜伏中のジュリアン・アサンジの虚偽のプロジェクトとして2006年に発足した。このグループとクレムリンとの関わりがいつの時点で作られたかは定かではないが、2013年のエドワード・スノーデン事件の最中、ウィキリークスが注目を浴びた頃には出来上がっていた事は確かだ。
 
スノーデン事件でウィキリークスが果たした役割を誇張するのは困難だ。アサンジ自身がアメリカのIT技術者にロシアに保護を求めるように助言をしている。スノーデンはアサンジの助言に従い、ウィキリークスのトップ役員でアサンジと親密な関係を持つサラ・ハリソンに伴われ、2013年の6月に香港からモスクワに渡っている。

 

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                    エドワード・スノーデン
 
逃亡中のNSA請負業者に、アサンジはなぜプーチンの庇護を求めるように勧めたのか、これは重要な問いである。これは去年説明したことだが、
 
「エドワード・スノーデンが安全なのはロシアだけだろう。ジュリアンは助言した。ロシアでならスノーデンは、プーチンとFSBと呼ばれる彼の護衛に守られる。何百万人の人々の生活を正式許可なく監視したり反対者を殺害する、世界中で最も残忍な秘密警察として知られるFSBに庇護されるというのは「個人組織」にしては不可解な選択だと思われるだろうが、ウィキリークスは普通の非政府組織ではない。
 
アサンジは何故ロシアがスノーデンを引き受けると知っていたのか。モスクワにとって大きな政治的困難を生じさせないのだろうか、これらの質問は、どんな対敵情報活動員でも答えを欲しがるものだ。アサンジはFSBの意向を踏まえて語っていたのだろうか。それともただ単に彼はスノーデンが庇護と警護を受けられると知っていたのだろうか。
 
しかもアサンジ自身がFSBの庇護を求めていた筈だ。
 
ロンドンに匿われている間、アサンジは「大使館内部の自身の護衛を選べるように要請していた。ロシアのサービスが良いと言うものだった。」西側のプライバシー擁護者が、西側(ロンドン)に隠れている間、ロシアの秘密警察の保護を求めると言うのは、尋常ではない。
 
アサンジが、評判の悪いプーチンの秘密警察を彼の友人として考えていた事に間違いはないだろう。ウィキリークスについて調べようとする全ての人は、これが何故か考えるべきだ。
 
アサンジのクレムリンとその諜報機関に対する親愛の情は何も新しいものではなく、スノーデン事件が起きた3年前から私が書いてきたことだ。これはウィキリークスが軌道に乗るまで何年も関わり、アサンジの腹心で、ロシア事情に関して詳しい、一言で言うなら反ユダヤ主義のイズラエル・シャミールを中心に回っていた。これは2013年7月に私が念入りに書いたとおりだ。
 
イズラエル・シャミールとは一体誰なのか。これに答えるのは難しい。彼の公式のバイオグラフィーによれば、彼はソヴィエト連邦で1947年に生まれ、1969年にイスラエルに移民したが、彼の履歴は詳しい詳細を避けている。彼自身、6つ以上の違った別名と、それぞれのアイデンティティーを所持している事を認めている。特筆すべきなのは、彼はウィキリークスとのつながりで知られるようになるまでは、ヨーロッパではネオ・ナチのホロコースト否認論者として知られていた事だろう。勿論、ユダヤ人でイスラエル人でもある人物としては稀有なことだ。
 
いくつかの別名での活動の中で、シャミールは辛辣な反ユダヤ主義と『プロトコール・オブ・エルダーズ・オブ・シオン(シオン賢者の議定書)』を広める事に精力的に行なっていた。彼の視点は余りにも不可思議で激しいものだったので、多くの人は彼が、スパイに代わる煽動工作員ではないかと疑った。自身も親パレスチナの考えを持つユダヤ人学者のノーマン・フィンケルシュタインは、シャミールと幾度か会った事があるようだが、彼を「狂人」と呼び、「彼が語る自身の歴史は全て虚偽であり、彼が自身について語ることに真実は何もない」と評しています。シャミールはウィキリークスのロシア専門家としては、不可解な人材だ。
 
ウィキリークスはシャミールに給与を支払っている事を否定しているが、シャミール自身がウィキリークスで働いている事を明らかにしている。シークレット・サービスはこの変わり者を1980年代にはKGBの工作員として働かせていたが、今日に至るまで続くシャミールの親モスクワ論を考えれば、未だに彼がロシアの特別機関との親しい仲を保っている事に疑いの余地はない。
 
クレムリンのアジ宣伝ネットワークであるRTに自らの番組を持っていた事など、アサンジの親モスクワ的立場は隠されていた事ではなく、むしろ何故西側メディアがこれをほんの数日前まで調べようとしなかったのかの方が問題だ。特にアサンジが数年前、客観性を保とうとする振りですら止め、秘密情報とは全く関係のない、シリア問題などさまざまな事案について、モスクワの主張を盲目的に広めてきたのにだ。
 
