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『フェイク・ニュース』と叫ぶトランプ政権による《報道の自由》への攻撃

毎日どころではなく、一日何度も報道されるトランプ批判の非は、誰にあるのだろう。メディアによる報道がヒステリックであればあるほど、それが却ってトランプ大統領本人や政権の潔癖を表すかのようなおかしな主張がある。これは、狂人の狂った行動への反応が大きければ大きい程、狂人の正常を表しているとするのに等しい馬鹿げた論理である。
 
トランプ大統領の錯乱ぶりやトランプ政権の無策、無知、違法性、不正腐敗等は余りにも度を越している。その錯乱や不正腐敗のスキャンダルの一部でも他の政治家のものだったら、それだけで大きな失点となっていただろう。
 
トランプ大統領は、マイク・フリン大統領補佐官の辞任に伴い、木曜日に記者会見を開いたが、CNNのジム・アコスタ記者を罵り、「ただのフェイク・ニュースじゃない。悪いフェイク・ニュースだ」と呼んでいる。実際、トランプ氏が今日の会見で非難したのは、CNNだけではない。何故か再びヒラリー・クリントン、オバマ前大統領、民主党、共和党、裁判所、裁判官、リベラル派などであるが、特筆するべきは、オーソドックス系ユダヤ人レポーターからの「反ユダヤ主義の台頭をどう対応していくのか」という質問を「悪い質問」と呼び、質問自体をトランプ氏への「侮蔑だ」と呼んでいる事だろう。

https://www.nytimes.com/2017/02/17/us/politics/trump-press-conference-jake-turx.html

 
木曜日の記者会見でのトランプ大統領の振る舞いや、メディア批判、特にCNNレポーターへの批判は、さすがに普段トランプ支持を表明するフォックス・ニュースでさえ怒らせた。フォックス・ニュースのシェプ・スミス記者は、まずCNNのジム・アコスタ記者について「会ったことは無いが、立派な記者だ」と弁護した上で、
 
「毎日、我々が目にするのは全く狂っている。完全に狂ってしまっている。彼(トランプ氏)は、全くくだらないゴミのような嘘の主張を繰り返し、まるで質問する我々が愚か者であるかのように、ロシアに関する質問には全く答えようとしない。果たしてそうなのだろうか。対戦相手がロシアによってハッキングされ、その最中に自分たちはロシアと電話をしていたのだ。一体それについて質問する我々の方が愚か者だと言うのか? 大統領閣下、そうではない。我々がこれについて聞くことは決して愚かではない。そしてこれについての誠実な答えを我々は求めている。アメリカ人はこれを知る権利が絶対にある。あなたの支持者らは、いずれにせよ、あなたを支持し続けるのだ。あなた方はロシアと何を話していたのか? 彼らは何を言っていたのか。我々にはそれを知る権利がある。あなた方が我々をフェイク・ニュースと呼び、アメリカ市民に代わって質問をする我々を、まるで子供であるかのようにあしらっている事は、論理にそぐわない。人々はこれを知る権利があるのだ。」と語っている。

Fox host Shepard Smith slams president, Trump supporters call for his head

 
またトランプ氏は、自らに批判的なニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙などの一流紙を信頼するに値しないと罵り、無知なだけで知識のない支持者を狂喜させるが、これら一流紙は、勿論『フェイク・ニュース』ではない。
 
一方、トランプ大統領が「素晴らしい働き」と称えたアレックス・ジョーンズの代表する『インフォワーズ』は、陰謀説専門のサイトである。ジョーンズ本人は911テロをアメリカ政府による内部工作と呼び、2012年、コネチカット州のサンデーフック小学校で起き、28名が犠牲となった銃乱射の虐殺事件を「実はなかった」と否定している。また2016年5月にトランプ氏が「テッド・クルーズ議員の父はJFケネディーを暗殺したリー・オズワルドと一緒だったと書いてある」と主張した『ナショナル・エンクワイヤー誌』は、その半年前には「ヒラリー・クリントン、余命あと半年」と一面に飾ったタブロイド誌である。
 
トランプ氏は、自分に対して好意的な一部アルト・ライト・メディアを好意的に称えているが、批判的記事を書くメディアを指して『フェイク・メディア』と呼んでいるだけだ。
 
もちろん、ニューヨーク・タイムズ紙はその編集意見に於いてリベラル傾向が強く表れるが、調査能力や情報収集能力においては、やはり群を抜いている。例えばニューヨーク・タイムズは2014年にイラクに大量遺棄された化学兵器についてのスクープ記事を報道している。また2016年には、トランプ氏の中国銀行への多額の借金についても暴露記事を書いている。

 

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      錯乱的と言われたトランプ大統領の2月16日記者会見

 
ワシントン・ポスト紙もリベラル・メディアであった事は間違いないが、事実関係においては客観的な記事を心がけている。特にトランプ氏が共和党指名候補者に選出されてからは、これに反発する保守層が読者層に組み込まれた為、かなり客観的な記事に徹している
 
これらの二紙は確かにリベラル色があると思われるが、トランプ批判だけに徹し、民主党政治家の不正については報道しない訳ではない。
 
たとえば、ヒラリー・クリントンが私的なemailサーバーを使用した疑惑についてスクープしたのも、ニューヨーク・タイムズだ。実際、マイケル・フリン大統領補佐官とロシア大使の会話疑惑についてスクープ報道したマイケル・シュミッド記者こそが、ヒラリー・クリントンの私的サーバー使用とその違法性について一番にスクープしている。

https://www.nytimes.com/2015/03/03/us/politics/hillary-clintons-use-of-private-email-at-state-department-raises-flags.html?_r=1

 
また、ワシントン・タイムズは、「中国は『一つの中国』をトランプ大統領が認める代わりに、商標登録の権利を認めた」というような印象を受けるAP通信の報道内容について、トランプ名の商標権は既に2016年9月の判決でトランプ氏に認められており、2月14日の通知は、法的な正式通知が為されたに過ぎない事を更に詳しい時系列を含む報道によって示唆している。こうした中国の決断が、トランプ氏の大統領就任に関係があったとしても、『一つの中国』政策を認める決断と関係があったとは結論付けられない。

China awards Trump valuable new trademark

Trump gets his trademark in China. But he won’t be reaping the benefits. - The Washington Post

 
ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストやCNNは、トランプ氏が名指しして『フェイク・ニュース』と非難するメディアの代表格だが、こうした一流メディアはその報道に於いて社会的責任が伴い、軽々しく事実関係を歪曲して報道する事は殆どない。少なくとも、意図的な歪曲はないと言って良いだろう。
 
ではAP通信は『フェイク・ニュース』なのだろうか。
 
AP通信を批判する前に、パターン化したホワイト・ハウスの策略があると見られている。
 
金曜の朝、AP通信は「トランプ政権が10万人の国境警備隊を使って、違法滞在者を一斉検挙する計画がある」と報道した。これは移民局に行き渡ったメモを基にした記事だが、これを実現する事実は無いようで、ホワイト・ハウスのショーン・スパイサー報道官は、「APは記事にする前に、我々に確認するべきだった」と発言している。

