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トランプ・アメリカでは、対中国戦は勝てない。

アメリカの政治事情 国際政治事情

挑発的で、『反中国』とも受け取れる発言をするトランプ氏の大統領就任をもって、トランプのアメリカは、南シナ海における中国の軍事拡張に真っ向から対決するのではないかと期待する声が、日本のメディアや言論人にはあるようだ。

 
期待や夢想、幻想、或いは『必要』がどうであっても、トランプ大統領の下のアメリカでは、中国相手の戦争は勝てない。軍事的な困難については、『中国との戦争を語る狂気のトランプ陣営』に書いたので、そちらをご一読されたい。
 
私には、トランプ大統領のような、外交や軍事作戦、経済関係の重要性を認識していない人物、また専門家より自らの意見を信じる人物の考えは予測できない。またスティーブン・バノンのように排他的イデオロギーを信じる人物が、どの程度の影響をトランプに持っているのかも未知数である。但し、彼らのような権力志向の人間が、実際に世界で一番強い国の指導者としてトップに立った時に、その権力の持つ毒をどのように制御し得るのかについては、悲観的な見方をしている。彼らは恐らく、自分の欲求や直感に逆らうような専門家の声など、軍事作戦についてであっても、諜報機関からの警告であっても、また経済にもたらす影響への懸念であっても、恐らく無視をするだろう。
 
であるから、専門家の声を無視してトランプのアメリカが対中国戦に巻き込まれる、或いはキッカケを作る可能性は無きにしも非ずだろう。しかしながら、なぜトランプのアメリカが対中国戦には勝てないか、トランプの性質とそれ以外の側面から説明をしたいと思う。
 
対中国戦の前に立ちはだかる最も大きな障害(?)は、『アメリカの世論』である。
 
中国は、どんな事があってもアメリカに対して意図的な先制攻撃を開始しないだろう。米国本土、ハワイ周辺に、中国が危害を加えることは無い。日本が期待するのは、南シナ海における中国の軍事拡張をアメリカが止める事だが、南シナ海の排他的経済水域上を飛ぶ米軍機に中国が威嚇射撃をし、仮に米軍機に命中してしまったとする。それでも、米国と中国が正式な開戦に至るとは考えにくい。
 
まず、米軍機を撃墜した中国側が、被害を受けた(?)米国側に宣戦布告をするだろうか。誰かが宣戦布告するとすれば、被害を被った側が行なうのが相応しいが、そもそもなぜ南シナ海に米軍機が飛行していたのかを、米国民は理解し、支持するだろうか? 

 

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中国領域と中国が主張する区域に米軍が飛行機や戦艦なりを派遣していた場合、アメリカ人の多くは、状況から鑑みて、アメリカの側が中国からの攻撃を挑発したと考える。これでは国民の多くは大統領の判断を猛烈に批判し、各地でベトナム戦争以来の大規模なデモ、あるいはそれ以上大きなデモが起こるだろう。
 
中国だけではなくロシアにしても、アメリカのような民主主義国家をいかに敗北させるか、承知している。アメリカのように選挙を控え、政府の失敗を報道するメディアの発達した民主主義国家は、大半の国民による支持無しに、戦争を始め、継続させることは出来ない。不支持率が8日目で既に過半数を超えたトランプ政権では、実際に戦争を継続する事はできない。

Gallup Daily: Trump Job Approval | Gallup

 
また、戦争を行なう場合、アメリカ大統領と言えども、勝手に宣戦布告をして良い訳ではない。これには必ず議会の承認が伴う。そして議会が承認するか否かは、国民(有権者)の支持が得られるかどうかによる。現在、中国との戦争を支持するアメリカ国民はいないに等しい。極東地域の情勢に詳しいアメリカ人はそもそも多くないのだが、それでも中国とのビジネスが盛んになっており、メード・イン・チャイナの製品が溢れ、中国が大きな市場である事は、どこか彼らの頭の片隅にはある。中国との戦争でアメリカのビジネスに支障が出ると知れば、戦争への大きな批判となるだろう。だからこそ中国やロシアのような国は、アメリカ世論を反戦に仕向ける方法を百も承知だろう。実際の戦力や戦果はともかく、世論が戦争の意義に疑問を持ち始めれば、アメリカとしては終結を急がなければならなくなるが、中国にはそうした足枷がない。終戦を急ぐアメリカは、中国の望む条件を呑むしかなくなるだろう。
 
トランプはしきりに中国を非難しているが、トランプの中国批判は、主に中国の為替操作に対してである。中国の行なう『為替操作』の為に、核兵器を大量に所有する中国との戦争を決意するアメリカ人などいない。勿論、南シナ海だけにとどまらず、中国の軍事拡張は、フィリピンだけでなく、日本や韓国のような『同盟国にとっての大きな脅威』ではある。但し『アメリカの安全保障に対する直接的な脅威』ではない。しかも、日本や韓国のようなアメリカにとって重要な同盟国の為に戦うことを「損だ」と繰り返し強調していた人物は、他でもないトランプ氏本人である。
 
トランプがもし国民に対して、何らかの印象を与えたかとすれば、日本や韓国、NATOのような同盟国は、アメリカに対しての正当な代価を支払わずに安全保障の恩恵を受けてきた、という『安全保障タダ乗り説』であろう。特に日本は、大統領討論会においても、ISISと並んでトランプが批判した外国勢力である。日本のような同盟国の為に、中国との戦争を国民に納得させられる政権ではないのだ。
(因みに、こうした説に異論を唱え、同盟国の果たす役割を主張してきたのは、日本人保守派が目の敵にするニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストのような主要メディアである。)
 
