真珠湾から75年、戦後自由主義社会と世界秩序の擁護者となる安倍・日本

以前、マイケル・オースリン氏の書かれた安倍首相に関する記事をご紹介した事がある。

オースリン氏は、元イェール大学助教授であり、現在は保守派シンクタンクである「アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート」の常勤研究員、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、フォーブス誌、ナショナル・レビュー誌にも記事を掲載される歴史学者、政策アナリスト、アジア専門家である。

彼による日本の安倍首相への評価は、近年の日本の政治家に対する海外からの評価と比較して、突出した高さだ。

 

私は日本の政治家にとっての最優先課題は、日本と地域の安全保障をどう守るかだと考える。この最優先課題に対する安倍首相の取り組み姿勢は、戦後の自由主義社会の秩序を遵守しようとする安倍首相のソフトな語り口とは違い、一貫した決意が伺える。まさに故セオドア・ルーズベルト大統領の名言とされる「大きな棍棒を持ち、穏やかに語れ」をそのまま地で行かれているようだ。

実際、敵対国に囲まれる中で、自国の安全保障を守る為には、棍棒(軍事力)と共に、穏やかな言葉が必要である。そうでなければ、大胆な政策は実現し得ないだろう。

 

以下にオースリン氏の書かれた、「75 Years After Pearl Harbor, Japan is a Key Defenderof Global Stability (真珠湾から75年後、日本は世界安定へのカギとなる擁護者だ)」をご紹介する。

 

75 Years after Pearl Harbor, Japan Is a Key Defender of Global Stability | The National Interest

----------

75年前の今日、日本はアジアの西側列強に対し奇襲攻撃を行ない、日本帝国軍による恐ろしい戦争犯罪が目撃され、4年後の広島と長崎へ投下された原子爆弾によってクライマックスを迎える太平洋に於ける全面戦争へと発展していった。

 

アメリカにとっては12月7日早朝の『真珠湾攻撃』と知られているが、日本軍の戦略の主な狙いは、東南アジアに駐屯するヨーロッパとアメリカの守備隊を圧し、日本の国力を締め付ける恐れのある、原油やその他の原材料に対する禁輸政策を撤廃させることにあった。同日、香港、マレー、フィリピン、シンガポールやタイは全て海と空から包囲され、その他の東南アジア地域は一月までに攻撃され、アジアにおける力のバランスを崩壊させ、日本による地域秩序を作る大胆な賭けに巻き込まれた。

 

今週、「汚名の日」のページを閉じる為に、日本の安倍首相がオバマ大統領と共に12月末に真珠湾を訪問すると発表された。また11月の末には、日本の稲田朋美防衛大臣が、日本とアセアン各国の防衛大臣らとの2回目の非公式会談に於いて、ASEANの防衛イニシアティブである「ヴィエンチャン・ヴィジョン」を発足させた。海からの安全保障への軍事的協力を狙い、アジアにおける国際法による支配を促進させるために、日本の安倍首相は、日本を第二次世界大戦後の国際システムの防波堤にしようとしているのだ。1941年の日本国の役割とは全く逆である。

 

f:id:HKennedy:20161208100205j:plain

 

1945年の、全てが灰塵とされた敗北と世界的な屈辱から、日本の戦後の歴史は、アメリカと戦勝国によって建てられた自由主義国際秩序に貢献し、そこから利益を得てきた国の円弧に従っている。徹底した戦争中の役人追放や寡頭政治で活躍した企業の解体は、1950年の朝鮮戦争の勃発と共に停止したが、1945年から1952年まで、日本は占領された国家として、占領国に似せて部分的に作り変えられた。実際、国際的なのけ者となった従属国から、瞬く間に日本は、地球を取り巻くアメリカの政治・軍事プレゼンスにとって代え難い要因となったのだ。

 

日本の特異性は、アメリカによる占領から後の10年の間、1946年にアメリカによって書かれた憲法9条に象徴されるような、戦争放棄を謳う、軍事力のほぼ完全に近い放棄から始まった。軍事力放棄の代わり、当時の吉田茂主張と彼の後継者らは、日本の防衛をワシントンに頼る事に同意し、産業の回復と日本市場の保護に集中した。

 

広島から20年と経っていない1964年には、トーキョーは夏のオリンピックを開催し、戦後の成功物語、また世界で最も早い経済成長を以て、喝采をうけた。実際、日本は何十年もの間、世界第二位の経済力を誇り、消費者に受け入れられるデザインの改革や、個人的な家電などの人々がちょうど欲しがっていた商品の開発など、全てを再定義したのだ。日本の一般的生活環境は世界で最も高い割合にあり、日本の美は、車に始まってインテリア・デザインに至るまで全てに影響を与えた。

 

しかし日本は、その経済力に見合う、大国としての政治的影響力や軍事力を発達させてこなかった。憲法による規制によって、平和主義社会を喜び、経済政策に対する足枷となる重い国際社会での責務を厭いながら、日本は世界で起こっている事に対して、琥珀の中で固まってしまっているかに見えた。

 

日本の経済成長が1990年代初期に停止した時に、国際の場での日本の影響力の多くも無くなってしまった。全くと言っていいほど同時に、中国が日本にとって代わり大国となり、約束通り、アメリカに対する主な競争相手となった。

 

今日、日本の経済力と軍事力は、中国によって影が薄い中で、安倍首相は、かつて多くの人々が理想であると考えた、日本をアジアの政治指導者とするための戦いに日本を近づけていこうと、大胆にも立ち上がっている。

 

f:id:HKennedy:20161208100307j:plain

 

まず安倍は、海外における軍事活動に対する規制を廃止し、軍事予算を増加し、ワシントンとの同盟を強化している。更に大胆な事に、彼はインドとの絆を深め、南シナ海における日本のプレゼンスを増やし、ASEAN各国との防衛協力のイニシアティブを明らかにし、防衛の為の武器を東南アジアの国々に提供しようとしている。

 

こうした安倍の行動に、国内外の反発が無い訳ではない。特に中国は、この動きが地域における北京の覇権を脅かすものである事を理解している。しかし安倍は、彼の行動は「日本が恐らく他のどの国よりも恩恵に預かり、今日ではロシアやISIS、イラン、北朝鮮と中国からの挑戦に困難を覚える戦後の自由主義国際秩序を強化する為の行動である」と、確固たる主張をしてきた。

 

そうする中で、また彼より前の政治家よりも更に踏み込んだ大戦への謝罪をすることによって、安倍は日本を世界の安定の擁護者と位置付けているのだ。これは、75年前の日本が行なった破壊的な役割とは、全く異なっている。

 

----------

 

真珠湾攻撃から75年目の今日、大戦によって命を落とした全ての人々とそのご遺族に対する祈りと共に、アジア専門家であるオースリン氏が、世界の秩序安定に向けた安倍・日本の軍事役割強化を歓迎する記事を書かれた意義に、想いを馳せたい。

 

保守派は「偽情報」で騙すな、「偽情報」に騙されるな。

先月始めの11月2日、ヒラリー・クリントン元国務長官が、ワシントンDCのピザ・レストランにおいて「マネー・ローンダリング」から始まり「子供相手の性犯罪」に関与している、というニュースが流れた。これは意図的に捏造された偽ニュースであり、社会的責任の伴うメディアは、ヒラリーに反対するメディアも、報道していない。(詳細は、以下に添付したビジネス・インサイダー記事に記されてある。)

