読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ダグラス・マッカーサーの議会発言、 "Their Purpose, Therefore, in Going to War Was Largely Dictated by Security"

 

マッカーサーを証人として招いての議会公聴会の内容は、6時間に及ぶようで、その全体像を把握することは非常に困難を極めますが、手元に資料を持っておりません。

 

有名な『マッカーサー発言』の、「本当に仰ったのだろうか」と疑問に思える部分の資料が入手できないので、果たして本当に、「過去 100年に米国が太平洋地域で犯した最大の政治的過ちは共産勢力を中国で増大させたことだ。次の100年で代償を払わなければならないだろう」と仰ったのか、仰ったとしたら、どのような文脈で仰ったのか、またそれは産経新聞の主張通り、「『これは「米国は戦う相手を間違った。真の敵は日本ではなくソ連や中国共産党だった』と言っているのに等しい」と言えるものなのか、判断がつきません。

【戦後70年~東京裁判とGHQ(5完)】老兵・マッカーサーはなぜ「日本は自衛の戦争だった」と証言したのか… - 産経ニュース

 

ただし、日本の方が取り上げられ、好んで引用される日本が戦争に行った動機とした『security』を、軍事的な意味だけの『安全保障』と訳していることについては、正確な訳であるとは言えません。まして『侵略戦争ではないとマッカーサーが認めた』と主張し得るものでもありません。

 

英語のsecurityには、『担保』という意味があります。不動産契約を結ぶ場合には、security depositが要求されますが、これはもちろん国防の意味を持つ安全保障とは関係がありません。「担保を取ることによって貸主が安心感を得る」という意味でしょう。

また物資を充分『確保する』場合にも、secureという動詞が使われます。これは充分な物資が確保されて初めて『安心』を感じるからでしょう。

 

                     f:id:HKennedy:20160316164622j:plain

 

かかる部分の原本は以下の通りだとされています。

『There is practically nothing indigenous to Japan except the silkworm. They lack cotton, they lack wool, they lack petroleum products, they lack tin, they lack rubber, they lack a great many other things, all of which was in the Asiatic basin. They feared that if those supplies were cut off, there would be 10 to 12 million people unoccupied in Japan. Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security.』

『実質的に、蚕以外には、日本で原産されているものはありません。彼らには綿がありません。石油製品がありません。錫がありません。ゴムもありません。彼らは、アジア大陸の盆地にあった、その他の多くのものも持っていませんでした。彼らは、これらの供給が断たれたら、1000万から1200万人の失業者を 生むと恐れたのです。ですから、彼らが戦争に行った理由は主に「security」の為だったのです。』

 

この『セキュリティー』の部分ですが、この単語には、『確保』『担保』『安全』『安心』などが含まれます。軍事的な安全保障だけでなく、経済的、及び物質的な必要を確保して万全に備える、という意味合いを持ちます。また単に『安全保障』と言う時、アメリカでは大抵『National Security』という言葉を使います。

マッカーサーの演説の中での『Security』という言葉は、「絹以外の原産品が殆どない日本が、アジアに豊富にある物質の供給が立たれた場合、国内に多くの失業者を生むと恐れ、必要に迫られてアジア大陸に戦争に行った」という意味の文中に使われているのですから、一番正確な意訳は『国内の治安維持・安全』ではないかと思います。

 

「物質確保も立派な自衛戦である」という意見もありますし、ある程度私も同意致しますが、「生存を賭けた自衛」というよりは、「国に失業者があふれ、三流国となることを避ける為の自衛」だったと思われます。日本が物資確保の為に戦争を行なったという意味のマッカーサーの意見は米国内でそれほど目新しいものではなく、同じ意見はすでに米国内でも知られていました。

 

最後に、この発言がなぜ日本の侵略戦争を否定したものではなかったのか、また一部の方々の間で主張されている通り、「米国こそ侵略戦争を戦ったのだと認める内容」でもない理由を述べさせて頂きます。

 

まずマッカーサーは、日本が原料物資の確保の為に他国へ進出して行った事を明確に述べています。

実際の例えを挙げてみます。現在、北朝鮮は経済制裁を受けています。北朝鮮の 経済状態を考えるなら、彼らこそ、物資確保の為に他国へ進出しても「生存を賭けた戦争であった」と主張できるでしょう。しかしながら、果たして経済封鎖をされた国の軍事行動は『侵略戦争ではなく、自衛の戦争だ』と認められているでしょうか。しかも経済封鎖をする事は、先制攻撃、或いは侵略戦争を仕掛けた事と同様に解釈されているでしょうか。

 

少なくとも日本はそのようには解釈をしておりませんし、アメリカも同様です。

 

加えて、1951年と言えばアメリカはベトナム戦争の最中です。マッカーサーは更迭されたとは言え、時期大統領選に立候補している身でした。マッカーサーが主張していたのは、中国に対する海空封鎖という提案であり、「その提案は、太平洋戦争で日本に勝利をおさめた時の戦略と同じではないか」という質問 に、「その通りです」と応える形で、日本についての言及をしています。

 

マッカーサーの発言は、中国に対する封鎖は日本の海空封鎖より容易であること、また日本より経済が貧弱である為、大衆の不満が高まり国中が混乱に陥る事が考えられ、やがては中国を戦争に駆り立てる事が出来るという趣旨に続きます。

 

マッカーサーは勿論、中国を戦争に駆り立てるだけでなく、中国に対して勝利を収める事が出来ると議会を納得させる必要がありました。ですから、日本が戦争を行なった動機が「自衛戦であったかどうか」という議論はともかく、「日本に対する戦略が成功を収めたように、中国に対しても同じ戦略を用いて勝利することが出来る」と主張しているのです。

 

このような流れの中での発言ですから、「侵略戦争を行なったのは、日本ではなく、アメリカです」というような謝罪の意味を含んでいる筈がありません。

 

この『マッカーサー発言』を恣意に解釈し、しかもご丁寧なことに『天国のマッカーサーから日本の皆さんへの謝罪の言葉』まで加えて、マッカーサー発言とするユーチューブ・ビデオまで流出しているようです。

 

ここまでくると、『恐山のイタコを通してマッカーサーが日本に謝罪した』、或いは、『交通安全の腹話術人形のタロー君を通してマッカーサーが謝罪した』と主張するのと同じくらい意味のない動画だと思うのですが、もしかすると、イタコを通した謝罪でも、タロー君を通した謝罪でも、心の傷ついた方々にとっては、意味があるのかもしれません。