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「安倍談話と慰安婦合意は、ナチスのホロコーストに該当する戦争犯罪を犯したと認める事になる」のか? 中西氏への反論 ⑤

中西氏の「日韓合意」に対するご不満や不支持はともかく、「安倍談話と慰安婦合意は、ナチスのホロコーストに該当する戦争犯罪を犯したと認める事になる」というご意見に、反論を致します。 ⑤、

 

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『実際、八月に出された「七十年談話」と十二月の「慰安婦合意」は、実は次のような恐るべき点において、一体のものとして結びつき、今や安倍首相の予想を超えた形で世界において受け止められている。すなわち「侵略戦争」を認めた八月の談話と、「数十万にのぼる女性を軍隊によって拉致し性奴隷化した日本」が七十年目にようやくその責任を認めた、とされた「慰安婦合意」は、一体となって、次のことを世界に定着させることになった。すなわち第二次世界大戦に於いて日本が犯した罪は、ナチス・ドイツ同様まさしくホロコースト=「人類悪」に該当する戦争犯罪だということを日本の指導者が正式な形で認めたこの点に、「七十年談話」と「慰安婦合意」の本質がある、と世界は受け止めているのである。それゆえに、その責任追及に関しては「時効」はあり得ず、日本と日本国民は------ドイツ人がそうするよう迫られているように------今後も永久に謝罪し続けなければならない宿命を新たに背負わせられたということである。

 

 ホロコーストなど「人類悪」としての犯罪とされるものに時効がないのは周知の事であろう。あのような談話を出せば、子孫が謝罪の宿命から解放される事などあり得ないのである。まさに「知らぬは日本人ばかりなり」という事なのだ。強固な東京裁判史観の持主でさえ、戦後日本では長く、「日本はホロコーストとは無縁のはず」と呑気に構えていたところがあった。いや、もしかすると、今もそうかもしれない。しかし、この安倍談話の侵略論と慰安婦合意に、さらに「南京大虐殺」が加わると、それらは日本によってもたらされた一連のものとして、「東アジアのホロコースト」になることは火を見るよりも明らかである。

(中略)

 そして、「戦争の苦痛を嘗め尽くした中国の皆さんや、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さん」に対し、日本の首相が七十年も経って尚、平身低頭の全面謝罪をしている姿を見れば、世界中の人々が「ああ、日本はヒトラーやナチス・ドイツよりも悪いことをしていたんだ」「七十年隠し続けてきた極悪の戦争犯罪をようやく認めたんだ』と誤解しても当然だ。これを「人道に対する罪」と言わずして何と言うか。」(歴史通5月号103~104頁)

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中西氏が『これを「人道に対する罪」と言わずして何と言うか。』と仰いますので、何と言うべきか、私なりに考えましたが、まず「大きな誤解」だと申し上げます。勿論、安倍首相の談話が「人道に対する罪を犯したと認める事となる」と仰る中西氏が「大きな誤解をされている」という意味です。

この引用の中に、中西氏は「世界」という言葉を繰り返されていますが、実際に「世界」がどう考えているか、実例を挙げられていません。それもそのはず、「世界」は中西氏が仰るように、「第二次世界大戦に於いて日本が犯した罪は、ホロコーストに該当する戦争犯罪だということを日本の指導者が正式な形で認めた」と受け止めるどころか、保守派メディアのウォール・ストリート・ジャーナルのようなメディアでさえ「謝罪としては充分ではない」と受け止めているからです。

Japan’s Abe Stops Short of Direct Apology Over World War II - WSJ

 

ただし、オバマ政権は、「第二次世界大戦時の日本によって生じた苦しみを被った人々に対する安倍首相の悔悟の念」を、政府として「歓迎する」としています。

World War II Anniversary Opens Old Wounds in Japan Over How Much to Apologize - WSJ

 

ディプロマット誌は日本人学者によって書かれた『安倍談話の読み方』という記事を掲載していますが、謝罪としては充分でないという書き方です。

How to Read the Abe Statement | The Diplomat

 

ワシントンポスト紙は、「安倍首相は戦時中の日本の行ないへの悲しみを表現しながらも、多くの人を喜ばせようとした為に、結局誰も満足できない談話となってしまった」と書いています。