 
この偽ニュースは、FBIのコミィ長官が捜査を再開した中に発見されたヒラリー・クリントン陣営の責任者のemailに、一風変わった芸術家の親族のパーティーへ出席する旨が書かれていた事に発し、そのパーティー開催者の芸術を『カルト』と呼び、そこから発してヒラリー・クリントンとそのカルトを関連付けたものだ。一風変わった前衛芸術に邪推と憶測を絡め、ヒラリー・クリントンを貶める目的で、インターネット上のニュースとして流されたものだ。
 
この偽ニュースに煽動された形で、該当するピザ・レストランに銃を持った男性が押し入り、銃を数発乱射する事件が日曜日起きている。この発砲事件について、トランプ氏の安全保障政策アドヴァイザーであるマイケル・フリン元中将の息子が「ピザゲートが偽だと証明されるまで、これはニュースとして扱われる。左派はemailと多くの『偶然』がこれに関連している事を忘れているようだ」とツイートをした。CNNのジャーナリスト、ジェイク・タッパー氏は、「この『ピザゲート』が正しいとする証拠の一つでもあるなら、教えて欲しい」と彼にメッセージを送ったようだ。要は、社会的責任のある人物が、無責任な陰謀説をそのまま流すことに警告を発したかったのだろう
 
マイケル・フリン・ジュニアは、「このニュースが嘘である事は、自分も願っている」と答えつつも、このピザ・レストランと「カルト儀式」の関わりを否定していない。
 
ジェイク・タッパー氏は、「これは、悪魔的な児童愛のカルトの場所ではない。ただのピザ屋だ。悪魔的な児童愛カルトだと証明するものを見せて欲しい。あなたのツイートはかなり無責任だ。よく聞いてほしい。あなたのツイート(を信じる犯罪者)によって、誰かが殺されるかもしれない。無実な子供かもしれない。いったい何の為に?」と非難している。

 

f:id:HKennedy:20161207115120j:plain

                    CNNのジェイク・タッパー氏
 
フリン・ジュニアの父親のマイケル・フリン元中将は、ドナルド・トランプの安全保障アドバイザーに抜擢されたが、息子ともども政権移行チームのメンバーでもある。ヒラリー・クリントンを児童愛のカルトと関連付けるこの偽ニュースは、フリン元中将自身も選挙前に流布している。
 
ヒラリー陣営が悪魔礼拝や子供を対象としたセックス組織に関わっているという、この荒唐無稽な偽ニュースに飛びついたのは、マイケル・フリンの息子だけではない。極右サイトの『インフォウォーズ』では、トークラジオ番組ホストのアレックス・ジョーンズが、ヒラリー・クリントンが児童を扱ったセックス組織に関係しており、彼女のキャンペーン責任者のジョン・ポデスタは悪魔礼拝者であると繰り返し示唆していた。

Pizzagate: From rumor, to hashtag, to gunfire in D.C. - The Washington Post

 

11月4日にジョーンズが掲載したユーチューブ・ビデオでは、彼は「ヒラリー・クリントンが自身で殺害し、首をはね、強姦した全ての子供たちの事を考えると、彼女に反対して立ち上がることなど怖くない。その通り、よく聞いてくれ。ヒラリー・クリントンは、自分の手で、子供たちを殺害したんだ。私は、これ以上真実を抑え込むことは出来ない。」と語っている。

アレックス・ジョーンズと言えば、911はアメリカ政府による自作自演のテロだと主張するアメリカで最も有名な『陰謀説論者』であり、『インフォウォーズ』は彼の運営する陰謀説メディアだが、ドナルド・トランプ氏は彼を気に入り、ジョーンズの素晴らしい働きを称え、大統領当選後には彼に感謝をする電話をしている。因みに「Infowar」と言えば、「トランプ大統領当選に反対するデモは、ジョージ・ソロスの支援する団体がバスを借り切って運動を起こしたものだ...」という陰謀説を流している。

Alex Jones says Trump called to thank him - POLITICO

 
社会的な責任ある立場の人物は、陰謀説や真偽のハッキリしない情報を軽々しく流布するべきではない。たとえ政敵を貶める目的があったとしてもだ。ヒラリー・クリントンを貶める為ならば、どんな嘘でも流布する一部保守派がいるが、彼らに倫理や真実を語る資格はない。
 
私は、『メディアの偏向』を訴える人々に限って、偽ニュースや陰謀説を信じる傾向があると考える。勿論、彼らの多くは『偽ニュース』や『陰謀説』と知った上で、情報を流している訳ではない。これらの偽ニュースを信じる人々の多くは、社会によって自分が正しく評価されていないと感じる層に多く、自らの不遇を、漠然とした巨大な力に見出す屈折した傾向がある。アレックス・ジョーンズは、繰り返し既成のメディアが信用ならないと主張し、主要メディアに対する不信感を視聴者に植え付け、自分の流す陰謀説こそ隠された真実だと自負している。
 
しかしながら、既成メディアを「嘘つき」と呼び、CNNを『クリントン・ニュース・ネットワーク』と揶揄すれば、それですべての白黒、善悪の判断がつくかのように単純な吹聴をする人々は、タッパー氏とフリン元中将、またアレックス・ジョーンズ氏のいずれが情報に対して誠実か、深く考えた事が無いのかもしれない。
 
但し、自らの政治目的を達成するために、こうした偽ニュースや陰謀説を流布する人々もいる。恐らく、社会的立場がありながらこういった偽情報を流す人々は、政治的な動機の為に、これらを嘘と知っているか、或いは嘘であっても構わないと考えているのだろう。概してこのような人々は、自らの流す偽情報を別の政治勢力への『是正』と考えているので、無責任な情報を流す事への罪悪感はない。
 
偽ニュースの齎した実際の害について、アメリカでの一例を上げたが、日本の保守派も勿論こうした情報操作と無縁ではない。
 
最近では、韓国企業が人肉を食材に加工したという偽ニュースが流れた。勿論、こういった偽ニュースを喜んで流す人々の多くは、嫌韓感情に煽動されている場合が多い。真偽のハッキリとしないニュースでも構わず、政治目的を達成したいのだろう。日本の一部保守派には、911のテロがアメリカによる自作自演だとする陰謀説が流れているが、真珠湾攻撃の記念日や安倍首相のハワイ訪問が近付けば、ルーズベルトは事前に真珠湾攻撃を知っていたとする陰謀説が盛んに取り沙汰されるだろう。
 
トランプ氏の当選を以て、何故かその勝因を「白人中年男性の死亡率」と関連付ける主張もある。保守派として著名な方々でさえ、こういった偽情報を流している様子を見ると、よほど情報が偏っているとしか思えない。例え英語を訳すことが出来ても、彼らがアメリカのメディア事情に熟知しているとは考えられず、どのメディアが信頼がおけるか、どのジャーナリストが保守派であるか、見当もついていないようだ。
 
勿論、全ての非の責任が彼らの肩にある訳ではないが、それでいて何故か、「主要メディアに騙される」という被害者意識だけはハッキリとあるようで、信頼できる情報を退け、偽ニュースに飛びつく傾向がある。偽ニュースと知らずに流している場合は、情報検証の能力が無い事を意味する。もし、これらの偽ニュースを『偽』と知りつつ流しているとすれば、彼らには政治的悪意があるとしか考えられない。いずれにせよ、彼らが日米主要メディア報道の偏向を批判する立場にはないのだ。
 
