IWGレポートについて、

私は2014年の9月11日、当時一緒に活動していたアメリカ人と、ワシントンDCにある国立文書館へ行きました。そのアメリカ人に言わせると、「公開されたアメリカの文書の中に慰安婦問題に関連するものがあるに違いない」という事で、慰安婦問題に少しでも進展があればという考えで計画されたものです。私の私費で全てが賄われ、他のジャーナリストや新聞社は一切関わっていませんし、誰かの『調査団』だった事もありません。
 

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国立文書館と言っても、図書館のように、資料を手に取って見られるものではなく、全てコンピューター内の情報です。そこで、『探そう』と言われても、何をどこから手をつけて良いかわかりませんから、コンピューターの画面を前に手間取っている間に、先のアメリカ人が『大変な資料を発見した』と言ったのが、このIWGレポートです。 (IWGのレポートというものは、他にも多く存在し、今話題に上っているレポートはNazi War Crimes & Japanese Imperial Government Records Interagency Working Groupと呼ばれるものです。)
 
彼はこれを「大変な発見である」と言い、それまでに話題に上った事もありませんでしたが、実はその纏めのレポートは、2007年以来、インターネット上でダウンロード出来る資料です。
 
このレポートは、その纏めで書いてある通り、膨大な850万ページに上る合衆国連邦政府管轄の資料の中から、CIAの諜報作戦に関する資料など新しく公開された資料も含め、ナチス(と日本)の戦争犯罪について調査を試みられたものですが、その資料の多くは冷戦の終了と共に公開されたナチス関連のもので、日本の戦争犯罪については、殆どありません。
 

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その理由は、まず、①外国政府や裁判所が既に扱った戦争犯罪については、そもそもアメリカ政府による非公開の扱いになっていなかった点、
 
②、また終戦直前から直後にかけてアメリカが集めた日本の政府資料の中で、非公開の扱いを受けたものが殆ど無かった点、
 
③、また逃亡中の元ナチスの将校を抱えるドイツと違い、日本に逃亡中の戦争犯罪者はいない為に情報の公開が進み、1970年代から1982年までには殆どが公開されていた点…などが挙げられます。 
 
終戦後、何故、ある文書は公開され、ある文書は非公開になったか、言葉を変えるなら、何故ドイツ関連の文書が多く非公開の扱いとなったかという疑問が生じますが、これには終戦後のアメリカの諜報活動や軍事作戦に有益な情報と思われたかどうかが関係します。
 
ソヴィエトの諜報作戦やスパイ行動、暗号の解き方などは、戦中、ソヴィエトに多くの諜報員を送っていたドイツ側から得た情報に多く含まれる為、ロシア側に『アメリカが何を知っているか』を知らしめない為に、ナチス・ドイツの多くの資料が非公開の処分を受けました。これらの情報が、冷戦の終了と同時に非公開され始め、非公開文書の中のナチスの戦争犯罪を纏めた2007年のIWGレポートとなりました。
 
このIWGレポートについて、私は2015年1月号のWiLL誌上で、短く説明をしましたが、それは当時一緒に働いていたアメリカ人に、慰安婦に対する犯罪が無い事を示す決定的資料であるかのように説明をされていたからで、当初は彼の解釈を信じていました。記事になる前の2014年の末には、「これには、仰るような価値はないのでは?」という質問をした事もありますが、いずれにせよ、自分で注意深く読み、吟味する事をせずに記事にしたのですから、記事への責任は私自身にあります。
 
IWGレポートに慰安婦についての言及が無いのは、当時は日本人として考えられていた朝鮮半島出身者、また台湾人な どに対する暴力や犯罪を日本軍が犯していたとしても、(日本の)国内問題として考えられ、『戦争犯罪』とは考えられていなかった為です。
 
当時のアメリカ人の『戦争犯罪』の定義には、軍が軍専用の慰安所を管理する事は含まれていませんでした。ですからアメリカ政府とすれば、日本軍の日本人・朝鮮人慰安婦に対する扱いは、(比較して)詳しく調べる対象とはならなかったのでしょう。
 
因みにIWGレポートは、連合国軍が既に調査をしていた、日本軍による連合国側の女性に対する犯罪についても言及していません。オランダ人女性が強制的に慰安婦とされた事件や、中国が既に裁いていた戦争犯罪についての言及もありません。実際に起こったオランダ人女性に対する犯罪が記載されていない事から考えても、『慰安婦に対する戦争犯罪がなかった事の証拠』とは呼べないように思われます。
 
報告の序文で委員長代行のスティーブン・ガーフィンケル氏が、『見つけられなくて残念でした』と述べたのは、『申し訳ないが、慰安婦に関する記述は、ここには見いだせなかった』という意味でしょう。
 
そもそも詳しく調べる対象とならなかった慰安婦たちの状況について、このレポートの為に「アメリカ政府が多くの年月を使った」、「いくらの費用をかけた」」と強調しても、慰安婦問題に関する証拠資料とは到底なり得ず、このような無理な議論を展開すれば、却って日本人としての評判を落としかねません。
 
私を通してこのレポートを価値あるものと考えられた方々には、心からのお詫びを申し上げます。