AP Exclusive: DHS weighed Nat Guard for immigration roundups   

White House denies report Trump is considering using National Guard troops for immigration roundups - LA Times

 
まず、もしAPがこの記事をデマカセや思い込みで書いたのならば、『フェイク・ニュース』だと言われても仕方がない。
 
しかしながらAPは、記事文中にもあり、またスパイサー報道官に反論している通り、何度もホワイトハウスや移民局に事実関係についてコメントを求めていたのだ。ショーン・スパイサー報道官や大統領府、移民局は、AP通信からの度重なる事実関係確認の要請を無視しておいて、記事にされるや即座に『フェイク・ニュース』と信頼性を損なわせているのだ。
 
ビジネス・インサイダー誌は、ホワイト・ハウスによるこうした傾向を以下のようにまとめている。
 
1.   メモや政策提案がメディアに流出されるのを待つ。
2.  メディアからの、メモについての信憑性や事実関係への確認には答えない。
3.  情報の真偽については、記事にされるまで待つ。
4.  メディアが事実関係の確認なく記事にしたと非難する。
 
 
ホワイト・ハウスのこうした手段に惑わされているのはAP通信だけではない。ビジネス・インサイダーによれば、ホワイト・ハウスは、ニューヨーク・タイムズ紙やウォール・ストリート・ジャーナル紙等、多くのメディアに対して同様の黙秘を続けている。記事にされる前の段階で行政側が黙秘を続けるならば、メディアは「ホワイト・ハウスはこれについてのコメントの要求に答えていない」と書くしかない。後になって、行政側から流出されたメモを基にした記事が「政策を正確に反映していない」と批判されても、その非はメディアにあるだろうか。

Fake News Or White House Manipulation? Media Reports Draft Trump Plan For 100K Anti-Illegal Immigration Enforcement Force, Trump Denies | Daily Wire

 
これだけでない。木曜夜には、トランプ政権筋の話として、解任されたマイケル•フリン補佐官の後任として、芸術史家が選考の対象に上がっているというニュースが流れた。これは主要メディアは殆ど無視したが、情報の流出は政権に近い人物が行なっているのだ。意図的にヒステリックな反応を起こす情報を流出し、メディアの不正確を指摘する目的があるのかもしれない。であるから、こうした現状を踏まえ、ワシントン•ポストの記者らは、政権側に情報錯乱の意図があると警戒している。
 
このような悪質なパターンを見る限り、ホワイト・ハウス側にメディアを陥れる悪意があるとしか思えない。トランプ政権は、政権側から流出された情報の真偽を否定せず、それが記事になった段階でメディアの信頼性を失なわせ、全てを『フェイク・ニュース』とレッテル貼りしているのだ。国民によるメディアへの信頼を損なってしまえば、あとはトランプ政権スキャンダルに関するどんな報道があっても、国民を騙し続けられると考えているのだろうか。
 
更にダメ押しでもするかのように、トランプ氏は『フェイク・ニュース・メディア(失敗しているニューヨーク・タイムズ、NBCニュース、ABC、CBS、CNN)は、私の敵なのではない。アメリカの人民の敵なのだ』とツイートをしている。
 
このツイートについて、外交アドバイザーのマックス・ブート氏はこれを「これはしばし専制君主が言うような、危険なレトリックだ。アメリカ大統領から聞いたことは無い」と警告し、ジョン・シンドラー氏も「『人民の敵』とは、レーニン、スターリンなどが、何百万人もの無辜の人々を虐殺した際に正当化する為に用いた表現だ」と述べる。ビル・クリストル氏も、「『人民の敵』という表現が、良い結末を迎えたことは無い。アメリカの通常や自由民主社会では聞かれない表現だ」と警戒している。
 
メディアの記者やジャーナリストは一般市民である。彼らは、他の一般市民に対して情報を提供しようとしているに過ぎない。勿論、国によってはこうした報道の自由の為に命を落としたジャーナリストもいる。彼らは『人民の敵』などでは決してない。大統領を始め、政治家や公職につく人々にとって、メディアからの批判に不満を持たなかった人物はまずいないだろう。
 
それでも、報道の自由は、健全な民主主義社会には欠かせないものだ。アメリカの独立宣言を起草したトーマス・ジェファーソンは、1787年、以下のように書いている。
 
「政府の元となるものは人民の見解である。まず第一の趣旨は、ここにあるのだ。もし新聞の無い政府を取るか、政府の無い新聞を取るか聞かれれば、私は一瞬の迷いもなく、後者を取ると答えるだろう。」
 
トランプ大統領は、メディアだけではなく諜報機関に対しても冒涜を続けているが、こうした『宣戦布告』が良い結末を迎える事は絶対にない。アメリカという国家の安全保障を守る諜報機関や、社会を健全なものとする『報道の自由』を弾圧しようとすれば、トランプ大統領の行き着く先は、ニクソン大統領のそれよりも、遥かに惨めで破壊的なものとなるだろう。

マイケル・フリン大統領補佐官辞任で始まる、米諜報機関によるトランプへの反撃

アメリカの政治事情 プーチン・ロシア

トランプ大統領が国家安全保障会議のメンバーとして任命したマイケル・フリン大統領補佐官が、ロシア大使との間に、ロシアに課せられた制裁解除を巡る密約をしたとする報道は、トランプ陣営が再三に渡って否定してきたトランプ陣営とロシア政府との関わりを裏付けている。不可解なのは、フリン補佐官が、独自の判断で勝手にロシアへの制裁解除を約束していたのか、或いは命令を受けて交渉を進めていたかの点である。

https://www.nytimes.com/2017/02/14/us/politics/russia-intelligence-communications-trump.html

 

トランプ大統領やトランプ陣営がどんなに否定したところで、彼らとロシア政府との不可解な関係は明らかであり、これまでに何度も指摘されてきた。

勿論、トランプ陣営では、ロシアとの不可解な関わりがもととなり辞任した政策顧問らが他にもいる。ポール・マナフォート、カーター・ペイジ、ロジャー・ストーンらである。FBIはトランプ陣営アドヴァイザーらの旅行記録や銀行口座の出入金などの情報を得、ロシア政府とトランプ陣営に対する関わりを突きとめる為に、数人から事情を聴いたようだ。ロシア政府とトランプ陣営は、選挙中も頻繁に連絡を取り合っていた事が発覚している。

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          辞任に到ったマイケル・フリン大統領補佐官

トランプ氏本人と、ロシア政府による米民主党システムへのハッキングなど、直接的な共謀の事実の有無や、会話内容そのものについては未だ明らかにされていないが、トランプ陣営が頻繁に連絡を取り合った時期と、トランプ氏が「ロシア、もし聞いているならば、ヒラリーの私的サーバーにハッキングをして、喪失したとされる3万通のemailを見つけて欲しい」と訴えた時期とは重なっている。トランプ氏が「ロシア制裁解除」と引き換えに、民主党やヒラリーへの選挙妨害や、自らへの支援を要求したとなれば、完全な違法行為である。