しかも、トランプの挑発や冒涜は中国に対してだけではない。イランに対しては新たな経済制裁を設けるとしているし、メキシコとは、国境沿いの壁の支払いを巡って諍いや挑発が絶えない。日本に対しては、中国やメキシコと同様に、貿易不均衡がアメリカから職を奪っているとして、次回の安倍首相との会談には、麻生財務相を同行させるように要求している。オーストラリア首相に対しては先週末の電話会談中、11月の大統領選挙での圧勝を自慢したかと思えば、1,250人の難民受け入れの約束事を「馬鹿な約束だ」とし、「今日は他にも外国の首脳と電話会談したが、この電話会談が一番最悪だ」と、ターンブル首相に対して怒鳴った挙句、途中で電話を切っている。ドイツに関しては、メルケル首相とプーチン首相のどちらを信頼するか聞かれ、トランプは答えられていない。イギリスに対しては、与党と対立している独立党のナイジェル・ファラージュを駐米大使に勧め、テレサ・メイ首相との会談前にファラージュとの会合を行なっている。

Trump Administration Set to Impose New Sanctions on Iran Entities as Soon as Friday - WSJ 

Trump risks isolating critical neighbor with Mexico feud - POLITICO  

U.S. asks Aso to join Abe-Trump meeting - The Japan News  

‘This was the worst call by far’: Trump badgered, bragged and abruptly ended phone call with Australian leader - The Washington Post   

Donald Trump avoids saying who he trusts more — Vladimir Putin or Angela Merkel | The Independent 

Donald Trump Meets Nigel Farage Ahead of U.K.'s Theresa May | Time.com

 
外国との諍いばかり続けるトランプの外交に、既にどこかの国と戦争になっているかのように国民はウンザリしているのだ。今日発表されたギャロップ社の世論調査によれば、メキシコとの国境沿いの壁建設を賛成する声は38%だが、反対は60%だ。また、イスラム諸国からの90日間の入国禁止令に賛成する声は42%だが、反対は55%である。シリア難民受け入れ禁止令に賛成している割合は36%だが、反対する割合は58%だ。

About Half of Americans Say Trump Moving Too Fast | Gallup

 
トランプ政権の外交政策への反感が強い。誰かを非難すればするほど、自分こそ悪者に見えてしまうのがトランプ氏でもある。これでは、戦争をしたくても支持する国民は大多数になることは無く、あまりにも諍いが増えれば、大統領職務遂行不能と見做され、大統領職務から罷免されるかもしれない。
 
トランプ政治の2週間をもって、殆どの人は、「予想していたよりも遥かに酷い」と落胆している。くり返すが、世界の殆どの戦争は、予想していなかった突発的な出来事によって引き金を引かれるものだ。アメリカと中国との戦争が歩かないか、明言する事は出来ないが、もしあるとすれば、それは日本の一部言論人や産経新聞の期待するような、中国だけが大きな痛手を被るような類いとはならない。勿論、日本も巻沿いを食うだろうし、日本の被害は、地理的な条件から、アメリカのそれを上回るかもしれない。
 
自分の見たいようにしか見ない眼鏡を通してでなければ、トランプ外交の未来は決して明るくはない。
 
この点だけは確信をもって言う。

米議会はトランプ大統領という偽共和党『ファウスト』に立ち向かえ

アメリカの政治事情
ニューヨーク・タイムズ紙は、トランプ政治について、非常に悲観的でしかも的を得た分析をしている。

The Republican Fausts - NYTimes.com

 
因みに、ニューヨーク・タイムズ紙と言えば『リベラルメディア』としか思い浮かばず、左翼メディアとさえレッテルを貼れば、それでその主張の正当性を打破できると勘違いしている人々がいるが、実際の記事は、共に保守派メディアとして名高い『ウォール・ストリート・ジャーナル紙』にも寄稿され、以前は『ザ・ウィークリー・スタンダード誌』の主席編集者であった保守派言論人のデイビッド・ブルックス氏が書かれている。
 
『ニューヨーク・タイムズ紙』と言っても、保守派言論人の記事を掲載する場合が多々ある。こういった公平さは、『ブレイトバート誌』のようなトランプ大統領お抱えの『アルト・ライト・メディア』にはなく、正統派アメリカン・ジャーナリズムの健全性を示していると言える。
 
ブルックス氏の記事を以下に訳す。
 
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『議会にいる多くの共和党議員はドナルド・トランプという『ファウスト(悪魔)との取引き』を行なったようだ。共和党議員らは、トランプを人間として特別に尊敬している訳ではない。トランプ政治手腕を信頼してもいない。主要な政治課題において、トランプに同意している訳でもない。しかし彼らは、トランプがその支持者をしっかり握っている事には敬意を払っている。彼らは、トランプが彼らの提出した法案に署名をする事と、過激な急進派や過換気となっているメディアと協調していると見られない事だけを期待している。
 
しかしながら、まず第一にトランプ政権は共和党政権ではない。民族国家主義政権なのだ。トランプは就任演説においても、民主党と等しく共和党を侮辱している。(スティーブンス)バノン主義は実際の政策作りにおいて、共和党の通常を完全に破壊しようとしている。
 
トランプ政権は、完全な反(自由)貿易と急な舵切りを行なっている。トランプの経済政策への直感は協調主義であり、自由市場ではない。しかもトランプの外交政策は、まるでバラク・オバマ前大統領によって背後から操られているかのように、世界の舞台から積極的に退こうとしている。ポール・ライアン共和党下院議長をあからさまに批判する人物はホワイト・ハウスでの職を与えられており、レインス・プリーバス共和党全国委員会委員長は、死んだようにトランプにつき従っている。
 
第二に、もしトランプのイデオロギーが有害なものではないにしても、彼の無能さこそが害となっている。この政権がアマチュアの集まりであると言えば、アマチュアに対して失礼だろう。最近の移民・難民入国禁止に関する特別指令は、通常当然必要となる専門組織への相談や法的アドバイスを受けずに書かれ、署名がなされている。こんな様子だから、幼稚園に通う子供でも気付けるようなエラーも見過ごしてしまっているのだ。
 
トランプ政権は政府というよりも、ブロガーとツイッター発信者の小さな集まりであり、実際に成果を出すために必要となる人々とは殆ど意思疎通がとれていない。こんな調子では世界の困難が降りかかっても対処できる筈がない。
 
