日米の政治事情  保守派が保守派でなくなる時

私はアメリカの政治事情や日本の諸事情に関して、日米両国の人々と、議論をする事がしばしばあります。

最近は、大統領選、また党の指名選において、トランプキンやトランボットと揶揄される、ドナルド・トランプ氏のサポーターの方々と議論を交わしています。
左翼の人々と直接議論を交わすことはありませんが、彼らの主張を目にする事もあります。

こうした議論の中で、保守派とは何か、愛国者とは何かを考える事がありました。

-----

ここからは厳しい批判になりますが、私は日本の「保守派」と呼ばれる方の議論が、多くの場合、理念や理想に囚われているだけで、現実に基づいていないもの だと考えています。保守派とは、定義からして、現実や経験からくる知恵を重視し、イデオロギーやスローガンに囚われない方々を指すはずですが、日韓合意を 結んだことからくる安倍首相批判などは、現実よりもイデオロギーや、感情に支配されたものだと考えています。

 

現実よりもイデオロギーや怒りの感情に支配される時、殆ど意味を持たない美辞麗句のスローガンや、強硬な意見や精神論が正当的、愛国の主張であるかのよう に取りざたされる傾向があります。大抵、現実的な妥協を図ろうとする政治家は裏切り者、売国奴であるかのように非難され、実現不可である強硬スローガンを 掲げる政治家が、まるで愛国者であるかのように持て囃されます。

 

f:id:HKennedy:20160227142854j:plain

 

このような、保守派の一部が過激化した傾向は、現在のアメリカにも見られ、実現不可能なスローガンを面白半分連発するトランプ氏が、何故か「愛国者」と呼ばれ、諸問題を認識し、現実との妥協を図ろうとするマルコ・ルビオ議員のような保守派は「生ぬるい」と非難されます。

 

彼らの怒りや不満を代わりに主張してくれるトランプ氏への支持は、自分たちこそ被害者であるという意識を養分として、一刻も早い救済を約束してくれる候補 者のスローガンに基づいていますが、彼らの被害者意識を増長させる為に、トランプ氏は「エスタブリッシュメント(支配階級、既存政治家)の陰謀」を主張 し、アメリカはエスタブリッシュの為に食い物にされており、これを救い出すにはアウトサイダーであるトランプ氏でなければならないと信じ込ませます。

 

よくよく考えてみれば、トランプ氏こそエスタブリッシュメントなのですが、一度信じ込んでしまった『愛国カルト』は、疑う事を『もっと大きな敵(ヒラリー・クリントン)に対する戦いを頓挫させる売国行為とレッテルを張り、事実に基づいた議論を避けます。

 

トランプ氏の掲げる「メキシコとの国境に沿って壁を建て、メキシコに支払わせる」案は、必要不可欠な公約としてトランプ氏支持者を狂喜させていますが、ト ランプ氏の掲げる多くの公約と同じように、実際にどのような段階を経てこれらを実現する事が出来るのか、支持者は考えていません。

 

被害者意識、陰謀説、手段のないままの精神論を強調した強硬論は、日本の過激保守にも見られます。

 

安倍首相の取り付けた日韓合意を批判するものの、では韓国との協力関係なしに、どのように中国や北朝鮮からくる軍事脅威に対処をしていくのかという現実の議論が避けられます。

 

f:id:HKennedy:20160227143113j:plain

 

強硬説を正当化するために、日本こそ被害者であるという被害者意識が高められていますが、現実の軍事脅威に対処していくのかという手段はなく、最近では軍事的脅威ですら「米国によって意図的に作り出された陰謀である」という陰謀説が臆面もなく主張されています。

 

トランプ氏の支持者は、日本からはどのように映るでしょう。狂信的信者と映るのか、右翼と映るのかわかりませんが、安倍首相批判に明け暮れる日本のナショナリストも、アメリカからは、同じように見られています。

 

「現実を無視した強硬・愛国スローガンに靡く」という共通点は、確かにあります。

現実の人間社会は、強硬派による革命でも起きない限り、現実との妥協によって穏やかに変化を果たすべきであり、少なくとも「保守派」である限り、強硬手段によって生じる困難を避ける為、できるだけ穏やかな変革を試みなければなりません。

 

「具体的な実現可能の策があるか、またその策は、大多数の国民の支持を得るものか」という視点を無視した愛国・憂国スローガンは、左翼の良心的/平和的スローガンと同じように、中身がないだけでなく、危険なものであり、間違っても保守と呼ぶべきものではありません。