マイケル・フリン大統領補佐官は、軍の諜報機関に任務を得ながら、数多の規則違反の為にオバマ前大統領によって解任された人物である。彼は今までにもロシア政府お抱えのメディア『ロシア・トゥデイ』に出演し、アメリカの外交政策を批判するスピーチを行ない、ロシアからの謝礼を受けている。ロシア・トゥデイ主催の記念会では、プーチン大統領と同じテーブルについている。

フリン補佐官とロシア政府との繋がりは、諜報機関によって司法庁に報告され、サリー・イェイツ司法長官代理は、フリン補佐官とロシア大使との繋がりを違法の可能性すらあるとホワイト・ハウスに報告している。ところがこの報告は、1月26日にトランプ大統領が受けた後もマイク・ペンス副大統領には知らされず、2月9日、フリン補佐官やトランプ陣営とロシアとの連絡について聞かれたペンスをして「あり得ない」と答えさせている。フリンとロシア大使との電話記録の事実がペンスに報告されたのは、同日、ペンスがメディアのインタビューに答え、トランプ陣営とロシアの関わりを否定した直後だ。

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 2015年、ロシア・トゥデイの式典に出席し、プーチン大統領と同席するマイケル・フリン

Mike Pence briefed on Justice Department Michael Flynn assessment 15 days after Trump - Business Insider

 

フリン補佐官とロシアとの電話連絡についての報告を受けながら、それをトランプ氏は何故ペンス副大統領に伝えなかったのか明らかにはされていないが、メディアの厳しい追及さえなければ、そのままフリンを起用し続けるつもりであったのかもしれない。

トランプ氏は水曜朝、二時間の間にメディアやアメリカ諜報機関を非難するツイートを6つも行なっている。そのうちの一つは、「ここにある本当の問題は、機密情報が、お菓子か何かのように違法にバラまかれたということだ。非アメリカ的だ!」というもので、少なくともこの情報が流出されたもので、『フェイク・ニュース』などではない事は認めているようだ。

トランプ氏は、米民主党システムへのハッキングがロシアによって為された事を不自然なほど否定し続けてきた。それだけではなく、そうした報告を行なった米諜報機関を冒涜し、彼らをナチス・ドイツに比較して、プーチン大統領とロシアを擁護する事さえした。

Trump’s comparison of U.S. intelligence community to Nazi Germany rebuked by Anti-Defamation League - The Washington Post

 

プーチン大統領によってロシア政府への批判を行なう反対派やジャーナリストらが殺されている事実を、MSNBC局のジョー・スカボローだけでなく、フォックス・テレビのビル・オレリーに指摘されても「アメリカもいろいろな殺人を行なっています。アメリカが無罪だというのですか?」と、ロシア政府による反対派への弾圧を、アメリカの戦争や一般犯罪をロシア政府による反対派への弾圧と同一化してみせた。NATOやオーストラリア、日本のような同盟国、またメキシコという近隣国を罵倒しながら、何故かロシアのプーチン大統領だけは批判したことが無い。

Trump defends Putin: 'You think our country's so innocent?' - CNNPolitics.com

 

今回の情報流出は、諜報機関によるトランプへの反撃であると言われている。トランプ大統領程、アメリカの国益、憲法を固守する為に宣誓を行い、命の危険さえある任務に赴く諜報機関を軽んじ、冒涜した大統領はかつていない。彼は大統領就任翌日、自らと諜報機関との関係の悪化を否定するパフォーマンスを行なう為にCIA本部に赴いた。ところが、任務遂行にあたって命を落とした職員の名が記されてある壁を背景に、トランプ氏が語ったのは、自らの就任式への観衆数の自慢と、主要メディアへの批判である。ご丁寧な事に、CIAと自らの良好な関係を演出する為に、スピーチへの拍手を演出させたが、拍手をしたのは動向したトランプ陣営関係者であり、CIA職員ではない。

Donald Trump brought his own people to cheer for him when he spoke to the CIA | indy100

 

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殉職したCIA職員を記念する壁を前に、大統領就任式観衆の数を誇り、メディアを批判するトランプ大統領

 

CIA職員らは、殉職した職員の記念碑を前にした主要メディア批判と中身のないパフォーマンスに、トランプ氏への反感を新たにしたという。実際、CIA元長官のジョン・ブレナン氏は、このトランプ氏のCIA本部訪問に「深く嘆き、怒りを感じている」と述べている。

Brennan bashes Trump over speech during CIA visit - CNNPolitics.com

 

諜報機関の抱える反発は、それだけではない。彼らは命を賭けてアメリカの国益の為に戦い、情報を得ている。これには西側同盟国の諜報機関との連携が欠かせないが、西側諜報機関の敵であるロシア政府、及びロシア・スパイとトランプ陣営が通じていれば、せっかく得た情報も報告出来ないのだ。実際、既にイギリスのスパイ機関は、アメリカ諜報機関への情報提供に懸念を持っている。また、ジョン・シンドラー氏の報道によれば、あるトップ諜報員らは、トランプ政権の危機管理室はロシアに筒抜けであるという認識から、情報提供を拒絶している。情報を報告してもトランプは恐らく無視をするだろうし、しかもトランプは、やっと仕入れた情報を、ツイートや電話会話等を通してロシア政府関係者に伝える可能性が否定出来ないからだ。

Trump’s Kremlin Connections Overwhelm the White House | Observer

 

 https://www.wsj.com/articles/spies-keep-intelligence-from-donald-trump-1487209351

 

自らが諜報員であり、2016年の大統領選出馬者でもあったエヴァン・マクミラン氏によれば、諜報員や安全保障エージェントらは、アメリカ内外の敵からアメリカ(の憲法)を守る宣誓を行なっている。トップ諜報員に近いシンドラー氏の報道や、マクミラン氏のトランプ批判から考えても、米諜報機関が、その任務遂行の為の『国内の敵』を、トランプ政権内に見出していると言って言い過ぎでは無いだろう。

重ねて言うが、現在、トランプ氏と、ロシア政府による米大統領選挙介入やトランプ氏への勝利工作を結び付ける陰謀の証拠は、明らかにはされていない。トランプ氏とロシア政府との繋がりも鮮明ではない。もしトランプ氏が関わりのない事を証明する為には、何よりもトランプ氏の納税還付証明書の提出が欠かせないが、トランプ氏はこれを頑なに拒否している。

トランプ氏は選挙中、IRS合衆国内国歳入庁による監査の為に納税還付証明書を公表できないと主張していたが、現在では、監査は関係なく、「有権者はそれに興味がないので公表する必要を認めない」と主張を改めている。ところが、ピュー・リサーチの調査(60%)やその他の世論調査でも、大多数のアメリカ人がトランプ氏の納税還付証明の公表を必要あると見ている。