第三に、狭量さが全ての政策に吹き込まれている事には疑いが無い。しかも誰でもこの政権と協調しようとすれば、その悪臭を共有するしかないのだ。政権側は、ただ難民の身元調査作業を更に厳密にする事や、難民受け入れ総数の上限を5万人とする事も出来た筈だ。しかし政府はさらに踏み込んで、イスラム教を挑発してみせた。政府は単に移民申請を厳格にすることも出来たのだ。それなのにトランプは、わざわざ全てのメキシコ人を侮辱してのけた。他の共和党議員たちは意外にも、テロへの戦いはイスラム教やアラブ人への戦いではないと強調してきたが、トランプは意外にも、全く逆の主張を強調した。共和党が人種(差別)クラブだという偏見は、絶えずあったのだが。

 

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     大統領執務室のトランプ大統領とマイケル・フリンとスティーブン・バノン

 

第四に、最近の記憶で、どのレベルにおいても、この政権ほど冷酷さが特徴として挙げられる政権はない。トランプ政権は厳しく、決して温かみがない。猛爆撃を受け、父親を亡くした8歳のシリア人少女に、更なる苦しみを課すのにも躊躇が無い。強制送還の誓いはこれから何年も、バラバラにされた家族の嘆きをテレビで見る事になる。
 
トランプ政治のこういった特徴は、時間と共に改良されることは無い。前ブッシュ政権の高官であったエリオット・コーヘンは、アトランティック誌に書いている。「問題は、トランプの癇癪と性質にある。これは決して良くはならないし、権力がトランプと彼の側近を毒するに従って、更に悪くなるだけだ。恐らくこの政権は、惨事のうちに幕を閉じるだろう。無視できない程の国内のデモと暴動、外国との経済的関係の機能不全、主要な同盟の崩壊や、一つ二つの新たな戦争、中国との戦争さえ始まるかもしれない。彼の政権が4年、8年ではなく、弾劾や、憲法修正第25条に定められた通りの『大統領職務遂行不能』によって大統領職務を罷免されるかもしれない。」

 

危険の兆候は豊富にある。遅かれ早かれ、悪魔との契約を交わした共和党議員たちは、ニクソン大統領の下でそうであった通り、二つの選択肢に直面するだろう。彼らは、トランプに反対し、彼のツイートで罵倒されるか、或いは恥ずかしそうにトランプに従い、彼のシミを一生負うかだ。

 

トランプの閣僚たちはいずれも優れた人々だ。しかし大統領就任以来の10日間で、この政権が尋常な政権ではない事を明らかにしている。この問題は無視できないのだ。この政権は、個人的な忠誠か、さもなければ斧による処罰を求める冷酷で無能者の集まりである。

 

ジョン・マケイン議員やリンゼイ・グラハム議員は共和党内に反対派グループを作っている。コリンズ議員、アレクサンダー議員、ポートマン議員、コーカー議員、コットン議員、サッシー議員ら、その他の尊敬に値すべき共和党議員にも選択が迫られている。

 

どの政権の政策においても、賛成出来る政策もあれば、反対する政策もあるだろう。しかしこの政権は、『共和党の存続』と『国家の存続』への脅威である。遅かれ早かれ、全ての人が自分の立つ位置を選択しなければならない。そして永遠に、その選択の結果を負う事になるだろう。

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選挙期間中トランプ氏は、「もし私が5番街の路上で誰かを撃っても、一人の支持者も失わないだろう」と豪語し、支持者の忠誠心を強調してみせた。実際に会話をした事のあるトランプ支持者は、「あんたたちは分かっちゃいないんだ。もしミスター・トランプが俺の家にやってきて、いきなり俺を撃ったとしても、俺は血を流しながらでも投票所に行って、彼に投票をするよ」と答えている。

 

当然ながら、彼らが実際にトランプに銃で撃たれた場合どう行動するかはわからない。しかしながら、「5番街で誰かを」或いは「いきなり家にやって来て(俺を)撃った」としても、それでもトランプを支持すると明言出来るのは、トランプと支持者らの関係が、決して原則や倫理、政策、約束をベースとした信頼で結びついているのではないからだ。彼らはトランプの行動であったら、どんな不正や犯罪(*1)であっても許すだろう。

 

事実、「銃で撃っても支持を続ける支持者」とは、つまり「どんな違法行為、殺人行為、腐敗、売国行為、裏切り行為でも支持を続ける」支持者を意味する。だからこそトランプ支持者たちは、まるで教祖の批判を絶対しないカルト信者と同じだと軽蔑されているのだ。彼らは決してトランプ大統領やその政権への正しい評価について聞くべき相手ではないし、その声を恐れるべき層ではない。

 

狂信者の連携を恐れ、頼みとした政治は、必ず悪い結果をもたらす。議会は近い将来、狂信者による政治に立ち向かわなければならない。議会が止めなければ、誰がトランプ政治のもたらす惨事を防ぐのだろう。

 

追記:トランプ支持者は、「ヒラリーを牢獄に入れろ」を叫んでいたが、そこまでの憎しみは「ヒラリーは私的サーバーを使うことで国の安全保障を危機に陥れたからだ」と説明する。しかしながら、34%のトランプ支持者たちは、トランプが私的サーバーを使用する事を認め、法に違反して勝手にペンタゴン内でコンピューターを接続し、機密情報を外国に漏らした事さえあるマイケル・フリン元将軍の国家安全保障アドバイザー起用には、異を唱えていない。

TNY: Michael Flynn had 'forbidden' internet connection at the Pentagon - Business Insider

また多くのトランプ支持者たちは、ヒラリーと外国からの献金には腐敗を訴えるが、外国からの金銭の流れを示す『納税還付証明書』をトランプが公表する必要はないと考えている。

Trump Supporter Says Polls Are Wrong, Most People Don’t Care About Trump’s Tax Returns | Mediaite

また、ヒラリーに関する悪い噂ならば、インターネット画面に現れ、クリックによって脈絡のないニュースを発信する『フェイク・ニュース』でも信じるが、トランプの不正や不手際への批判は、主要メディアによる報道であっても、全て『フェイク・ニュース』と一蹴する傾向が強い。