アサンジとウィキリークスがプーチンの代行者である事は、今では明らかだ。しばらくそうした働きをしてきたことはメディアも次第に気付き始めている。彼らのヒラリー・クリントンの大統領当選を阻止しようとする活動は、2014年10月のオブザーバーの独占取材でアサンジが「我々はグーグル・軍監視症候群の誕生の証人となっている」と語ったように、彼らの活動の一縷の望みではない。
 
私はこれについて一年前に助言したのだが、「ウィキリークスはロシアの情報局の最前線だと認識をされるべきだ。多くの西側の「プライバシー権の宣伝者」等はこれと親密な関係を築くグループの一つだが、彼らとプーチンのスパイ機関との間接的な関係についての感想を聞いてみたらよい。かなり遅れたにせよ、西側のメディアがこれについて報道し始めた事は評価できる。
 
ウィキリークスの主な役割が、クレムリンの国際プロパガンダ装置であるということは、何も今に始まった事ではない。1978年には「コヴァート・アクション・インフォメーション・ブルティン」という雑誌は、西側諜報機関の秘密を暴露したかに見えた。この雑誌の編集者は、キューバとソビエトの諜報機関と親密になった、KGBのコードネームではポントと呼ばれる、フィル・アジーという不機嫌そうな元CIAの役人だ。実際、CAIB(コヴァート・アクション・インフォメーション・ブルティン)は、KGBの意向に沿って創刊され、何年もクレムリンの嘘と偽情報を流すパイプとして、西側の諜報機関に深刻なダメージを与えていた。

 

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CAIBは「内部告発」の真実を語るグループとして一般向けに宣伝をしていたのだが、その実情はKGBの情報捜査最前線であり、この雑誌が誰の資金によって支援を受けているか知っている者は、アジーの他にはスタッフ内でも殆どいなかった。ウィキリークスをインターネット版CAIBの最新号と考えるのは最も良い解釈だろう。クレムリンのセキュリティー上級役人が最近、スノーデンが自分たちのエージェントであり、スノーデンによってアメリカの秘密情報が漏えいされた事を認めた事からも、エドワード・スノーデンが今日のフィル・アジーである事は明らかだ。もっとも、アジーは雪の多いモスクワよりも、気候の良いハヴァナの方を希望するだろうが。
 
ここで重要となるのは、ロシアの諜報機関がウィキリークスの漏えいを通して、アメリカの大統領選挙に直接的に関わろうとした点だ。これは冷戦最中のKGBでさえ躊躇したであろう事だが、プーチンのあまりにも厚かましいアメリカに対する行動が明確に示すように、彼はオバマ大統領の下のワシントンへの恐れは何も感じていない。
 
民主党内の情報の漏洩が示す最も危険な面は、民主党とヒラリー・クリントンを妨害する為に、モスクワが偽情報を事実に含ませている点だろう。偽情報の流布はロシア・スパイの貴いトリックであり、そのターゲットとなっている者にとっては政治的な災害となる。
 
偽情報は、本質的には事実である情報に混ぜられる時、一番効果的だとされる。ヒラリーが腐敗している事に誤りはなく、誠実とは言えないし、民主党は実際に、怪しいやり方で彼女の指名を決め、彼女に関わる旋律を多くのアメリカ人に容易に信じられるような嘘をついている。モスクワがヒラリーよりもトランプを望んでいる事は明らかだ。プーチン派のアドバイザー(ポール・マナフォート氏など)がトランプ陣営に於いて重要な役割を担っている事を考えれば、驚くべき事ではない。トランプ陣営にとって、ヒラリー陣営への信頼を疑わせること以上の支援はないだろう。
 
明らかに、民主党から流出した膨大な量のe-mailのうち、最も不道徳なものは、当然のことながら、偽物である。ロシアのスパイ網が多くの実際のe-mailの中にきわどい偽のメッセージを混ぜる事は、普通に行なわれている。我々はここに、先日のウィキリークス事件の分析には、厳密に独立性を保っているアナリシスによって何が真実であり、何がモスクワの誰かによって意図的に作成されたものか査定する必要がある。
 
ヒラリーの犯罪やe-mailゲートでの嘘を詳細に渡って書いた通り、私は決してヒラリー支持者ではない。しかしながら、私はクレムリンとそのスパイ工作員によるアメリカの民主主義社会へのあからさまな介入には、はるかに大きな懸念を感じている。これは、ヒラリーが起こし得るどんな事をも超える、我々の自由への脅威である。全てのアメリカ人は民主党e-mail流出問題への徹底した捜査を求めるべきだし、主要メディアは、私が何年も行なってきたように、ウィキリークスが一体何なのか、その真に迫る調査報道を始めなければならない。私が行なってきたウィキリークスによる実際の反諜報活動の分析がメディアによって保証されているのを見るのには充実を感じているが、これらのメディアがもっと以前に注意を払い、今年の選挙における民主党の情報流出といった災害を避ける事が出来たら、もっと良かったと考えている。