Trump wrong that Americans don't care about his tax returns | PolitiFact

 

トランプ氏は、度重なる破産によって殆どのアメリカの銀行に融資を拒否された後、ロシア投資家により借金を肩代わりされている。またトランプ・グループが企画した、『トランプ・ソーホー』では、ロシア政府に近い組織犯罪グループからの援助を受け、マネー・ロンダリングや脱税の疑惑で訴訟になっている。トランプ氏本人の認識は定かではないものの、『トランプ・ソーホー』の主要パートナーを、トランプ・グループのアドヴァイザーにも迎えている。

Donald Trump's Many, Many, Many, Many Ties to Russia | Time.com

 

トランプ氏とロシアとの繋がりの解明は、マイケル・フリン補佐官の解任だけにはとどまらない。むしろこれを機に、更に解明が進むだろう。トランプ氏は連発した今朝のツイートで、諜報機関に対する批判を行なった。「ワシントンに居座る詰まりを流す」といったレトリックで当選したトランプ氏だが、『詰まり』と冒涜された真の愛国者たちが、国内外の敵に対して反撃を開始していると言えないだろうか。

The Swamp Strikes Back | World Affairs Journal

 

ガンジーから、「すべての日本人への手紙」

日本の歴史、政治
人間には、自分の聞きたい話だけを聞き、自分にとって都合の悪い話は全く無視するか、全く別の解釈を加える傾向があるのかもしれない。あるいは、自分の好むストーリーを語ってくれる語り部だけを集め、好みの証言集だけを聞き、満足する人々もいるのかもしれない。
 
「日本がアジアを開放し、感謝されている」という『歴史観』は、果たして正しいものだろうか。「日本が欧米の植民地支配、帝国主義からアジアを開放した」という歴史観は、中国や韓国以外のアジア諸国にならば、一般的に認められている歴史観なのだろうか。或いは、「東京裁判」さえなければ、歪められなかった筈の歴史の事実なのだろうか。例えば、イギリスによるインド植民地支配が「搾取一方の悪」であり、逆に日本のアジア進出は歓迎されていたのだろうか。
 
1942年にインドのマハトマ・ガンジーが「すべての日本の人々へ」として記した手紙を、以下に訳して紹介する。

To Every Japanese : Selected Letters from Selected Works of Mahatma Gandhi

 
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まず初めに言っておきたいのです。あなた方に対する悪意は無いのですが、私はあなた方の中国への攻撃には非常に嫌悪感を持っています。あなた方はその高尚な高さから、帝国の野望に堕ちてしまいました。あなた方はその野望に気付く事なく、アジアの手足切断の製作者となり、そのように知らずして、それ無しには人道主義への望みの有り得ない「世界の連合」や「同胞化」を防いでしまっているのです。
 
50年以上前、ロンドンにて勉強していた18歳の少年の時以来、私はサー・エドウィン・アーノルドの書籍を通して、あなた方の国の素晴らしい資質について学びました。南アフリカにおいて、あなた方がロシア軍に対して勝利をしたと聞いた時には興奮をしたものです。1915年、南アフリカからインドに帰国した後、私は、我々のアシュラムのメンバーとしてしばし過ごした日本人仏僧たちと親しくなりました。そのうちの一人は、セヴァグラムのアシュラムでの貴重なメンバーとなり、彼の義務への遂行、高潔な態度、毎日の礼拝への尽きる事の無い献身、親しみやすさ、どのような状況下でも変わらない落ち着き、内なる平安の肯定的な証拠である自然な微笑みなどによって、我々全員からの尊敬を得ていました。
 
しかしながら、あなた方による大英帝国への宣戦布告をもって、彼は我々から引き離されてしまい、我々は彼という同労者の不在を悲しく感じています。我々を毎朝起こしてくれた彼の日ごとの祈り、彼の小さな銅鑼の思い出が残されています。この喜ばしい想い出を背景に、私には「挑発を受けずして行なった」と考えられる中国への攻撃と、またもし報道が信じるならば、あなた方が優れて古い土地にもたらした憐みの無い荒廃を、私は深く嘆き悲しんでいるのです。
 
あなた方が世界の大国と対等な位置につこうとされた野心は貴いものだったでしょう。しかしながらあなた方の中国侵略と枢軸国との同盟は、到底是認できない野心の行き過ぎです。
 
あなた方が自らのものとしてその古典的な文学を取り入れた偉大な古代の人々が、実はあなた方の隣国人だということに誇りを持つだろうと考えていました。お互いの歴史、伝統や文化への理解は、今日あなた方を敵ではなく、友として結びつけるべきだったのです。
 
もし私が自由人であったならば、もし私があなた方の国に行けるならば、弱っているにしても、自分の健康や、命さえ危険に陥れたとしても、あなた方の国に行き、あなた方が中国、世界、ひいては自分自身に対して行なっている悪行を止めるよう、お願いするでしょう。

 

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しかしながら、あなた方による大英帝国への宣戦布告をもって、彼は我々から引き離されてしまい、我々は彼という同労者の不在を悲しく感じています。我々を毎朝起こしてくれた彼の日ごとの祈り、彼の小さな銅鑼の思い出が残されています。この喜ばしい想い出を背景に、私には「挑発を受けずして行なった」と考えられる中国への攻撃と、またもし報道が信じるならば、あなた方が優れて古い土地にもたらした憐みの無い荒廃を、私は深く嘆き悲しんでいるのです。
 
あなた方が世界の大国と対等な位置につこうとされた野心は貴いものだったでしょう。しかしながらあなた方の中国侵略と枢軸国との同盟は、到底是認できない野心の行き過ぎです。
 
あなた方が自らのものとしてその古典的な文学を取り入れた偉大な古代の人々が、実はあなた方の隣国人だということに誇りを持つだろうと考えていました。お互いの歴史、伝統や文化への理解は、今日あなた方を敵ではなく、友として結びつけるべきだったのです。
 
もし私が自由人であったならば、もし私があなた方の国に行けるならば、弱っているにしても、自分の健康や、命さえ危険に陥れたとしても、あなた方の国に行き、あなた方が中国、世界、ひいては自分自身に対して行なっている悪行を止めるよう、お願いするでしょう。
 
けれど私にはそのような自由はありません。また私たちは、日本主義やナチスズムと同じくらい嫌っている帝国主義に抵抗する特殊な立場にあります。私たちの抵抗は、英国の人々に損害を与える意味はありません。私たちは彼らを改心させようとしているのです。私たちのものは、英国支配への非暴力の抵抗です。我々の党は、外国の支配者との間に、真剣でありつつ、しかも親しさのある論争を展開しています。しかしながら、この運動に、外国勢力の支援は必要ないのです。日本によるインド攻撃を間近に控えたこの時期を、(インド独立によって)連合国側に恥をかかせる良い機会と考えているならば、あなた方は間違いなく誤った情報を得ているのです。もし我々が英国の困難を、自分たちの好機だとしたかったのなら、我々は戦争が始まった3年前に、そうしていたでしょう。
 