勿論、主要メディアに偏向が全く無い訳ではない。しかしながら偏向を訴える側の提供する情報が偽ニュースや陰謀説では、説得力が無いばかりか、論じる側の知性が疑われる。自分でこれらの海外情報を検証する能力を持たないならば、日本の一流紙の海外ニュース欄や、和訳されている米紙(誌)から学ぶべきだ。
 
日本人の殆どは潜在的な保守派であると言って良い。これは、先進国で日本が唯一、宅配のシステムによって主要メディアの新聞を読む国民が大多数を占めている事と無関係ではない。社会的責任ある主要メディアによる報道から得る情報によって、多くの日本人は過激思想からは距離を置いてきたのだ。勿論、朝日新聞の報道などを取り上げて「騙された」感じた保守派も多いだろうが、落ち着いて考えて見れば、一部保守派から『捏造』と呼ばれている朝日新聞の『誤報』や『主張』は、インターネットやソーシャル・メディアで流れる明らかな偽ニュースや陰謀説と比較すれば、遥かに真実性がある。
 
アメリカのフェイスブックは、意図的な偽ニュースを流す試みを禁じる動きに出ている。これについてナショナル・レビュー記者であり「リベラル・ファシズム」の著者であるジョナ・ゴールドバーグ氏は、以下のように書く。

Fake News Folly | National Review

f:id:HKennedy:20161207115546j:plain

               ナショナル・レビュー誌のジョナ・ゴールドバーグ

「私は偽ニュースについての議論は意図的に避けようとしてきた。あまりにも色々な事が言えるからだ。しかし今朝、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)が、「FDR(ルーズベルト)は、真珠湾攻撃を事前に知りつつ、何の対処も取らなかった」という、決して消滅しない陰謀説を報道したのを聞いた。ホストはこれを75年前の「偽ニュース的なもの」とした。彼の解説はおおよそ正しいのだが、チャールズ・ビアードの名前を出し、彼がこれに対して果たした役割について述べたら、もっと良かっただろう。これは、ピザゲートという狂人を『偽ニュース』と呼ぶメディアの容赦ない報道のかかとに引っかかっていた。
 
私の理解では、『ピザゲート』は明らかな『偽ニュース』である。海外ウエブサイトが、意図的に、情報を作り上げていると知りつつ、ソーシャルメディアに掲載され、添付先のリンクをクリックさせる事で利益を得るニュースである。正確に言えば、『陰謀説』は『偽ニュース』とは異なる。『陰謀説』は、『陰謀があったとする説』であるのだ。多くの主要メディア(その殆どはリベラル・メディアである)は意図的に、或いは知らずしてか、この違いをごちゃ混ぜにしてきた。偽を批判するならば、定義を曖昧にする行為は皮肉でしかない。
 
保守派の側も同様に、この定義をごちゃ混ぜにしてきた事は事実である。
 
しかし、主要メディアが流す『不正確なニュース』は、意図的に偽情報を作り上げ、クリックさせる為の『偽ニュースサイト』とは全く異なる。ダン・ラザー*に対して厳しい批判があったが、彼の『犯罪』は、野心や私心、集団的思考によって、適切な洞察力やジャーナリストとして必要な懐疑心を放棄してしまった点にある。ガザの橋を想像した*VOXニュースのあの記者も、意図的にあのような失態を演じた筈はない。(*ダン・ラザーは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領のヴェトナム参戦時代について、虚偽文書を用いて『60ミニッツ』で批判した。)

Killian documents controversy - Wikipedia

 (*VOXの記者によって、イスラエル政府はガザとヨルダン西岸を結ぶ橋の通行を妨害していると報道されたが、橋そのものが存在していない。)

http://thefederalist.com/2014/07/17/voxs-motto-should-be-explaining-the-news-incorrectly-repeatedly/

 

もし嘘と知りつつ、それを事実として報道すれば、法的処置を課せられることはそれ程狂った考えではない。もし『ナショナル・レビュー』が、児童愛好者らの集まりであると偽ニュースのサイトによって報道されれば、彼らを法的に訴えたいところだ。しかしながら、もし中傷する目的で偽ニュースをねつ造する組織が法的に守られるとしても、フェイスブックのような一企業が、利用者を意図的に騙そうとする詐欺師たちの能力を限定する事には何の問題も無い筈だ。
 
いずれにせよ保守派は、相反する意見を抹殺する為に偽ニュースを利用しようとする如何なる試みに対しても、反対をするべきだ。保守派が、偽ニュースを流して利益を受けるプロの詐欺師たちを弁護するべき理由はない。」

 

リベラル極論とナショナリズム極論の狭間で

以前も書いたが、私は、日本軍による『南京30万人大虐殺』や『南京40万人大虐殺』などは、荒唐無稽なプロパガンダであると考える。
 
ところがこの『30万人説』や『40万人説』に対する反発として、これらを否定する為に、『虐殺は起こらなかった説』や『(虐殺の)犠牲者は限りなくゼロに近かった説』、『マイナス30万人説』や『日本人こそ被害者説』等の別の極論が生まれている。
 
 
同様に、「20万人、或いは40万人の『性奴隷』が『天皇からの贈り物』として日本軍によって強制連行され、肢体切除や終戦の際には皆殺しされた」などの慰安婦に関するプロパガンダも、感情的な反発を招いてきた。
 
高齢の元慰安婦の女性達を指して「売春婦」「嘘つき婆」などと罵るにとどまらず、中にはあからさまな韓国人への差別感情を生じさせたり、「韓国との国交断絶」すら叫ぶ人々もいる。
 
しかし、あまりにも荒唐無稽なプロパガンダに反発する形で生まれたこのような「極論」は、他者からの共感を得ないだけではなく、元々のプロパガンダに対する正当性すら与えてしまうものだ。
 
勿論、こういった傾向は、日本人に限った事ではない。
 
ヨーロッパに於いても、「イスラム教と過激イスラム教テロとの関わりは、一切無い、」というような極論や、ドイツのメルケル首相の打ち出した大量のシリア難民受け入れ政策は、EU加盟国の国民の反発を買い、これらの国々のナショナリズムの台頭に繋がっている。Brexitと呼ばれるイギリスによるEU離脱や、フランス国民戦前党の躍進は、極端なリベラル政策の影響とは無関係ではない。
 
アメリカの大統領選挙に於いても、同じことが言える。
 
オバマ大統領の大統領として残した遺業は、オバマケアだけではない。オバマ大統領という極端なリベラル政治家によって台頭した白人ナショナリズムは、ドナルド・トランプ氏への支持に繋がった。オバマ大統領による現実を無視した綺麗ごとのスローガン政治は、トランプ氏が口にするような、普通なら口にできない下品で眉を顰める類の非文化的な言論こそ、「正直さ」として評価される風潮を生んでしまった。ところが、オバマ大統領の掲げた外交政策、軍事政策が、失敗に終わったように、トランプ氏の掲げる政策の殆どは、トランプ氏の主張する「偉大な国」から遥か遠くにアメリカを押しやるだろう。
 