中国との戦争を語る狂気のトランプ陣営

アメリカの政治事情 国際政治事情
トランプ大統領のアドヴァイザーであるスティーブン・バノン氏は、5年以内の中国との戦争を示唆している。

Donald Trump's closest advisor Steve Bannon thinks there will be war with China in the next few years | The Independent

 
こうしたトランプ政権の強硬姿勢を喜び、それに期待をする日本のメディアやトランプ支持者の気が知れない。
 
まず軍事面から見ても、これはアメリカ、また同盟国にとって決して有利な戦争ではない。例えば南シナ海における中国の拡張を止める為にアメリカが中国を攻撃すれば、中国は反撃をすると既に明確に誓っているが、中国はアメリカ本土を攻撃し得る通常兵器を持っていない。

 

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もし通常兵器を使用するとすれば、在日米軍基地や在韓米軍基地への攻撃しかないだろう。アメリカ本土に届く兵器による反撃を行なうとすれば、核兵器を使用するしかないのだ。またアメリカ本土が核攻撃を受けその軍事力が著しく減退すれば、日本や韓国のような極東の同盟国が中国の更なる餌食となる事は分かり切っている。
 
しかもトランプ政権ほど、アメリカ諜報機関や軍事専門家からの報告を無視しているアマチュア集団は他には無い。
 
トランプ大統領は、安全保障会議へのCIA長官やケリー長官の参加には、親ロシアの態度を隠さないマイケル・フリン元将軍の許可を必要とさせている。安全保障会議に於けるジェームズ・マティス国防省長官の意見を覆す為に、国土安全保障庁のジョン・ケリー長官を外し、スティーブン・バノンをメンバーとしている。軍事戦略の専門家や、諜報の専門家の意見が届かない仕組みとなっているのだ。

Trump’s National Security Coup Cuts Intelligence Out of Big Decisions | Observer

 
己の無知や限界を意識できないトランプ氏は、毎日行なわれる筈の諜報機関からのブリーフィングにも不満を隠していない。「大統領がブリーフィングに飽きてしまい、テレビを見たがる」と側近が匿名で報道機関に漏らしている程だ。

Donald Trump's closest advisor Steve Bannon thinks there will be war with China in the next few years | The Independent

 
こうしたトランプ政権の実情を鑑みて、軍事諜報の専門家、ジョン・シンドラー氏は警告を発している。「これは冗談やお遊びではない。バノンやトランプの愚者集団は、今すぐ挑発を止めるべきだ。」
 
尤もこの事態の深刻さは、自分の見たい神話や幻想しか見られない反中国のナショナリストやトランプ狂信者には興味が湧かないかもしれない。
 
中国の拡張は厳しく批判されるべきだし、止められなければならない。しかしながら、トランプ政権に引きずられる今日のアメリカにそれが可能かどうかは、全く別の次元である。中国による軍事拡張の脅威を本気で止めるには、諜報や軍の専門家を軽んじる傲慢なアマチュア集団では不可能だし、彼を選出してしまった時点で、当分の間の機会を損なったと言える。
 
多くの戦争というものが突発的な事件によって勃発する事を考えれば、トランプ政権というアマチュア集団は、戦略の無い挑発をするべきではない。
 
 
 
 

 

『アメリカ・ファースト(第一)』とは何なのか

私は、トランプ大統領の主張する「アメリカ・ファースト」というスローガンに対して、なぜ日本人が嫌悪感を持たないのかが理解できない。このスローガンに対しては、保守派の政治評論家ビル・クリストル氏も「米国大統領がアメリカ・ファーストを連呼しているのは、非常に恥かしい。このスローガンの歴史を知らないのだろうか」と述べているが、全くその通り、この主張は「アメリカさえよければよい」という意味で使われてきた。このスローガンには、外国人への配慮は欠片も無かったのだ。

「アメリカ・ファースト」は、真珠湾攻撃の数日後真であった委員会の名称で、1940年9月4日から1941年12月10日まで続いた、「世界で何が起きていても、とにかくアメリカは巻き込まれたくない」という一国主義を掲げる政治圧力団体である。

当時のアメリカは、ナチスドイツによってヨーロッパで起きているユダヤ人虐殺を無視しようとしていた。ユダヤ人が大量虐殺され、民族浄化されても、外国の戦争に巻き込まれたくないと考えていたのだ。当時のアメリカ人には、ユダヤ人の悲劇は我慢できたのようだ。であるからこのスローガンは、ドイツにもう一つの家庭を隠し持ち、ドイツとの戦争を避ける事を主張していたチャールズ・リンドバーグに代表される通り、多くの反ユダヤ主義者によって叫ばれていた。

現在のアメリカが、これを繰り返す大統領を恥ずかしく感じるのには理由があるのだ。

この政治圧力団体が解散した理由は、真珠湾攻撃と日本の宣戦布告によって、開戦が決定されたからだ。

勿論どの国でも、最優先されるべきは国民の安全である。それを否定するつもりは無い。しかしながら、アメリカ・ファーストは「アメリカを一番にして、二番目には同盟国、近隣国」という意味では使われなかった。あくまでもアメリカ・ファーストであり、またアメリカ・オンリーであり、セカンドやサードは無かったのである。
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このスローガンは、戦後も「アメリカさえ無事ならば、アメリカさえ良ければ、他で何が起こっていても構わない」という意味で使われ続けた。それは、アメリカで有名なスース博士の挿絵にある通りである。

この挿絵は「アメリカ・ファースト」と書かれたセーターを着た母親が、子供たちにヒトラーを思わせるオオカミの本を読んで聞かせている。

「そしてオオカミは、子供たちを嚙みつくして彼らの骨を口から飛ばしました。でも、この子供たちは外国の子供たちなので、別にどうでも良かったのです。」

アメリカ・ファーストとは、「アメリカさえ良ければ、外国人の悲劇は気にならない」という意味でしかない。そして日本やメキシコは、例え経済が崩壊し、政権が転覆し、軍事侵略をされても「アメリカさえ良ければ気にならない」という宣言なのだ。