英国勢力撤退を要求する我々の運動は、誤解されるべきではありません。実際、(報道されているようなインド独立に対するあなた方の心配を信じるならば)英国による独立承認は、あなた方にインド攻撃の口実を与える事は無い筈です。
 
しかもあなた方の主張とあなた方の容赦ない中国への攻撃に、整合性はありません。あなた方が「インドから歓迎でもって迎え入れられる」などという悲しい幻想に惑わされ、過ちを犯さないようにお願いしたいのです。英国撤退運動の手段と方法は、「英国帝国主義」と呼ばれようが、「ドイツ・ナチズム」であろうが、或いはあなた方の類であろうが、インドを全ての軍国主義、帝国主義の野望から自由にすることによって、インドを整えることにあるのです。
 
もしそうでなければ、非暴力が軍国主義精神ととその野望への唯一の媒体とする信念に逆らって、我々は世界の軍国主義化への卑しい観衆となっていたでしょう。個人的に、私は、インドの独立を宣言することなしに、連合国軍側は、ただの暴力に宗教的な高潔さを与えてしまった枢軸国軍側を打ちのめす事は出来ないのではないかと危惧しています。あなた方がするような、容赦なく、効能的な戦闘によらなければ、連合国側はあなたとあなたの同労者を打ち負かすことは出来ません。しかし、もし彼らがあなた方のやり方を真似るならば、彼らが世界を民主主義と個人の自由の為に救うという宣言は、無価値なものとなってしまいます。
 
私は、彼らがあなた方の無慈悲を真似せず、却ってインドの自由を宣言し、スルタンによるインドの強制された協力を、自由を得たインドの自発的な協力に変える事によってのみ、彼らは力を得る事が出来ると考えているのです。
 
英国と連合国側に対して、我々は彼らが主張し、彼らの益でもある「正義」の名によって、彼らに願いました。我々は、あなた方には、「人道」の名によってお願いをします。私には、あなた方が、無慈悲な戦闘をする権利は誰にも無い事を理解していない事実に驚いています。もし連合国によるのでなければ誰かが、あなた方のやり方を更に改良し、あなた方の武器によって必ずあなた方を打ち負かすでしょう。もしあなた方がこの戦いに勝ったとしても、誇りに思えるような偉業を子孫に残す事などは無いのです。どのようにうまく語られたとしても、残酷な仕打ちの物語に誇りなど感じられる筈は無いのです。
 
もしあなた方が勝利したとしても、それはあなた方が正しかった事にはなりません。あなた方の破壊力が大きかったことを意味するだけです。勿論、公正と正義の行ないとして、その他征服されているアジア、アフリカの人々への、同じような自由の約束として、まずインドを自由にしない限り、これは連合軍にも当てはまります
 
我々の英国への要請は、連合軍側の兵をインド内に保留させる、自由インドの意思と結合しています。我々の要請は決して連合軍の目的に危害を加えるものではない事を証明し、また英国が空にした国に入って来ても構わないと、あなた方に勘違いさせない事を目的としています。
 
あなた方がそのような考えを好み、実行しようとするならば、我々の持ち得る全ての力を奮い立たせて、あなた方に抵抗するでしょう。私は、我々の政府が、あなた方とあなた方の同労者が正しい方向に向かい、また、あなた方が道徳的崩壊、また人間をただのロボットに軽減させる誤った道のりから退くよう影響を与える希望をもって、この要請をしています。あなた方が私の要請に応えてくれる希望は、英国が私の要請に応えてくれる希望よりも、遥かに少ないものです。
 
私は、英国人が正義への認識を欠いていないと知っており、彼らも私を知っています。私はあなた方を判断するほど熟知してはいません。しかし、私が読んだ全ては、あなた方は要請を聞かず、剣だけを聞くということです。あなた方に関して聞く事が全て誤りであり、私があなた方の心の正しい琴線に触れられる事を、私はどれほど願っているでしょう。人間の性質がもたらす応答への絶える事のない信頼を、私はやはり持っています。この信頼の力に基づいて、私はインドでの運動を続けてきました。そしてその信頼に基づいて、私はあなた方に要請をしているのです。

セヴァグラムにおいて、
 
 
18-7-1942
 
あなたの友であり、あなたの繁栄を祈る者、
マハトマ・ガンジー』
 
----------
 
以上に記されたガンジーの言葉を見る限り、当時の日本軍に対する彼の言葉は、英国への言葉よりも厳しい。少なくとも英国には公正や正義への意識が高いが、日本にはそれが無いと言っているのだ。
 
こうした批判は、日本がアジアを欧米の支配から解放した輝かしい史観を信じ、「日本の素晴らしさを世界に訴えましょう」と外国人への説得力を試みる人々には、受け入れられない指摘かもしれない。
 
しかしながら、ガンジーの厳しい批判を真実として受け入れた場合、今の日本は酷い国なのだろうか。もっとハッキリと言えば、今の日本人は、卑下されるべき人間なのだろうか。「無実」である必要を感じる為に、黒も白と言い含めることでもしない限り、決してそうではないだろう。
 
では、国の為に戦った一人一人の兵士ら「先人」は、卑下されるべき人間なのだろうか。そうとも思わない。本人が、残酷で不必要な戦争犯罪を犯したのでない限り、或いは、政策や戦略に決定権を持つ立場でない限り、彼らとて、誤った政策や無謀な戦略の非を負うべきではない。
 
国の為に戦った兵士に敬意が払われるのは、当然である。
 
それでも、「国の為に戦った先人」への感謝の念の為に、国家としての政策、軍や部隊としての戦略の誤りすら無かった事にしてはならないと考える。

無策のトランプ大統領、『一つの中国』政策を伝える

アメリカの政治事情 国際政治事情

大統領就任直前のトランプ氏は、ここ何十年かの外交慣例を破って、台湾の蔡英文からの大統領当選への祝辞を受け、電話会談を行なった。それに対するメディアや外交、軍事、安全保障専門家からの猛烈な批判を浴びたトランプ氏は、「何億ドル分もの武器を売っている国からの、当選を祝う電話会談が問題なのか」とツイートをした。また「一つの中国政策に縛られるつもりはない」と発言している。

 

トランプ氏は、大統領当選を祝う電話だったと弁明したが、アメリカ大統領、及び次期大統領と台湾総督との直接外交は、アメリカの何十年にも上る外交政策の慣習を破るものである。オバマホワイトハウスは、これに仰天し、すぐさま米国は一つの中国を支持すると発表している。メディアや外交、軍事、安全保障専門家らも大きな懸念を示したが、これには、保守メディアや共和党政権のアドヴァイザーであった、外交、軍事、安全保障専門家らが含まれる。

 