一つの極論が反発を招き、別の極論を生じさせることは、世界中で多々見られる傾向ではあるが、それでもこうして生まれた反発的「極論」は、元々の極論に対する答えとは決してなり得ず、更に別の問題を作り出すだけである。
 
一つ、例をあげよう。先日、アメリカのTV番組の一つであるデイリー・ショウに、白人ナショナリストから支持を受けるテレビ・ホストのトミ・ローレンが出演した。彼女はホスト役のトレイヴァー・ノア相手に、『ブラック・ライブズ・マター』グループに対する反発や批判を、堂々と述べていた。
 
『ブラック・ライブズ・マター』グループは、元々警察による黒人への扱いに不当性があると主張し、大きな反警察運動となり、何人かの白人警察官を殺害するまでに至っている。警察による不当な権力行使を訴える為に立ち上がったグループでありながら、いつの間にか白人一般に対しての憎しみを主張し始め、中には「白人であれば、誰であっても殺されて当然」と言わんばかりのスローガンを掲げるメンバーもいる。

Trevor Noah didn't "destroy" Tomi Lahren on The Daily Show. What he did was much better. - Vox

 
このグループの主張は確かに極論であり、実際に警察官に対する政治メッセージを持った殺害が何件もおこなわれている点から考えて、国内のテログループと言われても仕方がない。トミ・ローレンは決して知的なテレビ司会者とは言えないが、それでも彼女のブラック・ライブズ・マターに対する反感には共感できる。
 
ところが番組ホストのトレイヴァー・ノアは、ブラック・ライブズ・マターに対する、異なった意識を持っている。彼の意見はどちらかと言えばブラック・ライブズ・マターに対して同情的であり、この組織の元々の意義を認めようとしている。これに反感を覚えたローレンは、KKKを引き合いに出し、ブラック・ライブズ・マターの方が悪質だ、という意味で、「KKKが一体何をしたの?」と聞き返した。

 

f:id:HKennedy:20161206162158j:plain

    デイリーショウに出演するトミ・ローレン(左)とホスト役のトレイヴァー・ノア(右)
 
ノアは「今、KKKが何をしたの?って聞いた?」と自分の耳が信じられない様子で聞き返し、「ブラック・ライブズ・マターは、とにかくKKKとは違う」と、物わかりの悪い子供に対してルールを説明するように答えた。
 
KKKとブラック・ライブズ・マターが違う事は両者が同意している。問題は、両者とも自分の支持するグループの方がマシだと強く信じている点だろう。
 
当然ながら、ブラック・ライブズ・マターの運動を批判し、その暴力性を否定する為にKKKを引き合いに出すことは間違っている。またブラック・ライブズ・マターを引き合いに出してKKKや白人至上主義の台頭の正当性を訴える事は許されない。トミ・ローレンの議論は、この時点で決定的な過ちを犯している。
 
勿論、KKKとは違うからと言って、実際に警察に対する犯罪行為を犯し、白人に対する憎しみを煽動しているブラック・ライブズ・マターの正当性を訴える事は許されない。ここにトレイヴァー・ノアの論理の誤りがある。
 
殆どの良心的な人々は、ブラック・ライブズ・マターによる警察への暴力に反感と怒りを抱きながらも、KKKや白人至上主義に陥ることなく平和的な共存や解決を望んでいるからだ。KKKかブラック・ライブズ・マターかではない。その両方共が極論であり、間違っているのだ。
 
極端なリベラル政治は偏狭なナショナリズムを生む。偏狭なナショナリズムよって国民は優越意識を高め、更に自国の優位性を誇るイデオロギーを先鋭化していく過程で、極端な差別思想が生まれるだろう。そうなれば、そこまでは同意できない多くの『脱落者』を量産していくが、一部のファナティック(狂信者)らによって、政治が引きずられていく場合もある。
 
日本人の殆どは潜在的な保守派であると言って良い。これは、先進国で日本が唯一、宅配のシステムによって主要メディアの新聞を読む国民が大多数を占めている事と無関係ではない。社会的責任ある主要メディアによる報道から得る情報によって、多くの日本人は過激思想からは距離を置いてきたのだ。(勿論、朝日新聞の報道などを取り上げて「騙された」感じた保守派も多いだろうが、落ち着いて考えて見れば、一部保守派から『捏造』と呼ばれている朝日新聞の『誤報』や『主張』は、インターネットやソーシャル・メディアで流れる明らかな陰謀説と比較すれば、遥かに真実性がある。)
 
殆どの日本人は、例え中国や韓国によるプロパガンダに行き過ぎを感じていても、中国大陸が舞台となった第二次世界大戦で、日本人の方こそが被害者であるなどとは考えられないし、自他の中に中国人や韓国人に対する差別意識が高まれば、警戒感を抱く。勿論、これらの国の人々が地球上からいなくなることを願う極論には到底ついていけない。
 
極論への答えは、別の極論ではない。余りにも行き過ぎた論理に対抗する為の知恵は、感情的反発による短絡的思考からは生まれない。まずは、湧き上がる怒りや行き詰まり感から自由になり、知識や知恵から学ぶ必要があるだろう。
 
知識や知恵を軽んじ、感情を駆り立てる情報に煽動されれば、結局、極論に導かれてしまう危険性のある事を、忘れるべきではない。

トランプ次期大統領の掲げる『関税35%』政策の危険

多くのトランプ支持者は、「トランプ氏は思ったことを、そのままハッキリとわかるように言ってくれる」ことを、既成の政治家には無いトランプ氏の魅力と主張してきた。この、「トランプ氏は、自分の考えをそのまま分かり易い言葉で述べる」とは、一部支持者だけではなく、サロゲートと呼ばれる援助者や、実娘のイヴァンカ・トランプも「長所」として述べていたトランプ氏の特徴だ。

 
ところが支持者らは、メディアや政策専門家らがトランプ氏の過激発言の数々を"文字通り"受け取た上でそれを問題視すれば、「トランプ氏の意図するところは、そういう意味ではない」から始まって「トランプ氏は言っているだけで、行動はしていない」と擁護する。
 
またトランプ氏の掲げた外交政策や経済政策の問題点を指摘すれば、支持者らは「選挙公約を言葉通りに受け取るべきではない」と、トランプ氏の言葉をそのまま受け取った側を批判する。
 
ヒラリー・クリントンを「嘘つき」と批判する一方、「嘘つき」でないトランプ氏の言葉は、隠しマイクに納められた本人の言葉であっても、トランプ氏が乱発するツイートであっても、選挙中の公約であっても、信じてはいけないらしい。
 
勿論、トランプ支持者によって、指導者としての言葉の重みや、公約についての理解が定められる訳ではない。
 
トランプ氏が、本業の不動産業やリアリティーTVのスター以上の存在を目指し、次期大統領として選出されたのであれば、尚更、彼の言葉には重きが置かれるべきだろう。批判に対し、「Get Over it (グズグズ言うな) 」、また「次期大統領となるトランプ氏は、一切の批判を免れるべきだ」と言うかのような理屈は通らないし、もしそのような極論を振りかざすトランプ支持者がいれば、彼らは嘘や誇張も混ぜながら、オバマ大統領を8年間厳しく非難してきた層だろう。
 