With WWII statement, Japan’s Abe tried to offer something for everyone - The Washington Post

 

但し、共同の報道によれば、安倍首相の談話は、37%の日本国民が不満を示したものの、44,2%が支持を示しています。

Support for Japan's Abe bounces after 'utmost grief' for war statement: poll | Reuters

 

「世界」は、中西氏が仰るように、安倍談話に対して「ナチス・ドイツ同様まさしくホロコーストに該当する戦争犯罪」を日本が犯した事を認めたとは受け取っていないだけでなく「哀悼の意を表しつつも何の新しい言葉も加えていない(ニューヨーク・タイムズ)」と突き放しています。

http://www.nytimes.com/2015/08/15/world/asia/shinzo-abe-japan-premier-world-war-ii-apology.html?_r=0

 

勿論、これらのメディアは、日本がナチス・ドイツの犯したホロコーストのような人道に対する罪を犯したなどとは全く書いてありません。このような単純な曲解は、すべて中西氏のお考えにあるだけです。

欧米の歴史学者やメディアも「南京の虐殺」を実際にあった事だと認めていますが、これを「ホロコースト」と比較されるべき「人道に対する罪」とは考えていません。かの有名なアイリス・チャンが、「レイプ・オブ・南京」に「忘れられたホロコースト」という副題をつけた時には、著名な歴史家であるデイビッド・ケネディー教授などが「南京での事件は、ホロコーストの類のものではない」と反論しています。

The Horror - 98.04

http://www.palgrave-journals.com/ip/journal/v42/n4/full/8800111a.html

 

もっとも、「南京虐殺」という戦争中に起こった虐殺が、「ホロコースト」という『人道に対する罪』、あるいは『民族浄化』に同列に語られるとすれば、その唯一の理由は、双方とも実際に起こった事件であるにも拘らず、両国内のナショナリストによって否定されていることにあります。

 

但し、「世界」のメディアは安倍首相の談話を、謝罪として充分であるとは考えていませんが、「だから日本はもっと謝罪をしなければならない」とも主張してはいません。

中国や韓国の不満を報道する事があっても、欧米の専らの関心は、これからの極東アジアに於ける日本の軍事的役割の変化、つまり、日本が極東アジアの安全保障に於ける主導的役割を果たすことにあります。

A Chance to Bolster Australia-Japan Military Ties - WSJ

India, Japan close in on military pacts as Abe visits | Reuters

Japan and Philippines Sign Defense Agreement Amid Growing Tensions in South China Sea | The Diplomat

 

歴史認識にお忙しい中西氏は、70年前に終わった戦争の為に、日本を未来永劫に渡って非難し続ける余裕が世界にあるとお考えになっていらっしゃるのかもしれませんが、実は現在進行形の『人道に対する罪』である『民族浄化』は、シリアやイラクにおいてキリスト教徒を相手に行なわれており、イスラム教過激派のテロを考えれば、『南京』や『慰安婦』に紙面を割く余裕は欧米メディアにはありません。

 

特に、最近のヨーロッパの移民問題とテロの問題は、シリアからの難民の受け入れによって、さらに混迷を極めており、難民受け入れによってホロコーストの贖罪をしようとしたドイツの罪悪感は歓迎されていません。


また、国連のようにイスラム教国に牛耳られている組織は、毎年イスラエルを「最大の人権侵害国」として非難する決議を採決しています。

 

良いか悪いかは別として、「世界」は明らかに変化をしています。

 

蛇足ながら欧米のメディアは、「日本が人道に対する罪を犯しつつ、それを必死で隠している」とは考えておりません。実際に、政府は戦争犯罪を犯したと認めており、日本は世界の平均よりも多くの謝罪を行なってきたと考えています。

http://thediplomat.com/2013/11/why-are-japans-apologies-forgotten/

それでも時折問題視されているのは、明らかに起きた犯罪は起きなかったと否定する中西氏のような「否定派」と、政治目的の達成の為に、決して前進しようとしない近隣国の主張です。

犯罪が起きなかったと否定する主張も、前進しようとしない姿勢も、安全保障という問題を取り上げる保守派メディアには、危険なお遊びのようなナショナリズムだと受け取られています。