トランプ大統領のくり返すこの宣言にシンパシーを感じ、理解を示すトランプ支持の人々は、このスローガンの持つ残酷な歴史や意味を知らないのだろう。

トランプ大統領・イスラム主義国からの入国禁止令と移民政策による混乱と不信

アメリカの政治事情 イスラム教

金曜日夜ドナルド大統領が署名し、すぐさま発動された移民・難民によるアメリカ入国に関する大統領特別指令は、土曜から世界各地で大きな混乱と批判を呼んでいる。

Amid protests and confusion, Trump defends executive order: ‘This is not a Muslim ban’ - The Washington Post

 
この大統領特別指令は、更に厳しい身元調査プロセスの為に、難民の入国を120日間禁じ、また難民受け入れ上限を年間5万人までとしている。この数は、余りにも僅かな数の難民受け入れだと思われがちだが、2016年のオバマ大統領による急激な難民受け入れ数を別にすれば、ジョージ・W・ブッシュ大統領やオバマ大統領治世の受入数の平均と同等にある。

Donald Trump’s Refugee Executive Order: No Muslim Ban -- Separating Fact from Hysteria | National Review

 
例えば2002年にアメリカが受け入れた難民の数は27,131人であり、2003年、2006年、2007年の受け入れ総数も5万人以下である。2013年から2015年には約7万人を受け入れ、2011年と2012年には、5万人をわずかに超えただけだ。

 

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トランプ大統領が行なおうとしているのは、安全保障の為の、難民身元確認の厳格化である。ヨーロッパでは「誰でもシリア人と主張して難民申請をしている」「身元確認は殆ど行なわれていない」などの指摘通り、杜撰な身元確認であった事は否めない。難民と移民の区別さえハッキリさせない為に、その何割かは戦火を逃れた難民というより経済移民であった事は否めない。

Migrants in the Balkans: Everyone wants to be Syrian | The Times of Israel

 
また、この大統領特別指令は、イラン、イラク、ソマリア、リビア、スーダン、シリアン、イエメン等7カ国からの入国を90日間禁じている。これらの国々はジハーディストらによって内戦状態になっていいるか、ジハーディストが政府を牛耳っている。この指令は、これらの国々に対し、アメリカがヴィザ発給をするのにあたって必要な情報の提示を求めている。その情報によって入国ヴィザ発給の判断をしようという意図だが、これらの政府がこうした情報を提供できるかは判明しておらず、一時的な入国禁止が延長される可能性は充分ある。
 
但しこの特別指令は、国務省や国土安全保障庁が、担当官の判断により、ケース・バイ・ケースで、アメリカの国益に叶うとされる人物へのヴィザ発給やその他の身分による入国許可する事を認めている。この特例によって、これら7カ国の国籍所持者であっても、通訳やその他のアメリカの国益に貢献すると認められた人物の入国が、この90日間の期間内でも認められている。
 
この大統領特別指令は、テロリストが難民や移民を通して、テロを起こそうとしている現実を考慮すれば、必要な手段とも言える。「頻発するテロ行為に慣れる事が、アメリカの日常生活の一部になる」と割り切るのでもなければ、国家として国民の安全の為に最善を尽くすことは当然である。であるから、トランプ大統領の意図するところは充分に理解できるし、評価もできる。

 

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  大統領特別指令によって空港内に拘束されている外国人の釈放を求める米国市民

 

ところが、入国禁止の対象となるのは、ビザ所持者だけでなく、グリーンカード所持者、つまりアメリカの永住権を所持している者も含まれている。米国永住権所持者は、実に何か月にもわたる手続きと、思想や信条、政治活動や職業、学歴に至るまでの厳密な調査に従って身元確認がなされている人々である。複数の米国市民による保証が必要とされ、厚みのある書類に一つでも誤りがあれば、それが単なる日付の誤りであっても係員は見つける。少しでも怪しい人物に対しては、容赦なく永住権申請は却下される。当然ながら永住権所持者らは、生まれながらの米国民よりももっと厳し審査を経た人々なのだ。選挙権は無いものの、その身分は合衆国憲法によって守られ、居住地も米国である事が前提となっている。
 
この『永住権所持者』への入国禁止指令は、弁護しようのない明らかな誤りである。この大統領特別指令が発令され、各地の空港で幼児や赤ん坊を含めた合計109人に上る該当国籍者を拘束したり、強制送還をさせた為の大混乱を生じさせ、反対派が多く押し寄せるキッカケを作ったが、こうした混乱が数日で収まるのに対し、永住権所持者の処遇については指針ですら明確ではない。これについて、共和党のマルコ・ルビオ上院議員は国務省に説明を求めたが、国務省側は解答を拒否している。国務省内の意見も一致しないからだろう。リベラル派だけではなく、名だたる保守派言論人、外交官、また共和党議員らがこの指令に対して懸念を示しているのは、当たり前だ。

Rubio: State asked not to talk travel ban with Congress | TheHill

 
 またそれよりも大きな懸念は、今回の特別指令が、本当にアメリカの安全保障に貢献するかという点だ。入国禁止令に名前があがった国家がアメリカに対するテロを起こした事実は無く、911は主にサウジアラビア人によって、またサンバーナーディのテロでは、アメリカで生まれ育ったイスラム教徒と彼のパキスタン人妻が起こしている。今回の禁止令は、アメリカで生まれ育ったイスラム教徒や、サウジアラビアやパキスタンのイスラム教徒に対しては、何の効果も無い。
 
ジョン・マケイン議員とリンゼイ・グラハム議員は、今回の特別指令が「アメリカがイスラム教徒には来てほしくないというメッセージを送るだけのものだ」としている。こうした政策に対する反感がイスラム諸国に広がれば、友好であった穏健派イスラム教徒との連携が難しくなると指摘する声が、軍事作戦や外交専門家の間にはある。

https://www.nytimes.com/2017/01/31/world/americas/state-dept-dissent-cable-trump-immigration-order.html?smprod=nytcore-iphone&smid=nytcore-iphone-share