因みに、こうした「Get Over it」を主張する支持者はアメリカでも南部に多いのだが、彼らが南北戦争での南軍の旗を振りかざして「Get Over it. You Lost (諦めろ。お前らの負けだ)」と訴える姿は、本人は気付いていない皮肉でしかない。

 

さてトランプ氏は、次期大統領としての軍事ブリーフィングも当選後は殆ど受けておらず、その代わりに全米ヴィクトリー・ラリー(勝利大会)を計画しているようだ。また、約200日近く、記者団からの質疑応答を受けるような記者会見を開いてはおらず、自身のツイートによって、方針や考えを述べている。
 
今朝のトランプ氏のツイートによれば、彼は外国で製造され、輸入される製品に35%の関税を設けるとしている。勿論トランプ氏の会社が作っているネクタイやスーツなどは中国製、メキシコ製である。実娘のイヴァンカ・トランプが経営するファッション会社のドレスなどは、全てアジアで作られている。トランプ氏の「方針」の基となる考えは、アメリカ企業が人件費の安い外国に工場を移し、アメリカ人が職を失なっている事と、貿易不均等を悪とする考えだ。
 
トランプ氏は、以前のインタビューでも中国と日本をやり玉に挙げ、フォーブス誌は「大概のアメリカ人は、大統領討論会を聞き、アメリカには2つの外敵があるという思いが残ったろう。一つはISISで、もう一つは日本だ」と書いている。

With Trump's Implosion, U.S. Employees Of Japanese Automakers Can Breathe Easier

 
フォーブスは続けて「トランプの論理ゼロのレトリックは、日本バッシングが盛んだった古き悪き時代を思い起こさせる。しかし時代は変わっているのだ。アメリカで販売された日本車の75%は、北アメリカで製造されている。マニー・マンリケズとの電話インタビューで、彼が語ってくれたが、マンリケズは当然これに詳しい人物だ。彼こそが日本自動車製造協会(JAMA)のジェネラル・ディレクターなのだから。彼によれば『日本車業界は、アメリカにおける実質的ゼロの製造だったものが、アメリカの製造業界に大きな功績を残すまで変化をしました。アメリカには日本車製造工場が26か所にあり、17の州に36の研究開発施設があります。』
 
 
 
日本へのバッシングで痛い想いをするのはアメリカなのだ。皮肉なことに、自動車業界が破たんしかかった2009年に、アメリカを再び偉大な国にするように助けてくれたのは日本の自動車メーカーだ。『在米日本車製造工場による雇用率の上昇は、全国平均が5%であった時に、20.8%に上っていたのだ。』」と述べたが、実際、在米日本車製造工場で働く人々の多くはアメリカ人である。
 
トランプ氏は、今朝3時41分から4時23分までの6回に渡るツイートで、
 
「アメリカは企業に対する税金と規則を大幅に減少させる。しかし我々の国を離れ、外国に行こうとしている企業、従業員を解雇する企業、新しい工場や製造工場を他国に作ろうとする企業、しかもその製品を逆輸入しようとしている企業に対してはそうではない。これらの企業が報復やその代価を払わない事は間違っている。これらの製品、車、エアコン、部品などを戻ってきて売ろうとする企業に対しては、直ぐに補強される国境(税関)に於いて、35%の税金が課せられる。この税金は、彼らが外国に逃げていくのを資金的に困難にするだろう。だが、これらの企業は50州、どの州に移動しても良いのだ。(国内に留まる限り)税金や関税がかけられることは無いのだ。ずいぶん高くつく間違いを犯す前に、警告を受け取ってほしい。アメリカはビジネスを歓迎する。」

Trump Threatens 35% Import Tax Which Would Be A Total Disaster | RedState

 
勿論、35%の関税が掛けられれば、今まで1ドルで購入できた商品が1ドル35セントに値上がりし、その増額を負担するのは、アメリカの消費者である。これは以前にも書いたが、関税を引き上げ、相手国の輸出を妨害すれば、アメリカは莫大なペナルティーを支払わなければならず、相手国は、報復として関税を引き上げ、アメリカ企業の輸出を妨害する事が出来る。アメリカの市場に出回る殆どの商品が35%の値上がりをすれば、消費者の購買能力に限界が訪れ、購買意識が薄れる事は間違いない。以前トランプ氏は、「(アメリカの)車の購入台数が減るかもしれないが、別に構わない」とインタビューに答えているが、購買意識が減るのは、購買能力が著しく低下するからだ。
 
ベン・サシー共和党上院議員は、この『関税案』に対して「トランプ氏の意図は良いものかもしれないが、「トランプ次期大統領の意図は良いかもしれない。しかし、彼の35%関税案は、アメリカ人一家への値上げではないのか? アメリカ人一家への35%増税でないと、どうして言えるのか?」とツイートしている。
 
勿論これは、ベン・サシー議員が指摘されている通り、アメリカの消費者に対する35%の増税である。ベン・サシー議員は共和党議員である通り、共和党のマルコ・ルビオ議員も、トランプ氏の掲げる外交政策で、賛成できないものには、反対票を投じていくと述べている。
 
この種の政策を掲げているトランプ氏への反対を、保守派対リベラル派と論じる間違いについて、保守派であり核戦争・外交専門家のトム・ニコールズ氏が指摘している。

「これは保守対リベラルではない。共和党対民主党でもない。これは、大人対子供、知対無知である」

 
トランプ氏の主張してきた『貿易不均衡』を悪とする意見は、勿論トランプ氏が初めてではないが、これについてはレーガン政権で経済アドバイザーでもあった、ノーベル経済科学賞授賞の故ミルトン・フリードマン博士が以下のように指摘している。

 

f:id:HKennedy:20161205154842j:plain

   最も影響力のある経済学者、故ミルトン・フリードマン博士。彼の門弟にはトーマス・ソーウェル博士もいる。
 
『貿易不均衡は悪いものではない。例えば日本は約500億円の貿易黒字を抱えている。この黒字分を彼らはどうしているだろう。我々の製品を買ってくれているのだ。これで我々が傷つくことはないのだ。自由貿易というものは、小さなグループの犠牲のもとに、大多数が益を得る。ところが政治的には、小さなグループが大きな声を挙げるものだ。これを悪と人々が信じる理由は、まず製造業者の流すプロパガンダによって騙されている事がある。また変動為替相場というものの役割が理解出来ていないのだ。もし、例えば全ての日本製品がアメリカ製品よりも安く、多くの日本製品が売られるとする。日本は貿易黒字を抱え、ドルを多く所有する事になるが、そのドルで高いアメリカ製品を買うことは出来ない。日本は貿易黒字で得たドルを日本円の購入の為に売り、円高・ドル安となるが、ドル安によって、次第にアメリカ製品の方が安くなる。』

Trump vs Friedman - Trade Policy Debate - YouTube

 
故フリードマン博士をはじめ、多くの有名経済専門家が、自由貿易を「経済を活性化する」ものとして歓迎し、関税を「却って経済不況を招くもの」として反対している事は明らかな事実である。一つの産業が衰退すれば別の産業が生まれる昨今、一つの産業の支援の為に急激な変化を設ければ、別の産業が被害を被る。
 
勿論、アメリカ企業の海外撤退やオートメーション化によって多くの人々が職を奪われ、国からの職業訓練支援があっても、これらの失業者がオートメーション化に対応できる能力を身に着けられなかった事は考慮するべきだが、この複雑な経済政策問題の答えは『関税』を設ける事には見出せない。
 
