2020-04-18から1日間の記事一覧

最後に

虐待について、私は何の資料も目にしていない。ただ自分の経験の一部を書いただけである。これらは私の目線を通した記録であり、私の家族には別の目線があり得る事も認識している。目線の違いで言えば、母は生前、祖母に見捨てられたと感じながら育った一方…

それから

2014年11月、私は父に会おうと、実家近くの駅に向かっていた。父に会うのは10年ぶりだった。母が亡くなった翌年、私は夫と子供達3人を連れ、渡米していたからだ。 母が亡くなった直後、父は生前の母の写真数百枚を寝室一面に貼りつけたり、母に似せた観音像…

母の死

母に癌の転移をどうやって伝えようか、私たちは考えなければならなかった。母の双子の姉である貴子伯母も、舞ちゃんの母である叔母も、誤魔化したり嘘をつく事無く、医師の言葉をそのまま伝える方が良いと考えた。私もそのように父に提案した。父も異存は無…

基を産んで

生まれた子供は男の子だった。基(もとい)と名付けられた子供は、香とは違い、新生児でありながら、一日合計約8時間しか眠らず、あとは延々と泣き続けた。新生児の時の香は、起きていてもお腹が空いていたりおむつが濡れていなければ泣かなかったので、その静…

私の怒り

長女は香(仮名)と名付けられた。香は利発で、機嫌の良い子供だった。顔は夫に似ていたので、穏やかな、おひな様のような可愛らしさがあった。子猫のようなソプラノの声で笑ったり、泣いたりした。声を聞くだけで、いつか読んだサン・テグジュペリの『星の…

虐待に気付くまで

私が高校二、三年生の頃、母は更年期を迎えていたらしい。 そのせいで、という訳でもないのだが、 この頃の母の行動は常識を逸脱していたように感じる。一度、 ある考えが浮かぶと、それを制御したり、しばらく様子を見る、 という事が全く出来なくなった。 …

舞ちゃん

中学生二年生だった冬に、隣の白い洋館に住む叔母夫婦に、待望の赤ちゃんが生まれた。結婚後8年目にしてようやく生まれた女の子の赤ちゃんで、叔母夫婦は、それこそ目に入れても痛くない程、可愛がった。赤ちゃんは舞ちゃん(仮名)と名付けられた。 舞ちゃ…

チルチル、モコ、ミルク

ミチルがまだ生きていた頃、小学校からの帰り道、私は男の子数人が、段ボールを囲んでワイワイと騒いでいるのに出くわした。何をしているのだろうと、私は友達と覗いてみた。段ボールの中には小さな子犬が三匹いた。一匹は黒く光る短い毛の子犬で、もう一匹…

ミチル

私の家族には、上下関係、もっとハッキリと言えば、苛めのヒエラルキーのようなものがあり、母が頂点に存在する一方、私は常にその底辺にあった。母は普段、掃除などの家事を、月々いくらか支払って、祖父の養女である律子伯母に任せていた。律子伯母は、別…

祖父母について

虐待をする親というのは、若く、知識や、金銭的余裕の無い親だという先入観が、一般的にはあるかもしれない。もちろん、そうした例も多いだろうが、私の両親は会社を経営しており、金銭的にもかなりの余裕があった。そうは言っても決して『成金』ではなく、…