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アメリカから見た第二次世界大戦 (1)

最近は、第二次世界大戦を昭和天皇、226事件、陸軍穏健派から見て参りました。 再び日本から見た視点に戻る前に、視点を変えてアメリカから見てみたいと思います。

 

「アメリカがなぜ日本となったのか」という視点は、考えられているようで見落とされている視点かもしれません。これを説明する為に、「ヨーロッパの戦争に参入する為」、「中国における自国の利権を守る為」という主張をよく聞きます。またアメリカ国内の「人種差別」を持ち出して第二次世界大戦を「人種戦争」とする理解もあるようですが、この理解は正しいものでしょうか。

 

これらの主張に対する意見を、順を追って述べてみたいと思います。

 

まず「ヨーロッパの戦争に裏口参戦する為に、真珠湾攻撃を仕掛けさせた」という主張は『陰謀説』として知られ、反ルーズベルトを掲げる人々や、結果から見た陰謀説に惹かれる人々から引用されています。

 

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この陰謀説が全く説得力を持たない理由には、対日戦がすなわちヨーロッパ戦の扉を開かないことが挙げられます。三国同盟は、日本が先制攻撃、侵略戦争を行った場合、ドイツに参戦の義務はありませんでした。

 

ですから陰謀によって日本に先制攻撃をさせても、アメリカがドイツに宣戦布告することは議会の承認が得られなかったでしょう。ドイツの参戦を促すためには、日本が先制攻撃を仕掛けられる必要こそあれ、日本の先制攻撃は不必要なだけでなく、被害による怒りの感情がルーズベルトの外交政策批判にも向けられる可能性を考えれば、ルーズベルトとしては、リスクが大きい割に、効果の確約が少ない計画だと言えます。

 

またルーズベルト大統領は、大変な海軍贔屓の大統領でした。真珠湾攻撃の為に犠牲となり、また責任を問われたアメリカ海軍の将校たちは、任務に忠実な将校たちで、これらを犠牲にしても「外国の戦争」に参入することは、北朝鮮や中国共産党の支配下ならばともかく、選挙を控えた民主主義国家では出来ません。

 

実際には真珠湾攻撃の3日後に、アメリカはドイツから宣戦布告されています。このドイツからの宣戦布告は、アメリカには驚きであり、政府も議会も全く予期していなかったことを歴史家のアンドリュー・ロバーツが記しています。

 

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またアンドリュー・ロバーツは、アメリカの意識としてドイツに対するヨーロッパの戦争に参戦する意図があった事は認めていますが、アジアとヨーロッパの『二方面』での戦争は全く予定していなかった点を挙げて、この説が真実味の無い事を主張しています。当時、アメリカの軍事力は、今のように世界第一位のものとして確立されておらず、ヨーロッパの戦争とアジアの戦争を同時に行なうことは、戦略的に不都合であって、出来れば避けたいと考えていたようです。多方面の戦争に突入する犠牲や負担を考えれば、日本との戦争は避けるか、少なくとも後回しにする必要があったでしょう。

 

Home - Andrew Roberts, British historian, British history writer, Masters and Commanders, A History of the English Speaking Peoples since 1900

 

また、もしルーズベルト大統領が、「ヨーロッパ参戦の為」に「日本に先制攻撃を仕掛けた」とすれば、日本の先制攻撃の後にドイツにも戦争を仕掛けられるように、ドイツ側に働きかけていたこととなります。日本が先制攻撃をした際にはドイツも参戦するという約束は、日本とドイツの間にはありませんでしたから、そのような情報をアメリカが得ていた証拠はありません。もし三国同盟の義務以上の参戦を決断させる政策の中枢にルーズベルトのスパイがいるとしたら、わざわざ戦争をせずに、ドイツの政策を変えるほうが容易だったでしょう。

 

私はルーズベルト大統領を庇い立てする義理も好感も持っておりませんが、日本に先制攻撃を仕掛けさせ、ヨーロッパの戦争に参入するという説は、大の海軍贔屓の大統領であったルーズベルトの『陰謀』として、説得力に欠けます。

 

真珠湾攻撃の為に犠牲となり、また責任を問われたキンメル司令官を含めるアメリカ海軍の将校たちは、任務に忠実な将校たちであり、彼らを犠牲にしても「外国の戦争」に参入することは、北朝鮮や中国共産党の支配下ならばともかく、選挙を控えた民主主義国家にはできません。

 

また議会民主主義国家である米国では、たとえ戦艦を壊滅させても、議会や世論の動向によっては、開戦に至るかどうか、大統領が前もって確信することは出来ません。間違えば、このような米軍の失態は、最高責任者としての大統領としての資質を問われ、支持率の低下だけでなく、これらの陰謀が露見された場合には、大統領は法的責任を問われ弾劾裁判となります。

 

加えて、一口に『陰謀』と言っても、これらは大統領一人で計画し、実行することは現実には出来ず、必ず海軍や議会など至る所で共謀者が必要となりますが、「真珠湾攻撃を事前に把握」していながら「それをハワイのキンメル司令官に知らせず」、戦艦を全滅させたのち「対日戦を議会に承認させた」となれば、ルーズベルトはアメリカに対して犯罪を犯している事となります。当然、共謀者も犯罪者として法的責任を問われる事となり、政府、議会、軍、司法をあげての共謀犯罪となっていたでしょう。

 

果たして、海軍や戦艦を犠牲にするような国家に対する犯罪に対して、これだけの協力者が得られるでしょうか?

 

アメリカの政治事情は、民主党政権の行動をのちの共和党政権が厳しく批判し、撤回すること、またその逆も多々ありますが、民主党政権であったルーズベルト大統領の『陰謀』が、大々的に暴露され、糾弾されなかったことを考えれば、『陰謀』があったとする主張は、事前には予測不可能だった出来事の点と点をつなぎ合わせてストーリー仕立てにする『結果から見た陰謀説』と言えます。