トランプ氏は、複雑な経済、外交、軍事政策に対し、明確で単純な解答を提示するが、彼の提案が主張通りの結果を生まなかったことは、すでにアメリカの政治史上の失敗が語っている。1930年代後半のアメリカの『大恐慌』を招いた一因は、フーバー大統領が、外国製品に対して高い関税を設けたことにある。デマゴーグの定義が、「複雑な問題に対して、威勢の良い言葉だけで大衆を煽動する人」を指すならば、トランプ氏はまさに『デマゴーグ』ではないか。
 
故ミルトン博士は続けて、19世紀後半に「Progress and Poverty」を記したヘンリー・ジョージの言葉を引用している。

Henry George on how trade sanctions hurt domestic consumers (1886) - Online Library of Liberty

 
「戦争の時には、我々は敵が我々の製品を購入できないように、敵に対して経済封鎖を行なう。平和の時には、我々は関税を設けることによって、敵が戦争の時に我々に対して行なうことを、自分自身に対して行なう」
 
 
選挙中の公約を以てトランプ氏批判をする事が我慢できないトランプ支持者もいれば、当選を果たしたトランプ氏への批判が耐えられない支持者もいるようだが、我々は誰かを盲目的に礼拝するようなカルト宗教の信者ではない。複雑な諸問題に対して、単純明快なレトリックで大衆を煽動するトランプ次期大統領というデマゴーグに対しては、その政策や言動に懸念が生じる際には、今まで以上厳しく批判されていく必要がある。
 

f:id:HKennedy:20161205153705j:plain

 

911テロ首謀者による「新たなテロの波を防いだジョージ・W・ブッシュ」

ローン・ウルフ型のテロが急増する中、911テロ後にアルカイダのトップ首謀者、カハリド・シーク・モハメッドを尋問していたジェームズ・E ・ミッチェル氏の回顧録が出版された。その中で、911テロ後に、更に新たなテロ攻撃を多発させようとしていたアルカイダを止めたのが、ジョージ・W・ブッシュ大統領の政策であったとするカハリド・シーク・モハメッドの言葉が記されている。

ブッシュ前大統領はメディアや反対者によっても非難されるばかりである。ブッシュ前大統領の失政の為に中東問題が混迷し、テロが発生していると言わんばかりの非難が、オバマ大統領ばかりかトランプ次期大統領からも出ている。

 

多くの人々は、イラクから大量破壊兵器は発見されなかった*と信じているし、「ブッシュ・ライド、ピープル・ダイド(ブッシュが嘘をつき、人々が死んだ)」と繰り返されるが、果たしてその批判に理はあるのだろうか。

(*実際にはニューヨーク・タイムズ紙でさえ、2014年『大量破壊兵器による隠された犠牲者』というスクープ記事を発表し、大量破壊兵器が発見されていた事を認めている。遺棄された大量破壊兵器のために処分に当たってた米兵に被害が発生していた事は多くの関係者が証言している。またISIS が使用している化学兵器がイラクの遺棄したものであることは容易に理解できる。)

http://www.nytimes.com/interactive/2014/10/14/world/middleeast/us-casualties-of-iraq-chemical-weapons.html?_r=0

 

http://hkennedy.hatenablog.com/entry/2016/02/18/053536

 

以下に『フェデラリスト』の記事をご紹介する。

Top Terrorist: George W. Bush Stopped Us From Attacking Again After 9/11

----------

3,000人近くのアメリカ人を殺害した911テロの背後の立案者は、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)の粘り強さが、当時アルカイダによる新たな攻撃の波を防いだことを語っている。

CIAがブッシュ大統領(当時)の下、採用していた、テロリストたちから情報を収集する尋問のテクニックを高めたジェームズ・E ・ミッチェルが、自身の回顧録の中で、911テロの首謀者カハリド・シーク・モハメッドと交わした会話を記した。

f:id:HKennedy:20161130150017j:plain

『強化された尋問:アメリカを滅ぼそうとするイスラム教テロリストの頭の中と動機』という回顧録は、尋問強化テクニック・プログラムへの第一次記録を提供している。ミッチェルは読者を、彼が個人的にEIT(尋問強化テクニック ) を適用した、アメリカ国外にある秘密軍事施設とテロリスト、テロ容疑者の細胞組織へと導いてくれる。

ワシントン・ポストのマーク・シーセンは、ミッチェルの著書に、911テロの責任者を徹底的に探しだそうとするブッシュの決断が、テロ組織を震え上がらせ、新たな大規模な攻撃を仕掛ける事を思いとどまらせた様子が書かれていると書評に述べた。

私たちを引き込むつもりはなく、カハリド・シーク・モハメッドは、アルカイダが、911後のアメリカの反応を、1983年のベイルート米海軍バラックへの爆破事件の時と同様に、尻尾を見せて逃げるだけだと考えていた事を語った。

「すると彼は私の目を見て言った。『カウボーイのジョージ・ブッシュが、我々の生死のいかんに依らず我々を捕まえると宣言するなんて、どうして予測出来ただろう。』 ミッチェルは記している。「カハリド・シーク・モハメッドの説明によれば、もしアメリカが911をただの犯罪の一つとして対応していたならば、第二の攻撃の波を開始する時間があったようだ。アルカイダがそうできなかったのは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の頑迷な決意と素早い対応にアルカイダが尻込みした事による。

シーセンの書評によれば、カハリド・シーク・モハメッドは、ジハード同調者がアメリカに移民をし、アメリカ人が疲れ果て、降参をするまで、小さな規模の攻撃を続けるだろうと語ったそうだ。

カハリド・シーク・モハメッドに言わせれば、911のような大規模な攻撃は「良いが、必要ではない。」継続的な単純な技術の攻撃が続けば、いくつかの病気に感染をしているノミによって象が倒されるのと同じ論理で、アメリカを崩壊できるとしている。彼によれば、『ジハードの思いを共有する兄弟たち’がアメリカに移住し、アメリカの法と権利を身に纏いながら充分な力を養い、台頭し、我々を攻撃するらしい。

「彼は、兄弟たちは彼らの攻撃を休む事なく続け、アメリカ人はいずれ、疲労し、恐怖に慄き、戦いに嫌気がさし、戦いを放棄するだろう。いずれアメリカは殺戮される為に我々に首を差し出すだろう。」

ジハード同調者や自称ISIS戦士によるローン・ウルフ型のテロ攻撃の数が急上昇している事からも、カハリド・シーク・モハメッドの言葉は殆ど予言的であるとさえ言える。

カハリド・シーク・モハメッドの言葉は続く、「アメリカは彼らとは宗教戦争を行なってはいないだろうが、真のイスラム教徒はアメリカとの宗教戦争の最中なのだ。全世界の人間がシャリア法の支配下に置かれるまで、われら兄弟たちによる戦いは止むことが無い。」

トランプ次期大統領の勝因と、これからの『分析』

トランプ次期大統領の政策に関して、日本の一部の方々が「トランプ新大統領は中国を軍事力で抑える」や、「政策顧問が明らかにしたアジア政策」など、自信に満ちた調子で書かれている記事を拝見しますと、本国アメリカの熟練した政治評論家やアナリストらが「未だ、トランプ次期大統領が実際に何がするのかはわからない」と口を揃えて様子見をしている内に、日本のメディアが何故トランプ氏の政策に確信を持てるのか、不思議な気が致します。