勿論、共和党議員の中には、トランプ氏によるこの中国への強硬な姿勢を高く評価し、米中の関係に新風うを吹き込むと期待する声もあった。南シナ海への領域主張や人工島の建設、身勝手に設定した防空識別圏、近隣諸国との領土摩擦や威嚇など、中国がやりたい放題であった事を考えれば、トランプ氏による台湾への接近や中国への挑発、敵対姿勢などに、胸のすく思いをした議員もいたのだろう。日本の保守言論も、主にトランプ氏の中国への敵対姿勢や台湾との接近を歓迎し、トランプ氏による中国への強硬外交に期待する声も上がったようだ。

 

しかしながら私は、トランプ氏の言動に懸念を示した一人である。台湾が中国の一部であるという中国政府の主張には勿論同意しない。しかしながら、トランプ政権の中国・台湾問題への政策の有無が疑われたのだ。これは『トランプ次期大統領・台湾総督との直接電話会談』でも述べたが、もし中台への有事に軍事介入をする決意が無いならば、「有事を作るべきではない」と考えるからだ。

トランプ次期大統領・台湾総督との直接電話会談 - HKennedyの見た世界

 

大統領就任直後のトランプ新大統領は、選挙公約を無視して、初日に中国を挑発する事を行なっていない。いくら公約違反と言っても、これは評価に値する。中国側の反撃と、それに対するトランプ大統領の計画、方針、決意の無さを考えれば、トランプ大統領によるいたずらな挑発は、極東地域への不必要な不安定材料となるだけである。アメリカ大統領として、この政権がアマチュアの集まりであり、外交、軍事政策においては全くの無策である事を、疑いの無い事実として世界に見せて良い筈がない。

President Trump didn't go after China on Day One - Jan. 23, 2017

 

実は、トランプ政権への不甲斐なさは、直接電話会談による期待感から覚めた台湾人も感じていたようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、以下のように書いている。

Taiwan Fears Becoming a Pawn in Donald Trump’s Game - WSJ

 

『ドナルド・トランプと台湾総督とによる電話会談によって高められた高揚感は、新政権が台湾を中国との交渉材料の一つとして扱うのではないかという疑惑に変わってきている。

先の電話会談とその他の声明によって、トランプ氏は何十年も続いた常識を打ち破り、台湾のライバル政府を政治的に孤立化させようという北京の政策を見直させる意欲を見せた。

 

ところが、先週彼は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙との新たなインタビューで、貿易やその他の課題に対する中国の姿勢によっては、台湾との交渉に前向きであると答えている。台湾メディアの解説や学者、政権政党と野党政治家らは、アメリカの新大統領が北京の譲歩によっては、台湾の国益を無視するのではないかという恐れを表した。蔡英文総督陣営は、トランプ氏に近い人々に迫り、トランプ氏の立場の表明を求めたようだが、これについて外務省と総督のスポークスマンはコメントを控えている。

 

台湾で影響力を持つシンクタンクのリー・ティング・フイ副所長は「我々は、トランプ氏に、台湾の重要性と、台湾を交渉の材料とさせてはならない事を知らせなければならない」と述べた。世論調査によれば、殆どの台湾人は、中国との穏やかな関係から来る利益を求めつつ、北京の目指す政治的統合や、両岸が「一つの中国」であるという主張には反対をしている。』 

 

つまり、台湾人でさえ有事を望んではいないし、中国との交渉の材料として自国の将来をトランプ政権によって政治利用される事に危惧を感じているのだ。

 

台湾の将来を、トランプが本当に気にしているとは思われない。台湾の人々にしてみれば、トランプ氏の発言は「中国の出方によれば、台湾の在り方についても考える」という意味に受け取られ、「交渉に長けている中国が、トランプによる一時的な要求を呑むかわり、トランプから、台湾の将来に影響を及ぼす発言を引き出すかもしれない」という危惧を持つのは、当然だろう。

 

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トランプ支持者や、トランプを知らない日本人ナショナリストの期待するところは、中国に対して強い口調で非難し、挑発し、その面子を損なうことを国際社会の場で述べ、圧倒的な軍事力でもって屈伏させる事だろうか? ところがトランプには、そのような決意も、そうした事を行なう原則も全く持ち合わせていない。全ての事は彼にとって、自分を豊かにし、強く見せてくれるための手段でしかないのだ。

 

案の定、今日トランプ政権は、「一つの中国政策を重んじる」と中国側に伝えている。

Trump tells Xi Jinping: U.S. will honor 'One China policy'

トランプ政権には、挑発した後の策が無いのだ。核戦争の専門家で安全保障アドバイザーでもあったトム・ニコールズ氏は、以下の通り指摘している。

 

『中国との電話会談で言えることは、計画の無いままの台湾総督との電話会談への誤りだ。私は中国への強硬姿勢そのものには同意する。台湾への中国の脅しを押しのける必要もある。但しこれはそういった問題ではない。もし、何十年にもわたる慣例や政策を変更するならば、その後の計画が何種類も必要となる。絶対に避けなければならないのは、勢いよく突っ込んでいき、敵を怒らせ、その後の計画の不在に気付き、後ずさりする事だ。今回の行動は、結局中国の利となった。彼らは求めていた事をアメリカ大統領から再び得、念を押されたのだ。一つの中国政策を尊重するという政策は、私の意見によれば正しい。政権誕生から不必要なほどの軋轢を、招いている。』

 

中国は、「尖閣を守る」と保証したマティス国務長官の訪日2日後に、既に日本の領海内に戦艦を運航させている。NATOを始め、同盟国への軍事防衛義務を負荷だと主張し、アメリカは同盟国によって搾取されているとの意見を変えないトランプ氏が、極東での有事の際に実際どのような行動をとるのか、策があるとは到底思えない。当然ながら、中国もそれを承知しているだろう。

 

これからも、トランプ大統領が短気や癇癪を起し、挑発的な言動をくり返すだろう。中国はその都度反応する素振りを見せるだけで、アメリカは尻込みをし、結局中国がアメリカからの譲歩を得る時代となるのかもしれない。

 

 

イエメン作戦失敗と、ISIS制圧の機会を逃したトランプ政権

アメリカの政治事情 国際政治事情

トランプ大統領はイエメンでの作戦で、海軍シールズ隊員の一名を失い、子供を含むイエメン人の民間人約30名の死者を出している。作戦の困難が伝えられても、トランプ大統領は危機管理室に現れていない。ホワイト・ハウスの説明によれば、トランプ大統領は同日すでに疲れており、オーストラリア首相との電話会談も1時間の予定を25分で切り上げている。(実際、電話を途中で切ってしまっている) 

「危機管理室にはいなかったが、連絡が取れるように大統領府内には滞在していた」という言い訳だが、共和党側は、ヒラリー・クリントン元国務長官がベンガジ事件の動向が不明であった時に「眠っていた」という理由で非難していた筈だ。それでも夕方5時までに作戦が終了しなかった場合、トランプ大統領は部屋に引きこもってしまうようだ。