 
強制的に送還された永住権所持者があるという報告もあり、ホワイト・ハウスによる質疑応答においてショーン・スパイサー報道官は、この入国禁止令に永住権所持者が含まれると答えたが、国土安全保障庁のジョン・ケリー長官は、永住権保持者はこれに含まれないと回答している。

What Trump's Executive Order on Immigration Does—and Doesn't Do - The Atlantic

In a reversal, the Trump administration now says green card holders can enter the US - Vox

 
そもそも、国土安全保障庁が大統領特別指令について草案をまとめた時には、永住権所持者はこの入国禁止令の指令に含まれないとしていた。これを変えたのが、トランプ大統領のアドバイザーであるスティーブン・バノンである。
 
バノンが変更した特別指令案は、国土安全保障庁長官のジョン・ケリー将軍や、国防省長官のジェームズ・マティス将軍、国務長官となるレックス・ティラーソンなどの目を通すことなく、そのままトランプ大統領によって署名され、発令された。マティス将軍もティラーソンも「おおよその概要については知っていたが、詳細については知らされていなかった」と困惑を隠さず、ジョン・ケリー将軍などは、まず自らが長となった国土安全保障庁の草案の説明を受けているちょうどその時に、「今、大統領がこの特別指令に署名をしています」と担当者に告げられたという。娘婿のジェアード・クシュナー補佐官に至っては、ユダヤ教徒の安息日を守って仕事やテクノロジーから離れている最中に、勝手に指令を発動されている。

Trump faces blowback from Cabinet, diplomats for refugee ban | Fox News

https://www.nytimes.com/2017/01/29/us/politics/donald-trump-rush-immigration-order-chaos.html?_r=0

Can Jared and Ivanka Outrun Donald Trump’s Scandals? | Vanity Fair

 
明らかに大統領府内での連携すら取れていないし、連携の必要性すら認められていない。大統領府の声明や解答が、質問に対する明確で直接の解答ではない事はしばしばあるが、トランプ政権のショーン・スパイサー報道官は、就任翌日に「トランプ大統領就任の観衆は、史上最も多数の動員数であった」と、明らかに事実と異なる不必要な発表を行ない、中国政府やロシア政府の報道官並のプロパガンダを垂れ流す機関と化した印象しかない。

Trumpism Corrupts: Spicer Edition | The Weekly Standard

 
ホワイト・ハウスの発表が真実であるという信頼感が、報道官とメディアの間に無いのだ。そしてこの責任は、前代未聞のメディアへの批判をCIA本部でも行なった大統領と大統領府にある。

https://www.nytimes.com/2017/01/21/us/politics/trump-white-house-briefing-inauguration-crowd-size.html

 
しかも、この突然の指令によって起きた大混乱に対し、大統領府内での主張や説明すら一致していない。サリー・イェイツ司法長官は司法庁職員に対し、「この指令が合法的なものかどうかの判断がハッキリしていなので、弁明はしないように」と指示を出している。トランプ大統領はすぐさまイェイツ司法長官を罷免し、「裏切り者」「彼女は弱い」と大統領府の発表した正式声明で、常識では考えられないような非難している。

Sally Yates fired by Trump after acting US attorney general defied travel ban | US news | The Guardian

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          大統領指令の合法性を疑うサリー・イェイツ司法長官代理

 

また1000人を超える米国外交官らは、この指令に反対する意見書に署名をしているが、ホワイト・ハウス側は「気に入らなければ、辞めるべきだ」としか反応をしていない。外交官らは、今まで外交を携わってきたプロであるが、彼らの懸念に対し、外交が何か、政治が何かという経験や知識の無いアマチュアの烏合である大統領府側が「気に入らなければ辞めろ」とけん制をしているのだ。この調子では、知識や経験の豊富な良いアドバイザーであればある程、大統領の側近として勤められなくなる。

https://www.nytimes.com/2017/01/31/world/americas/state-dept-dissent-cable-trump-immigration-order.html

 

この特別指令が「宗教を背景としたイスラム教徒への差別であり、憲法違反である」という非難が生まれると、「これは宗教ではなく、地域を基にした指令であり、宗教は関係は無い」と弁明し、「イスラム教徒入国禁止であるかのように書き立てるメディアが偽っている」と非難している。実際、合衆国憲法は宗教による差別を違憲とする一方、国や地域を基にした入国禁止については、違法とはしていない。トランプ大統領の弁明は正しいと言えるが、選挙期間中、「イスラム教徒に対する完全な入国禁止」を公約に掲げてきた事は事実である。また、トランプ大統領自身が「どうやって、合法的にイスラム教徒の入国禁止を行なうか」と、アドバイザーであるニュート・ギングリッチ氏に尋ねた事を、ギングリッチ氏がフォックス・ニュースで認めている。

Trump is now complaining that his order is being called a “Muslim ban” - Vox

 
入国禁止令である事は、トランプ大統領自らが発言し、ツイートもしているが、今日のスパイサー報道官の説明では、これは「入国禁止」ですらないようだ。あれもこれも全てメディアの報道に非があると報道官は説明するが、大統領自らが「入国禁止」であると主張すれば、メディアがそう書くのは当然である。大きな批判が起こる度にメディアの捏造を主張するホワイト・ハウスに、長期的戦略があるとは到底思えない。

Spicer: Trump executive order 'not a travel ban' | TheHill

 
トランプ大統領は難民の入国禁止指令と同時に、批判を予測した策として、戦闘地域に安全地区を設けるとしているが、ロシアによるシリア内戦介入によって、もはやシリアに米国の地上軍を派遣する事は不可能となっている。イラクにならば、まだ地上軍を派遣する事に可能性は残る。米陸軍とすれば、何としても派遣を望みたいところだろう。ところがトランプ大統領自身が「イラク戦争は誤りだった。我々は原油を得る事をしなかった。今度の機会には、石油を得られるかもしれない」と戦争犯罪を犯す用意があるという主張をしているのだ。勿論、これについてはジョン・マケイン議員らが「とんでもない。米国は決して戦争犯罪を犯してはならない」と大統領に真っ向から反対をしている。大統領自ら、今度イラクに軍を派遣する時には、石油を頂戴すると発言すれば、それがイラク側の受け入れを困難にし、米軍の作戦に障害となる事が理解できていないのだろう。