 
中には「私はトランプ氏の勝利を一年前から予測していた」と書かれているメディアもありるようです。但し、その予測が「トランプ支持者の熱意」や「トランプラリーの熱狂」、「意外と多い隠れトランプ支持者」など、あくまでもトランプ陣営に勝利の秘訣があったとする限り、正しい分析がなされていたとは言えず、いくら予測が当たっていても、『当たるも八卦・当たらぬも八卦』の占いの域を超えません。
 
トランプ氏の勝利は、共和党やトランプ支持者にあるのではなく、民主党側にあります。
 
「トランプ選挙ラリーの熱狂」など主張しても、ラリーに集まるような支持者に熱心な支持者が多いのは当たり前ですし、比較で言えば、2012年にオバマ大統領に対抗して共和党から立候補したミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の選挙ラリーの方が、トランプ・ラリーよりも参加人数が多く、得票数で言っても、ロムニー氏の得票数がトランプ氏の得票数よりも勝っています。

トランプ氏よりも多く得票したロムニー氏がオバマ大統領に敗退した事を考えれば、なぜオバマ大統領に投票した有権者がヒラリー・クリントン候補に投票しなかったのかこそが問われ、分析されるべきです。
 
これについては、ロサンゼルス・タイムズが、1978年から1916年までの大統領選挙に遡って、有権者の動向に影響を与える外的要因を分析して、2015年5月に記事にしています。この分析によれば、以下の4つが、大統領選に影響を与える外的要因とされています。

In 2016's presidential race, the winner will be ... - LA Times

 
1)、現大統領が出馬しているか、どうか。現大統領が出馬していれば、選挙は現大統領に有利に働く傾向がある。
2)、政権政党が二期目を過ぎた選挙の場合、有権者は変化を好む。二期目を過ぎた政権政党からの候補者に対しては、選挙は不利に働く。
3)、共和党に対しては、良い意味の偏見が、僅かながら一貫して存在する。
4)、経済状況が選挙に影響する。国の経済が良好な場合、政権政党からの候補者に有利に働く。インフレーション、特に選挙の年のGDPの成長率が政権政党からの候補者に影響する
 
ロサンゼルス・タイムズ紙は、以上の4条件の1~3が既にクリントン候補に不利に働いているとし、経済成長率が3%の場合、民主党が46%の得票率を得るだろうと予測していました。候補者間の争いで、民主党が50%の得票率を得る為には、経済成長率が4%となる必要があり、それでも半数より僅かを獲得するだけで、圧勝とはならないと述べています。
 
ロサンゼルス・タイムズ紙が行なった1916年からの大統領選挙の分析のエラーは2,5%から3,5%とされており、同紙の分析による結果予測では、民主党が勝利する可能性は5%~13%と低く、同紙はその他のメディアがクリントン候補の圧勝を予測する中、共和党が勝利するだろうと見ていました。
 
実際、2016年度の経済成長率は3,4%で、クリントン候補が得票した割合は(47,9%)、50%台には達していません。

http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2016/update/01/ 

2016 National Popular Vote Tracker

 
ロサンゼルス・タイムズ紙による選挙結果の予測は、他紙の予測と異なり、トランプ氏を有利に見ていました。

 

さて、トランプ政権の方針やプランが明確にされていない中で、「トランプ氏は~する」と主張する事ほど、ある意味無責任な報道もないだろうと思われます。しかもその根拠となるのが「トランプ陣営の政策顧問が語った」や「トランプ氏に近い人物によれば」では、心許ない限りでしょう。立候補後のトランプ氏の発言を、トランプ陣営や、時にはトランプ氏自身が後に否定したり、トランプ氏のアドヴァイザーの発言と全く逆の発言をトランプ氏が行なうことが日常的に行なわれてきました。

例えば、キャンペーンの目玉政策であった「メキシコの壁」についての解釈も、「中国が羨ましがるような美しい偉大な壁(トランプ発言)」から始まって、「フェンス(トランプ)」「実際の壁ではなく、ヴァーチャルな壁(リック・ペリー、テキサス州知事)」、最近ではトップアドバイザーの一人であるニュート・ギングリッチ元下院議長が「実際の壁ではなく、選挙の為の優れたディヴァイス(からくり・用具)」と呼んでいます。
 
ですから、トランプ陣営の発言だけを以て、さもそれが詳しく計画され、決定され、承認された政策であるかのように報道する事は無責任であるばかりではなく、報道機関としてあまりにも大きな危険が伴う為、アメリカ本国の主要メディアではなされていません。
 
一方、メディアによって、トランプ新政権で誰が実権を握るかという予測はなされています。トランプ氏が実際の政治については、マイク・ペンス副大統領に任せるだろうという憶測や、実娘のイヴァンカ・トランプと、娘婿のジェアード・クシュナーの陰の発言力が囁かれています。
 
但し、トランプ政権の成り行きを占うには、トランプ陣営の発言や、トランプ氏に対して誰が助言しているかだけではなく、政策決定や遂行に影響を与える『外的要因』からも予測する必要があります。
 
2016年の選挙結果では、トランプ氏の当選だけではなく、共和党の議席確保が重要な意味を持ちます。これは先に述べた通り、民主党支持者による投票の渋りが原因に挙げられますが、共和党が多数を確保したと言っても、上院での議席数では民主党議席より3議席上回っているだけです。
 
トランプ氏の掲げる政策の一つ一つに民主党議員が反対票を投じたとして、トランプ氏の政策が承認される為には、3議席しか上回らない共和党議員ほぼ全員が、トランプ氏の政策に賛成しなければなりません。共和党の圧勝ならばともかく、3議席しか上回っていない現状では、反トランプを掲げていた共和党のジョン・マケイン上院議員や、ベン・サッシー上院議員、リンゼイ・グラハム上院議員などの有力議員からの賛成票が必要不可欠となります。これら「反トランプ派」の共和党議員の二人でも反対票を投じれば、トランプ新大統領の提案は、議会によって否決されます。
 
勿論、民主党議員がトランプ氏の政策に賛成票を投じる可能性はありますが、これだけ「反トランプ」のデモが広がり、反感が強いトランプ氏を支持する事は、選挙を控える民主党議員にとっては、政治的自殺行為となるでしょう。

 

f:id:HKennedy:20161118150726j:plain

                原則重視、同盟国重視を貫く共和党重鎮、ジョン・マケイン議員
 
実際、ポール・ライアン下院議長や、重鎮であるジョン・マケイン上院議員の発言権は、共和党の圧勝ではない為に却って増し、いくら大統領の権限が強いと言っても、反トランプ議員の意向を無視した政策を遂行することは出来ません
 
トランプ政権に誰が就任するかという問題ですら、上院の承認を得る必要があります。
 
ですから、選挙中のトランプ氏によるマケイン議員への冒涜や、支持者らによる反対派議員、政治家への罵倒に関わらず、トランプ政権が機能する為には、トランプ氏は選挙期間中の極端で過激な公約を改め、これら反対派の共和党議員が賛成し易い政策に軌道修正をする必要が生じています。
 
実際、ジョン・マケイン議員は「今までのアメリカの外交的立ち位置を棄て、ロシアとの関係を改め直す事は許されない」と警告し、トランプ氏の『親ロシア』と言われる姿勢を厳しく批判しています。