Donald Trump not in Situation Room for 'botched' Yemen raid that killed up to 30 civilians and one US Navy SEAL | The Independent

30名の一般市民の犠牲者を出したイエメン作戦は、軍関係者によれば、それでもターゲットとしていたアルカイダのリーダー、カシーム・アル・リミ(38)を逃している。日曜日にはアル・リミは、トランプ大統領に宛てて作戦の失敗を嗤うビデオ・メッセージを流している。「ホワイト・ハウスの愚か者は、彼の道の出だしに平手打ちを食わせられた。」このメッセージについては、本人のものであると米軍が認めている。

Trump missed his main target in Yemen raid that killed 30 civilians and one US Navy SEAL | The Independent

30人の一般市民が犠牲となったこの作戦の失敗を受けて、イエメン政府はイエメン国内において、米地上軍が作戦を行なう事を不許可とした。イエメンは、米連邦裁判所判事が入国禁止令の一時保留を命じたとは言え、トランプ大統領が大統領特別司令をもって入国を禁止した7カ国の一つだ。これからの米軍の作戦への非協力は、そうした外交摩擦が原因の一つとなっているかもしれない。

Yemen Withdraws Permission for U.S. Antiterror Ground Missions - The New York Times

トランプ政権の失敗はそれだけではない。トランプ大統領は就任演説でもISISを地上から根絶やしにする事を宣言している。選挙中には、自分にはISIS打倒の為の秘密の作戦がある、とすら豪語していた。最もトランプ氏は、軍事作戦や情勢について何で学んでいるのかをインタビューで聞かれ、テレビ番組で学んでいると答えている。中東の情勢は、全ての組織が全てを相手に敵対しているとも言われ、昨日の味方が今日の敵ともなり得る。それだから、誰を支援するか、誰と同盟を組むかは、非常に大きな問題であり、多くの知識を要する決断なのだ。

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ISISを制圧する為と言っても、武器支援を行なったり武装化させた後に反米過激派となり得る組織と組むことは出来ない。複雑に絡み合う敵対関係を鑑み、軍事作戦や中東情勢の専門家は、クルド人武装組織と同盟を組むことを勧めていた。ISISや過激イスラム教の武装集団相手に、一番の戦いの実績を持つのは、クルド人部隊だからだ。

https://www.nytimes.com/2017/01/31/opinion/to-defeat-isis-arm-the-syrian-kurds.html?_r=0

勿論、この作戦の障害となるのは、トルコの意向である。国内にクルド人を多く抱えるトルコ政府にとって、クルド人が勢力を得る事は、国内クルド人の独立運動に火がつくからだ。こうしてアメリカや西側は、トルコ政府の意向を重視して、クルド人への支援を避けてきた。

The U.S. Found The People Who Can Beat ISIS. The Only Problem Is Everyone Hates Them. | The Huffington Post

しかしながらISIS制圧の為に、ようやくオバマ前政権もクルド人部隊武装支援を決断したようだった。何か月にもわたる作戦会議や論議の末、至った結論だが、遅すぎた結論とは言え、無いよりはマシだろう。トルコに対する説明まで纏めたようだ。トランプ政権は、この受け継いだ作戦を実行すれば、ISIS制覇の実績が得られただろう。あとは「引き金を引くだけだった」とも言われている。

ところがこれを、トランプ政権は一蹴している。以下、シカゴ・トリビューン紙からの記事を引用する。

Obama plan to arm Kurds to fight Islamic State in Syria quickly discarded by Trump team - Chicago Tribune

『ISISが首都とするラッカ奪還の最終作戦会議は、7か月以上も続いていた。

オバマ政権の安全保障チームは、作戦の計画や実施について、実に何百時間にも渡る討論や会議を深夜まで続けていたのだ。どの作戦も良いとは思われなかった。しかしオバマ大統領のトップ外交アドバイザーたちは、やっと何とか可能なアプローチを見い出した。それはシリア北部のクルド人部隊を武装支援する事だった。この案については、前政府高官も、現政府高官も認めている。勿論、問題が無かったわけではない。オバマ政権は審議に審議を重ねてしまった為、引き金を引く時間が無くなってしまったのだ。また、トランプ陣営のアドバイザーらが、ホワイトハウスに対して、自分たちが実際の決断を下したいと申し出ていた。

それをもって1月17日、新政権誕生の3日前、オバマは自らの安全保障アドヴァイザーをして、クルド人部隊の武装化計画の詳細を記した書類をトランプ・チームに渡した。これには、予想されるトルコの憤慨に対して、どのように計画を説明するべきかも記されてあった。トルコ政府はクルド人部隊をテロリストとして捉え、彼らの一番の敵としているからだ。

オバマはこの任期切れ間近までかかった働きが、トランプ政権によるISIS拠点への迅速な攻撃の道備えとなる事を期待していた。米諜報機関によれば、ISISはラッカから海外への攻撃を指令しているからだ。

ところがこの計画を実行する代わりに、トランプの安全保障チームはこの作戦を全く不十分と見做し、すぐに放棄してしまった。

トランプ新政権にとって、負担が大きく、リスク回避型の為、失敗が目に見えていると思われたようだ。「彼ら(オバマ・チーム)から受けた作戦は、隙間だらけだった。」この情報を目にしたトランプ政権高官は言う。「あの作戦は貧弱な出来だった」

一方オバマ陣営はこのシリア作戦を、一つ一つの動きが、予期し得なかった災害的な結果をもたらし得るこの地域に関する、何年にも及ぶ経験からの産物と見ている。オバマ政権のシリア作戦の舵を取った高官らは、トランプ新政権はこの問題の複雑さを理解していないと一様に語る。それでもトランプ政権も、その複雑さをすぐに学ぶだろう。』

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トランプ大統領にISISを制圧する案はあるだろうか。無い。トランプ政権の誰として、中東の情勢に詳しい人物はいない。マティス国防長官も、ケリー国土安全保障庁長官も有能な人材であるが、トランプ大統領はマティス国防長官の意見がスティーブン・バノンと親露を隠さないマイク・フリンによって覆される仕組みに変えてしまい、国家安全保障会議のメンバーからケリー長官を外してしまっている。

トランプ大統領は、ISIS制圧の為にはロシアやアサド政権と組むしかないと考えているのかもしれないが、 米軍や西側諜報機関にとってロシアは敵国であり、ロシアとの協調などあり得ないのだ。

恐らくトランプ政権は、これから重なるだろう多くの軍事、経済、外交の失敗を目の当たりにし、多くの批判を浴びるだろう。これらの失敗は、支持者がどう弁護しても、世界の目に明らかとなる。シリアでのISIS制圧作戦において、いずれトランプ政権も、オバマ政権の出した結論と同じ結論に達するかもしれない。その時までにクルド人部隊は存在するだろうか。またその時までに、どのくらいの命が失われるのだろう。

