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アジア・タイムズ記事と産経新聞の曲解

自民党の新憲法改正草案と自民党圧勝を書いたナショナル・レビュー誌による『ファシズムに逆戻りする日本』という記事に対して、アジア・タイムズが『日本保守派ロビィ・日本会議---心配する必要があるのか』という記事を掲載しています。
 

Japan’s conservative Nippon Kaigi lobby: Worth worrying about? – Asia Times

 

これについて、産経新聞の古森記者が以下の記事を書かれました。

 

f:id:HKennedy:20160724120001j:plain

 

【緯度経度】米欧メディアで目立つ「日本会議・安倍危険論」の間違い 古森義久(1/3ページ) - 産経ニュース

 

私の意見は、アジア・タイムズの記事に反対をするものではありませんが、この記事は、古森氏の書かれるように、「日本会議・安倍危険論…この種の悪玉論を正面から否定する主張」ではありません。
 
アジア・タイムズの記事を要約すれば「日本会議の影響力はそれほど高く無く、新憲法に彼らのイデオロギーを反映させることはないだろう」「自民党の憲法草案は、公明党の同意が得られない為に実現しないだろう」というものです。この意見には賛成をします。
 
しかしながらアジア・タイムズの記事は、安倍首相が軍国主義独裁者であるというような偏見は否定するものの、(尤も、ナショナル・レビュー誌がこのような偏見を安倍首相に対して抱いている訳ではありませんが)日本会議のイデオロギーが極右ナショナリズムの要因を抱えている事を否定していません。
 
また自民党の草案では「基本的人権の保証が、国民としての義務の遂行と引き換えに与えられている」と理解出来る事も否定していません。ただ「世論や公明党の反対によって、日本会議のイデオロギーが新憲法に反映するようには実現しないだろう」という予測を立てているだけで、ナショナル・レビュー誌が示す草案の内容に対する直接的な意見は述べることを避けています。
 
例えば、「報道の自由」という視点に対しては、
 
『安倍や日本会議が日本の報道の自由を抑圧しようとしている、という言い立てに対して: これまでも日本の主要メディアは、特定の課題(政治的腐敗、政府と産業界の癒着、組織犯罪と右翼による活動)などを報道する気概に欠け、調査報道をする力は無い。しかしながら今日でも、日本の主要メディアが、ワシントン・ポストのベン・ブラディー記者が言うように「男らしい」気概を持ってこれらを報道する事を妨げているものはないのにだ。』
 
と述べ、もともと日本のメディアは規制が無いにもかかわらず、調査報道をする気概も能力もない、と述べています。
 
ですから、ナショナル・レビュー誌が、自民党による憲法草案と、自民党の支持母体の一つである「日本会議」の主張によって、新憲法の文面に危惧しているのに対し、アジア・タイムズの記事は、日本の政治状況を鑑みた上で、自民党の草案や日本会議の主張がそのまま受け入れられるとは思われないので「実現する事はないだろうから心配する事は無い」としているのです。
 
古森氏の書かれた通り、確かに日本の政治事情に対しては、アジア・タイムズの記事を書かれたグラント・ニューシャム記者の見方が正確だと言えます。但し、アジア・タイムズの記事が憲法草案の内容については全く触れていない限り、自民党草案を「心配する必要はない」と解釈する事は出来ません。
 
また古森氏は、アジア・タイムズの記事を訳しておられる筈ですが、「日本会議も安倍氏も日本を戦前の軍国主義や帝国主義に戻すという政策などうたってない。安倍政権や自民党の内部でも意見は多様で、日本会議の主張に同意しない勢力も多い」という内容は、記事のどこにも書かれてありません。ニュアンス的に一番近いのは
 
「Can Nippon Kaigi turn Japan into what it wants to turn it into – assuming it even knows exactly what it wants? (Talk to ten Nippon Kaigi members and one can get ten different answers.) A degree of skepticism is warranted」
 
という箇所ですが、これは「日本会議は日本を自らの望むように変える事が出来るだろうか…彼らが自らの望んでいる姿をハッキリと理解していたらの話だが。(日本会議のメンバー10人を話せば、それぞれ違う10の回答が得られる。) いくらかの疑念が生じる。」という意味です。
 
或いは、
 
「And a good bit of commentary since Abe took over is afflicted with what Charles Krauthammer might call “Abe Derangement Syndrome” – a belief that Abe is Lucifer incarnate and an existential threat to Japan. His alter ego, Nippon Kaigi, is the latest proof of this, as if any more were needed. Once again, evidence is thin.」
 
という個所かもしれませんが、これは「安倍が首相の座についてから多くのコメントは、チャールズ・クラウサマーが言うところの『安倍錯乱症候群』と呼べる「安倍が人となったルシファー(悪魔)であり、実存する日本に対する脅威であるものだ」という信条だ。日本会議は安倍の分身であり、これに勝る証拠はない…。ところが、(このような主張を裏付ける)証拠は殆ど無い。」という文章です。
 
いずれにせよ、この記事の中にはどこを探しても、「日本会議も安倍氏も日本を戦前の軍国主義や帝国主義に戻すという政策などうたってない。安倍政権や自民党の内部でも意見は多様で、日本会議の主張に同意しない勢力も多い」と訳せる文章は見当たりません。
 
ですから、アジア・タイムズのニューシャム記者の主張を以て、「外国メディアが日本をどう描くかを知ることは日本にとって欠かせないが、その描き方が多様であることも改めて銘記すべきだろう」と導き出された結論が、「自民党草案に対する外国メディアの書き方にも多様性があり、草案を支持する外国メディアもある」というニュアンスであるとすれば、それは早計であるどころか、自らの英語力でニューシャム記者の書いた記事を読むことのない読者に対する一つの情報操作であると言えます。
 
日本の保守派の中には、特に歴史問題に関して、「誤解をされている」という声があがります。「誤解が解けるように、何とかしたい」という声がある一方、同時に「誤解をする方が悪い」とでも言いたそうな意見も聞きます。古森氏は、ナショナル・レビュー誌の記事を書かれたジョシュ・ギャランター記者を指して「日本関連分野ではほぼ無名」とされます。確かにその通りかもしれませんが、ギャランター記者の懸念のもととなっているのは、自民党草案であり、主だった自民党議員の主張であり、支持母体となっている日本会議の主張です。
 
誤解を解きたい…と心ある日本国民が動く傍ら、「誤解をする方が悪い」と言わんばかりに挑発的な主張を繰り返す、一部政治家、活動家、言論人の責任は問われるべきでしょう。