John McCain cautions Donald Trump over U.S.-Russia "reset" - CBS News

 
マケイン議員は以下の声明を発表しています。
 
「アメリカの政権移行が行なわれている最中、ヴラジミール・プーチンは最近、アメリカとの関係改善を願うと発言している。このような声明への信頼は、自らの国を専制国家に陥れ、政敵を殺害し、隣国を侵略し、アメリカの同盟国を脅迫し、アメリカの選挙の妨害を行なった元KGBエージェントへの信頼としてあるべきだ。オバマ政権のロシアとの関係の再出発は、プーチンによるウクライナ侵略と中東への軍事介入で頂点に達している。新たな「関係の再出発」は、どう少なく見積もっても、アメリカをプーチンとアサドが行なっているシリア人一般市民への惨殺の共犯とする。それは、アメリカという偉大な国にとって受け入れられない代価である。」
 
またマケイン議員は、2016年3月には東日本大震災を記念して、日本に対して以下のようにメッセージを送られています。
 
「5年前、日本と日本政府は戦後最大と言われる災害に見舞われました。世界はこれらの大惨事の何週間か、日本の人々が、同情と慈愛によって仲間を励ましていた様子を見、感動に心が打たれたのです。我々の同盟はこれらの試練の時にも活躍し、24の戦艦と2万4千人の兵士が「トモダチ作戦」に携わり、災害後の何か月か、復興の協力をする事が出来ました。私はそれ以来の5年間を振り返り、アメリカと日本の友情が深まった事と、地球上に起こる様々な挑戦を同盟国として共に対処してこられた事を誇りに思います。」
  
 
オバマ大統領に敗れたとはいえ、ヴェトナム戦争の英雄であり、2008年に大統領選挙に立候補したマケイン議員の議会での影響力は強く、マケイン議員が従来通りの共和党員として、原則重視、同盟国重視の立ち位置を強く主張している事実は、少なくとも暫くは、アメリカが従来の外交政策から極端な方向転換をする可能性の薄い事を示しています。
 
安倍首相は今朝、ニューヨークでトランプ氏と会見されましたが、トランプ氏が称賛するイスラエルのベンジャミン・ネタヤフ首相との協力関係を安倍政権が結んできた事は、トランプ氏と個人的な関係を結ぶ上でも良い結果を齎すでしょう。
 
この点から考えても、他国との外交的協力関係を強調してきた安倍外交は、歴史問題によってプライドを傷つけられた一部の自称愛国者からの非難にも拘わらず、現実的で日本の国益を重視した外交であると言えます。

最も重要な任務に就く「新鮮味溢れる」素人たち

2016年の大統領選挙には、全員で17人が共和党から立候補していました。

その中で、私は元脳外科医のベン・カーソン氏は、アイオア州での投票後、「洋服を新しく着替える為」として、選挙結果を受けた自らの祝賀会に参加せず、フロリダ州の自宅に飛行機で戻り、その後の投票が行なわれるニューハンプシャー州やサウスカロライナ州にも行く予定はないと発表され、選挙戦から撤退したという憶測を生んだ事があります。

 
このカーソン氏の行動を報道したCNNや、CNNの報道をもとにしたテッド・クルーズ陣営は「カーソン撤退」と解釈し、クルーズ陣営はカーソン支持者に対して、自分への支持を訴えました。
 
カーソン氏は撤退を否定し、クルーズ議員を「汚いトリックを使った」とし、クルーズ議員を猛批判した上、自らが大統領選に出馬した理由を「これらの嘘の多い、破壊的なやり方を止める為」であったと説明しました。カーソン氏にとって、既存の政治家による政治を、もう一度普通の人々に戻すことに立候補の目的があったようです。
 
これらの報道は、政府の力を『われら、人民』に返す私の戦いを更に勢いづけるだけです。」
 
ところが昨日の報道では、トランプ氏からトランプ政権入りを打診されたカーソン氏が、「公職や政治の経験が全くない」という理由で、打診を断っていた事が明らかになっています。カーソン氏の補佐官は、「カーソン氏は公職の経験がなく、連邦政府で働いた経験もありません。カーソン氏は大統領の仕事の邪魔にはなりたくないと考えられています」と説明し、カーソン氏自身も「一つの分野だけでなく、色々な分野の問題について働く自由が欲しい」と語っています。

Ben Carson declines role in Trump administration - Business Insider

Ben Carson is the reason vanity candidacies must end

 
不可思議なのは、大統領を補佐する役職に就く事を「政府職の経験が無い」として辞退する人物が、大統領選に出馬していた事実です。
 
カーソン氏は大統領選に出馬した手前、選挙キャンペーンのための資金援助を共和党から得ていました。あまりにも多くの候補者が出た為、共和党支持者間の票割れが懸念され、何としてもトランプ指名を阻止したかった保守派政治評論家などから、「勝利する見込みのない候補者(カーソン氏とジョン・ケーシック州知事)は大統領選から撤退するべきだ」と促されたこともあります。
 
カーソン氏は、選挙戦から撤退後、トランプ支持を表明し、選挙戦からの撤退後もトランプ氏へのアドバイザーとして、自説をメディアで語る機会を多く持ちました。現在でも元大統領選立候補者、トランプ・アドバイザーとして講演会に招かれ、著書も多く売れています。
 
去年にも主張した事ですが、私は政治の未経験者が大統領になる事を良いとは考えていません。勿論、専門家でもミスをすることはありますが、素人がミスを犯すよりも頻度は少なく、ミスに対する処置も、早急で、悪影響を軽減する知識を持っています。気象予報士であっても、外科医であっても、経済学者や将軍であっても、ミスや作戦の失敗はつきものです。それでも明らかに、有能とされる気象予報士、外科医、経済学者や将軍と、そうでない人々との差は明らかです。
 
政治や経済、又軍事作戦の悲劇的な点は、自分も何とか出来ると勘違いする素人が多い点かもしれません。また、政治にまつわる特徴的な悲劇は、その勘違いした素人が、民主主義という、その他のシステムと比較すれば最もマシなシステムのもと、同じく無知な人々によって選ばれてしまう点かもしれません。
 
カーソン氏にしても、トランプ氏にしても、大統領執務室を、これからその重大な職務について学ぶ場と考えているようないい加減さがあります。一部有権者は、この素人デュオの「新鮮味」を喜びましたが、「新鮮味溢れる外科医」を喜ぶ患者がいるでしょうか。「新鮮味溢れるパイロット」を喜ぶ搭乗客がいるでしょうか。例え医療ミスや飛行機事故が続いていても、素人による執刀や未経験者の飛行機操縦を「既存のエスタブリッシュメントへの懲罰を加える為」と歓迎する人々が果たしているでしょうか?
 
どうやら私たちは、大統領という最高指揮官を単なる人気投票と勘違いしたまま、誰が能力や知識のある人物か見極める知恵も持たないドナルド・トランプ氏という「新鮮味溢れる大統領」に、世界で最も重要で、複雑な職務を任せるようです。

Trump closes campaign as he began it: Running against the establishment

 

f:id:HKennedy:20161117165952j:plain

取扱説明書を読みながら飛行機を操縦するパイロットのトランプ氏 (全くの未経験を風刺している)