クレムリンの影が見え隠れする、トランプ氏の外交アドバヴァイザー達

ドナルド・トランプ氏の軍事戦略の知識をどこから得ているかについて、昨年トランプ氏は『ミート・ザ・プレス』での質問に答える形で、「テレビです」と答えています。

 

先月、『モーニング・ジョー』に出演した際の「外交政策について誰に相談をしているか」という質問に対しては、「自分自身です。まず第一に、私は素晴らしい頭脳を持っています。また私は今までにさまざまな発言もしてきました」と答えました。

 

先週の水曜日、トランプ氏はトランプ氏の外交方針に関する演説をメイフラワー・ホテルに於いて、ワシントンのシンクタンク『センター・フォー・ナショナル・インタレスト』の後援で、なぜか駐米ロシア大使を前列に招いたうえで行ないました。

 

(トランプ氏の演説の内容である外交方針は、以前にワシントン・ポストに語った内容とほぼ同じ内容ですので、ここでは省略しますが、内容は以下の通りです。)

Read Donald Trump's 'America First' Foreign Policy Speech

 

トランプ氏の外交方針を語ったこの演説の枠組みは、ポール・マナフォート氏によって書かれましたが、彼はプーチン・ロシア大統領の傀儡と呼ばれていたウクライナのヴィクトール・ヤヌコヴィッチ前大統領のコンサルタントとして長年働いていた人物です。ヤヌコヴィッチ前大統領は、EUとの貿易の合意署名を直前に拒否し、2014年のウクライナ騒乱のきっかけを作りました。この騒乱によってヤヌコヴィッチ前大統領はロシアへ亡命しましたが、前大統領の鎮圧命令により、約100人の反対派住民が治安部隊によって殺害され、約1100が負傷しています。

 

f:id:HKennedy:20160503135427j:plain

                        ポール・マナフォート氏

 

マナフォート氏にはその後、ヤヌコヴィッチ前大統領のネガティブなイメージを改善する為に高い給与が支払われたことが分かっています。


また、トランプ氏の外交方針指針演説の下書きをする人物として、マナフォート氏が選挙陣営に加わるように協力を求めたリチャード・バート氏は、センター・フォー・ナショナル・インタレストの役員であり、ロシア・アルファ銀行の相談役の一人でもあります。

 

   f:id:HKennedy:20160503135712j:plain

                             リチャード・バート氏

 

バート氏は、共和党から指名選に立候補をしていたランド・ポール議員の選挙キャンペーンに参加をしていましたが、マナフォート氏の誘いで、トランプ陣営に加わったようです。ランド・ポール議員は外国の紛争にアメリカが介入することに反対する「アイソレーショニスト」として知られ、アメリカの一国平和主義を掲げています。

 

またバート氏は、センター・フォー・ナショナル・インタレストの機関誌でのインタビューに対し、アメリカの同盟国による『タダ乗り』の問題を訴え、シカゴ大学のジョン・メアーシャイマー教授との「アメリカに同盟国は必要か」というパネルディスカッションを開いている人物で、トランプ氏の「アメリカを一番に」という政権運営のテーマに共感をしていると語っています。

 

因みに、トランプ氏の演説の後援をしたセンター・フォー・ナショナル・インタレストと言うシンクタンクは、親ロシアのシンクタンクとして知られ、その代表のディミトリ・シムズ氏は、プーチン大統領が「アメリカにおける私の友人であり、同僚である」と評した人物です。

 

               f:id:HKennedy:20160503141103g:plain

                                 ディミトリ・シムズ氏

 

2012年の大統領選挙で共和党候補者となったマサチューセッツ州のミット・ロムニー知事は、「中東におけるアメリカの軍事プレゼンスの縮小は、地域の治安悪化だけでなく、同地域におけるロシアの台頭を招く」と警告しましたが、現職のオバマ現大統領は「ロムニーは80年代に終わった政策を蘇らせようとしている」と笑い飛ばしました。

 

現在では、シリアのアサド政権に対する発言権はロシアにあり、2013年にアサド政権が行なった3000人にも上る自国民への虐殺も看過されています。シリアにおけるISISなどイスラム教過激派の勢力争いの為に、多くの住民が犠牲となっている事もよく知られている事実です。

 

ロシアと戦争を行なうべきだとは主張しませんが、「同盟国でない」国の、しかも専制主義国でない国の大統領に対するアドヴァイザーを務めた人物らの意見に従って自国の外交政策への方針を決めようとするトランプ氏の真意が疑われます。

 

  f:id:HKennedy:20160503150239j:plain

                                  ドナルド・トランプ氏

 

「アメリカを再び偉大な国とする」とするスローガンとは全く逆の方向に進むトランプ氏の政策ですが、彼が今までに獲得した選挙人は956人であり、共和党からの指名を得るにはあと200人以上が必要となります。トランプ氏に関する批判や問題は多くあるものの、トランプ氏がトップであり続ける背景には、多くの支持者にとっては、テレビに出てくる娯楽的なトランプ氏で充分であり、政治や外交関連の情報誌などには目を通さないの事が考えられます。

 

尤も、トランプ氏の打ち出した外交政策に関する演説に対する批判は、バート氏が、どの外交専門の評論家よりもいち早く支持を表明し、「トランプ氏の掲げた政策にどんな欠点があったとしても、テッド・クルーズ議員よりは優れている」とメディア対策を行なったことは言うまでもありません。