Donald Trump Thinks America Should Have 'Kept the Oil' When It Invaded Iraq - The Atlantic

John McCain Trump Taking Iraqi Oil Make No Sense

 

しかもトランプ氏は、「水攻め」や拷問に効果があるという主張がどうしても改められないようで、「CIAに聞いた」話しとしながらも、自分の主張を止める気配がない。退役軍人でありCIAの活動にも詳しい前出のジョン・マケイン議員は、「拷問というものには効果が全くない。拷問を加えられた場合、人間というものは、痛みや苦しみから逃れるために、拷問者の聞きたい情報を偽ってでも作り出し、提供するからだ」と述べている。国防省や国務省とすれば、石油を頂戴し、拷問も厭わないと米国が映る事がどれ程の足かせとなるか、トランプ大統領には理解できないのだ。

Donald Trump: Torture "absolutely works" -- but does it? - CNNPolitics.com

 
トランプ大統領の目的とするところがアメリカの安全保障であり、発展であるならば、トランプ氏自らがその達成に至るまでの障害となっている事に気付くべきだ。特に軍事作戦や経済政策においては、トランプ政治は目標とは反対の効果しか得られないだろう。
 
メキシコとの国境沿いの壁にせよ、どうしても建設が必要ならば、「我々は国境を強固にする必要がある。近隣国にも是非協力をお願いしたい」と、友好関係を損なわない言葉で協力を要請すれば良かったのだ。「メキシコが自国の人々を送り込む時、彼らは最良の人々を送り込んでいるのではない。あなた方のような人々を送り込んでいるのではない。彼らは多くの問題を抱えた人々を送り込んでいるのだ。そしてこれらの人々は、自らの問題も一緒に持ち込んでいる。彼らは麻薬を持ち込み、犯罪を持ち込んでいる。彼らは強姦者である。いくらかは良い人もいるだろうが」などと挑発から始めれば、どんな国でも壁建設の費用を供出を拒否するだろう。

Trump: Mexico Not Sending Us Their Best; Criminals, Drug Dealers And Rapists Are Crossing Border | Video | RealClearPolitics    

Peña Nieto: Mexico will not pay for Trump's border wall

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      大統領特別指令に反対をする為に、空港に押し寄せる米国市民

トランプ政治の外交は、『外交』ではない。脅しであり、強請やたかりであり、無理の押し付けであり、挑発である。『外交』に不可欠な相手国への気遣いや、配慮が皆無なのだ。例え内心が伴わなくても礼儀として丁重に言葉を選び、ニュアンスを大事にする応対が『外交的』と呼ばれるには、理由がある。トランプ外交は『外交的』な要素の欠片も無い。
 
トランプ大統領には、どんなに小さな弱小国でも、その指導者や国民への挑発は許されないという感覚が欠如している。彼はもはや、個人や中小企業、下請け企業を相手にした一企業のオーナーであり、気に入らなければ交渉を蹴れば良い立場ではないのだ。
 
トランプ大統領の政策の全てが間違いである筈はなく、方向性としては賛成できるものもある。しかしながら彼が方法論の誤りを認めない限り、政権は決して長く続かない。

ケベックで起きた白人至上主義者によるイスラム教寺院への襲撃

国際政治事情 イスラム教
ケベックのイスラム教寺院で起きた痛ましい虐殺事件は、外国人嫌い、反イスラム主義、反フェミニズム主義で、白人至上主義者である、アレクサンドル・ビソネットが犯人であり、イスラム教徒が犠牲者である。事件の現場となったこのイスラム教寺院の玄関には、去年夏、血まみれのブタの頭が贈り物のようにラッピングされ放置されていた。ブタを不浄の動物として嫌うイスラム教徒に対する嫌がらせであるが、動物虐待の跡が見られ、犯人の精神異常性が疑われていた。イスラム教徒や外国人に対する憎悪をあらわにする白人至上主義者の台頭は、この地域で目立ってきていたようだ。
 
ところがこの事件では、アメリカ右派のよりどころである「フォックス・ニュース」などが、犯人を「モロッコ人」と報道し、イスラム教徒による犯行であると示唆している。モロッコ系の男性は事件の目撃者であり、警察に通報をした人物だ。

 

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             事件後、心情を語る犠牲者の遺族

 

それでもトランプ支持者たちは、この事件をもって「だから我々はイスラム教徒の難民を受け入れる訳にはいかない」と主張する。犯人は白人至上主義者であり、モロッコ人は通報をした目撃者であると指摘しても、「それはフェイク・ニュースだ」と一蹴する。自らの描く筋書きと現実が一致しなければ、真実を伝える報道を全て『フェイク・ニュース』と切り捨てる類の人々が増えているが、彼らはフェイク・ニュースの何たるかも理解していないのだろう。
 
偏っているのはトランプ支持者だけではない。
 
悪い事に、ホワイト・ハウスのショーン・スパイサー報道官は、「この事件は、なぜ我々が用心深くあるべきかを教えてくれ、なぜ大統領が、従来のように対応に追われるだけでなく、もっと積極的なステップを取ろうとしているかを思い起こさせる酷い事件である」と述べている。

The White House just cited the Quebec mosque attack to justify Trump’s policies | Toronto Star

トランプ支持者や大統領府の人間が、いかに偏った情報しか得ていないかを物語っている。
 
常識で考えれば、例えもし、この事件がイスラム教徒による犯行であったとしても、6人のイスラム教徒が殺害され、多数の負傷者を出した事件の後に、「だから我々は、安全の為に、イスラム教国からの移民を受け入れるべきでないのだ」と報道官が発表するべきだろうか。
 
過激イスラム教徒によるテロに対しては、厳しい態度で臨む必要がある。またヨーロッパに押し寄せた多くの難民が犯した犯罪についても、知らない振りをするべきではない。それでも、祈りを捧げている最中のイスラム教徒が犠牲となった殺人事件の後に、過激派やヨーロッパへのイスラム教徒移民が犯した犯罪の非を、平和の内に共存しているイスラム教徒に押し付けて良い筈がない。
 
