モガディシュの戦い

いくつかに分けて書いた、1994年のルワンダの虐殺・民族浄化ですが、たった100日間の内に約80万人から120万人とも言われるツチ 族と穏健派フツ族が虐殺された理由には、虐殺を止める勢力が存在しなかった事が挙げられます。具体的にはアメリカが軍事介入をせず、国連のPKOに任せた事が原因だと言われています。

 

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アメリカがルワンダに軍事介入をしたくなかった理由の一つは、同時期に起こっていたボスニア・コソヴォの内戦へ既に軍事介入をしていたからですが、もう一つの理由に1993年に起こったソマリアの内戦での『モガディシュの戦い』があります。

Battle of Mogadishu (1993) - Wikipedia, the free encyclopedia

 

ソマリアでは、1991年に起きたバーレ大統領追放により、ソマリア全土に各勢力の内部抗争、内戦が激しくなり、農業生産が壊滅状態に陥りました。その為、国内に30万人とも言われる餓死者を出し、150万人が飢餓に苦しむ事となります。

 

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国際社会は国連を通し食糧援助を行ないますが、その約8割が武装民兵組織に奪われ、飢えに苦しむ一般人の為の食料は、武装民兵らが更なる武器を調達する為の物々交換に使われていきました。

1992年7月、国連は、食糧援助が飢えで苦しむ一般避難民に行き渡るように、50の部隊を派遣します。

 

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1992 年12月、国連の国連安保理はPKO国連ソマリア活動のため、アメリカ軍を中心とする多国籍軍を派遣しますが、民兵を率いるアイディード将軍は国連に対して宣戦布告し、国連パキスタン軍を攻撃して24名の兵士を殺害しました。これに対し米軍は、アイディード派幹部拘束を目的とした作戦を実施します。

 

米軍は19名の死者を出し(そのうち1名は国連PKO参加)、二人の米兵の遺体がソマリアの市民と民兵によって裸にされて市中引きずられる映像が、米国のテレビで放映され ました。その残虐さに米国内がパニックを起こし、外国の戦争、特に第三国の紛争には巻き込まれたくないという世論の高まりが起こります。

 

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激しい応戦に遭い、初期の目標は達成したものの、18名の米国兵士とマレーシア兵士1名を失ない、73名の負傷者を出した『モガディシュの戦い』の為に自信をなくし、外国の紛争に巻き込まれたくないという世論を抑えきれなくなった米国が撤退を決定すると、主軸を失なった国連活動も全て撤収する事となります。

 

1995年3月、中央政府も無く、首都も二分されたままで最後のPKO部隊が撤退し、国際社会がソマリア内戦に介入することが非常に困難であることを証明したのです。

 

クリントン政権が見せたソマリアからの早期撤退は、その後、ルワンダの過激派フツ族、スロボダン・ミロシェヴィッチ、ビン・ラディン、サダム・フセインら の考えに影響を与えることとなります。彼らは「少数の欧米兵を殺して彼らの遺体を曝け出せば、欧米軍は撤退する」と学び、米軍の介入を恐れなくなります。

 

ルワンダではその通り、まずターゲットに、最も多くの人数と洗練された武力を誇っていたベルギー部隊が狙われました。

 

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国連PKOの指揮の下、反乱軍に対して発砲を許可されなかった10人のベルギー兵たちは、拷問の末、惨殺され、彼らの死体はバラバラに切除されま す。それを受けてベルギーはルワンダから撤退する事をいち早く決定しますが、一国だけの撤退で弱気を晒すことを嫌い、全欧州部隊を巻き込んでの撤退をしま す。

 

自国の兵士に対して発砲の許可すら与えなかった国連に対して、ベルギーは後に説明責任を求めますが、アナン国連事務総長は、ベルギー議会に招かれたロメオ・ダレール指揮官に証言する事を許可しません。

 

ソマリアやルワンダで起きた内戦・虐殺の現実を直視するならば、最も酷く規模の大きい虐殺は、『国際社会の介入によって紛争が解決される』事を信じる人々の主張通り、国連主導の介入の下で行なわれ、米軍は早期撤退か、不介入に徹していた事がわかります。

 

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余談として、避難民として飢えから逃れ西側に亡命するソマリア人に国際社会は同情し、欧州は彼らを移民として迎え入れますが、母国での民兵による虐殺や深刻な飢餓から逃れたソマリア人難民は、移住先である欧州に於いて、深刻な問題をもたらします。

 

スウェーデンに於けるレイプ、輪姦の殆どは移民、しかもイスラム教国からの移民であり、その中にはソマリア人も多く含まれています。

 

www.gatestoneinstitute.org

 

スウェーデンの政府や警察当局が、加害者の身元を公表したがらない理由は、こういった事情にも関係するのかもしれません。

 

このような現実の国際社会の複雑さ、被害者と加害者が交差し合う複雑さは、『国連』や実態の無い『国際社会』に期待する解決策がいかに甘いものか、厳しく教えてくれます。

 

同時に「米国は戦争が好きな国」「米国は自国の軍事産業の利潤の為に戦争を起こす」などの主張は、無責任で現実を無視した幼稚な陰謀説であると言わざるを得ません。