トランプ外交の非礼: オーストラリアとの『難民取り決め』の背景

アメリカの政治事情 国際政治事情
トランプ氏が「マヌケな取引」と罵倒したオーストラリアとの交渉は、オバマ政権とオーストラリアが11月に取り決めた、主にイラン、マレーシア、ヴェトナムなどからの1,250人の難民の受け入れを指す。彼らは既に厳密な身元調査が行なわれており、そのうちの約二割は「経済移民」と見られているが、残りの八割は難民である。
 
現在これらの難民は、オーストラリア管轄下のナウルとパプアニューギニアの保護センターのもとに収容をされているが、収容日数の平均が470日を超え、その環境の劣悪さから、うつ病や自傷行為、自殺などが発生しているという。こうした状況は、オーストラリア政府に対する人権団体からの非難や世論からの圧力となっており、オーストラリア政府としても、トランプ大統領との間に取り決めの順守を確認したかったであろう点は理解できる。

 

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         オーストラリア、ターンブル首相とドナルド・トランプ大統領

 
去年9月、世界中の6,530万人に上る難民の処遇問題について国連難民サミットが開かれた。その時の各国への支援要求に呼応する形で、オーストラリアのターンブル首相は、エルサルバドル、ガテマラ、ホンジュラスで起きる犯罪や暴力行為から逃れ、当時コスタ・リカに収容されていた難民を、バラク・オバマ前大統領の要請により受け入れたている。オーストラリアは南米からの難民受け入れと引き換えに、ナウルとパプア・ニューギニアの保護センターに収容されている1,250人の難民受け入れの約束をアメリカと交わしたのだ。

UN refugee summit: Australia to take in Central Americans and maintain annual intake - ABC News (Australian Broadcasting Corporation)

 
ターンブル首相は、オーストラリアが可能とした年間18,750人の難民受け入れ枠内に、南米からの難民を収めると約束しているが、この取り決めは、ターンブル首相にとっても苦渋の選択であり、オーストラリア野党のビル・ショートンから「人間交換だ」と批判を浴びた交渉だった。

Is the Refugee Deal With Australia ‘Dumb’? - The Atlantic

 
オバマ前大統領からの政権を受け継いだドナルド・トランプ大統領が、この取り決めに不満を持ったとしても、その非はオーストラリアやターンブル首相には無い。
 
トランプ大統領はオーストラリアとの取り決めを、電話越しのターンブル首相相手に「マヌケな取引」と呼び、その後「今、このマヌケな取引について学んでいる」とツイートしている。この取り決めに関する予備知識の無いまま、外国首脳相手の電話で、その交渉を「マヌケ」と呼んでいるのだ。
 
自由社会のリーダーとして、世界中に散らばる6,530万人の難民の処遇を何とかしようとしたオバマ大統領の決断に不満があるとしても、それを同盟国の首脳相手に当たり散らしていては、外交が成り立たない。トランプ氏のこの電話会談やその後のツイートは、一国の首脳の言動として、弁護される類のものではない。
 
勿論、トランプ大統領がターンブル首相を指して「大統領」と記したことも、オーストラリアに対する非礼への詫びとはならないだろう。

ナショナリズムとパトリオティズムの違いについて

日本の歴史、政治
ナショナリストと呼ばれる事に抵抗を感じ、「私はナショナリストではなく、愛国者です」と主張する方が多くいるが、ここでは主観や『自称』ではなく、客観的な定義の上で、違いを述べたいと思う。
 
ナショナリズムとパトリオティズムの違いについて、多くの人々が説明を試みてきた。その中で、イギリスの詩人、作家であり、政治ジャーナリストでもあったジョージ・オーウェルは、以下のように二つの違いを簡潔に定義をしている。「愛国とは、特定の場所や特定の生き方への思い入れであり、ある人はそれが世界で一番優れていると信じているだろうが、そうした考えを他者に押し付けようとはしない。愛国はその性質上、軍事的にも文化的にも、攻撃性は無い。一方ナショナリズムは、力への欲求から離れられないものだ。どのナショナリストにも共通する目的は、更なる力、更なる名誉を、自分自身や仲間内に対してではなく、自身の人格とすっかり同一された集合体に確保させることにある。」
 
パトリオティズムが個人的な思い入れであるのに対し、ナショナリズムは人々を一致させる性質がある。人々を一致させるナショナリズムの性質の影響は大きく、例えば戦争が起これば、この性質が人々を敵に対して一致させるともいえる。
 
であるから、オーウェルの『ナショナリズムへのノート』は更に、「ナショナリズムは人々を一致させる一方、人々を別の人々に対して一致させる」と簡潔に定義している。

 

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                                        ジョージ・オーウェル, 1903~1950

 
そうした定義から考えれば、ナショナリストには敵があるのは納得がいくだろう。最近の日本人ナショナリストの主張を聞くと、何よりもリベラル派や(在日)韓国人、中国人を攻撃し、罵る事に意欲を燃やしているように感じる。リベラル派や中韓の人々について書かれている記事ならば、どんな『フェイク・ニュース』でも飛びつくだろうし、これはの人々について、あからさまな差別や偏見を主張しながらも、それを指摘されれば「これは差別ではなく、事実を言っているのに過ぎません」と言ってのける。
 
このようなナショナリズムは、仲間が増えるに従って、その主張が更に極端な攻撃性を帯びる。敵、或いは反対者を憎み、罵り、冒涜することで、愛国心を示そうとするから、論理が常識を超えて極端になるしかないのだろう。ある意味、共産主義者や過激派らが、仲間内で評価される為に、主義への狂信と敵への憎悪を深めていく傾向と酷似している。
 
それでも、ナショナリストらが自らの名誉や自己顕示欲の為に行動していると考えるのは、早計だ。彼らの殆ど多くは、自分個人の名誉ではなく、集合体の名誉を求めているものだ。但しこの集合体は、自らが属している集合体であり、しばし自身の性質やアイデンティティーを見出す場でもある。であるから、この集合体の名誉が毀損されていると感じれば、まるで自分の名誉が既存されているように感じるのだろう。
 
また特筆されるべきことは、多くの場合、これらナショナリストが守ろうとしているのは、実際の国家や国民という集合体ではなく、国家神話、もっと簡単に言えば、国家や国民に関するアイディアである点だ。であるから、彼らが信奉している国家神話やアイデアを共有しない同国民は、彼らの激しい憎悪の対象となるし、「国の安全保障の為に名誉を犠牲にするな」などという極論が生まれる。
 
ナショナリストが守るものが国家国民に関するアイディアであり、敵を意識した主義であるのに対し、パトリオット(愛国者)には、国や郷土、文化、同胞への自然な愛着があるだけだ。愛国者にとっては、「正しい」国家観や歴史の「真実」などは関係がない。であるから勿論、リベラル派も左翼も「愛国者」であり得る。
 
ナショナリストが「排他的」と呼ばれる理由の一つは、自分とは意見の違う人間の愛国心を認められない点にあるのではないだろうか。

 

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