 
犠牲となった方の魂に安らぎが与えられ、ご遺族の方に慰めがあるように、心からお祈り申し上げたい。
 

トランプ大統領就任一週間: トランプ支持者たちの見る「別の現実」

「わが仏尊し」という格言があるが、同じようなものに「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」もある。仏か袈裟かが問題なのではなく、それが「わが仏」なのか、あるいは「その坊主が憎い坊主なのか」が、対象が尊ばれるか、或いは憎まれるかの判断基準になるようだ。自分が好感を持つ人のする事なら何でも許せるが、憎む人の場合、正しい事をしていてもそれを素直に評価できないという感情は、誰もが一定のレベルで抱える感情かもしれない。

 

ところがこうした感情は、文化的な国において、また政治や倫理を語る場合、公平な評価を行なう際には戦われ、抑えられるべき感情である。私たちが生きるのが文化的な民主主義国家であるならば、法の下の平等もさることながら、倫理の下の平等も覚悟されなければならない。これは勿論、玉石混淆を意味しない。アメリカの表現で言えば、リンゴはリンゴ同士、オレンジはオレンジ同士で比較されるべきであり、リンゴとオレンジを比較する事は愚かな事だ。

 

またノブリス・オブリージュという言葉の通り、地位が高い人ほどその地位に相応しい高い倫理観を求められるのも当然だ。職業に貴賤は無いという言葉は聞こえは良いが、真実からは程遠い。

 

トランプ大統領就任一週間が経った。過激なリアリティー番組のスターとして許された事も、自由諸国のリーダーとしては許されない事もある。トランプ大統領に対してはさまざまな評価があるが、その殆どは肯定的ではない。大統領に対する支持率が、就任一週間しか経っていない時点で44%の低水準である事は、未だかつてない。しかも彼の極端さや現実認識の無さは、支持者に影響を与えている。
 
トランプ支持者の現実認識の無さは、驚く程である。ここに『パブリック・ポリシー・ポーリング』による有権者の意識調査の結果がある。この世論調査は、ピュー世論調査と同じく、信頼に値する調査である。

Americans Think Trump Will Be Worst President Since Nixon - Public Policy Polling

 
2009年のオバマ大統領の就任式は、初の黒人大統領ということで、歴史的な動員があった事は、オバマ大統領支持者でなくても、常識的に判断できる。
 
ところが、トランプとトランプ支持者は、どうしてもトランプ大統領就任式の方が、オバマ大統領就任式よりも観客数が多かったと主張したいらしい。実際には、さまざまな角度からの写真やメトロの利用数から見て、トランプ大統領のおよその観客数は、オバマ大統領のおよその観客数の約三分の一だろうと言われている。

 

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そうであっても、トランプが勝利したのだ。一般投票で3百万票少なかった点を謙虚に受け入れ、国を一致していけば良い筈だ。
 
ここで彼が「自分の方が観客が多かった」「3百万から5百万の不正投票が無ければ、一般投票でも勝利をしていた」などと主張しなければ良いのだ。このような嘘を繰り返せば、当然、メディアの義務として、大統領の嘘を暴こうとするだろう。
 
ところが、トランプ支持者にとっては、『現実』とは別に『逆の現実』があるらしい。全体的には68%の有権者が、「オバマ大統領の就任式観客数の方がトランプ大統領の就任式の観客数よりも多かった」と答え、「トランプ大統領就任式の観客数が多かった」と答える有権者は、全体では18%のみである。ところがトランプ支持者となると、「トランプ大統領の方がオバマ大統領就任式の観客数より多かった」と答える割合が34%にのぼり、この主張を否定する32%よりも多い。
 
翌日の女性大行進の参加者については、54%の有権者がトランプ就任式の観客数より多かったと見るが、59%のトランプ支持者はトランプ就任式の観客数の方が多かったと考え、反トランプを掲げる女性大行進の方が参加者が多かったと答えるトランプ支持者の割合は20%でしかない。しかも38%のトランプ支持者は、世界各地で行なわれた女性大行進が、ジョージ・ソロスによって資金援助されたと、何の根拠もなく主張する。ここまでくればまさに、「困った時のジョージ・ソロス頼み」だろう。女性大行進が世界的に行なわれても、これはトランプ大統領を弾劾するものでも、その勝利を奪うものではない。トランプ支持者たちは、こうした行進に資金援助をして、ソロス氏が何を得ると考えるのだろうか?
 
残念に思えるのは、42%のトランプ支持者は、トランプが大統領の職務を行なうのにあたって、『私的サーバー』使用をする事を認めている。これに反対するトランプ支持者は39%である。私的サーバー使用と言えば、ヒラリー・クリントン元国務長官が、機密情報を扱う人物として相応しくないと責められ、トランプは「彼女を起訴する」と言い、トランプ支持者をして「彼女を牢獄に入れろ」と叫ばせたその原因の筈だ。
 
ヒラリーの私的サーバー使用は許せなくて、トランプによる使用は許せるのだろうか。或いは、たとえその後それによって彼女が責められ、反省をさせられたとしても、ヒラリーが使用したのだから、トランプの使用も認めろと言うのだろうか。
 
ヒラリー・クリントンも、ドナルド・トランプも、同じ物差しで測られるべきだ。「ヒラリーが行なうことは許せないが、トランプだったら許せる」は間違っているし、その逆にしても同様だ。
 
自分の気に入らない現実は否定し、自分の気に入らない報道は全て『フェイク・ニュース』片付けるだけなく、トランプもその他の政治家と同じ物差しで測られるべきだと考えない有権者に支持されている彼の政権はいつまで続くだろう。既に噂されている不正が祟って、宣誓証言を求められた際に彼が嘘をつけば、弾劾もあり得るのだ。しかも、トランプ弾劾を支持する有権者は、就任一週間しか経過していない段階で35%にものぼる。
 
トランプは、自分への礼賛をする支持者ばかりを見つめずに、一般国民に受け入れられる大統領としての資質を身に着けた方が良さそうだ。