トランプ・アメリカでは、対中国戦は勝てない。

挑発的で、『反中国』とも受け取れる発言をするトランプ氏の大統領就任をもって、トランプのアメリカは、南シナ海における中国の軍事拡張に真っ向から対決するのではないかと期待する声が、日本のメディアや言論人にはあるようだ。

 
期待や夢想、幻想、或いは『必要』がどうであっても、トランプ大統領の下のアメリカでは、中国相手の戦争は勝てない。軍事的な困難については、『中国との戦争を語る狂気のトランプ陣営』に書いたので、そちらをご一読されたい。
 
私には、トランプ大統領のような、外交や軍事作戦、経済関係の重要性を認識していない人物、また専門家より自らの意見を信じる人物の考えは予測できない。またスティーブン・バノンのように排他的イデオロギーを信じる人物が、どの程度の影響をトランプに持っているのかも未知数である。但し、彼らのような権力志向の人間が、実際に世界で一番強い国の指導者としてトップに立った時に、その権力の持つ毒をどのように制御し得るのかについては、悲観的な見方をしている。彼らは恐らく、自分の欲求や直感に逆らうような専門家の声など、軍事作戦についてであっても、諜報機関からの警告であっても、また経済にもたらす影響への懸念であっても、恐らく無視をするだろう。
 
であるから、専門家の声を無視してトランプのアメリカが対中国戦に巻き込まれる、或いはキッカケを作る可能性は無きにしも非ずだろう。しかしながら、なぜトランプのアメリカが対中国戦には勝てないか、トランプの性質とそれ以外の側面から説明をしたいと思う。
 
対中国戦の前に立ちはだかる最も大きな障害(?)は、『アメリカの世論』である。
 
中国は、どんな事があってもアメリカに対して意図的な先制攻撃を開始しないだろう。米国本土、ハワイ周辺に、中国が危害を加えることは無い。日本が期待するのは、南シナ海における中国の軍事拡張をアメリカが止める事だが、南シナ海の排他的経済水域上を飛ぶ米軍機に中国が威嚇射撃をし、仮に米軍機に命中してしまったとする。それでも、米国と中国が正式な開戦に至るとは考えにくい。
 
まず、米軍機を撃墜した中国側が、被害を受けた(?)米国側に宣戦布告をするだろうか。誰かが宣戦布告するとすれば、被害を被った側が行なうのが相応しいが、そもそもなぜ南シナ海に米軍機が飛行していたのかを、米国民は理解し、支持するだろうか? 

 

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中国領域と中国が主張する区域に米軍が飛行機や戦艦なりを派遣していた場合、アメリカ人の多くは、状況から鑑みて、アメリカの側が中国からの攻撃を挑発したと考える。これでは国民の多くは大統領の判断を猛烈に批判し、各地でベトナム戦争以来の大規模なデモ、あるいはそれ以上大きなデモが起こるだろう。
 
中国だけではなくロシアにしても、アメリカのような民主主義国家をいかに敗北させるか、承知している。アメリカのように選挙を控え、政府の失敗を報道するメディアの発達した民主主義国家は、大半の国民による支持無しに、戦争を始め、継続させることは出来ない。不支持率が8日目で既に過半数を超えたトランプ政権では、実際に戦争を継続する事はできない。

Gallup Daily: Trump Job Approval | Gallup

 
また、戦争を行なう場合、アメリカ大統領と言えども、勝手に宣戦布告をして良い訳ではない。これには必ず議会の承認が伴う。そして議会が承認するか否かは、国民(有権者)の支持が得られるかどうかによる。現在、中国との戦争を支持するアメリカ国民はいないに等しい。極東地域の情勢に詳しいアメリカ人はそもそも多くないのだが、それでも中国とのビジネスが盛んになっており、メード・イン・チャイナの製品が溢れ、中国が大きな市場である事は、どこか彼らの頭の片隅にはある。中国との戦争でアメリカのビジネスに支障が出ると知れば、戦争への大きな批判となるだろう。だからこそ中国やロシアのような国は、アメリカ世論を反戦に仕向ける方法を百も承知だろう。実際の戦力や戦果はともかく、世論が戦争の意義に疑問を持ち始めれば、アメリカとしては終結を急がなければならなくなるが、中国にはそうした足枷がない。終戦を急ぐアメリカは、中国の望む条件を呑むしかなくなるだろう。
 
トランプはしきりに中国を非難しているが、トランプの中国批判は、主に中国の為替操作に対してである。中国の行なう『為替操作』の為に、核兵器を大量に所有する中国との戦争を決意するアメリカ人などいない。勿論、南シナ海だけにとどまらず、中国の軍事拡張は、フィリピンだけでなく、日本や韓国のような『同盟国にとっての大きな脅威』ではある。但し『アメリカの安全保障に対する直接的な脅威』ではない。しかも、日本や韓国のようなアメリカにとって重要な同盟国の為に戦うことを「損だ」と繰り返し強調していた人物は、他でもないトランプ氏本人である。
 
トランプがもし国民に対して、何らかの印象を与えたかとすれば、日本や韓国、NATOのような同盟国は、アメリカに対しての正当な代価を支払わずに安全保障の恩恵を受けてきた、という『安全保障タダ乗り説』であろう。特に日本は、大統領討論会においても、ISISと並んでトランプが批判した外国勢力である。日本のような同盟国の為に、中国との戦争を国民に納得させられる政権ではないのだ。
(因みに、こうした説に異論を唱え、同盟国の果たす役割を主張してきたのは、日本人保守派が目の敵にするニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストのような主要メディアである。)
 
しかも、トランプの挑発や冒涜は中国に対してだけではない。イランに対しては新たな経済制裁を設けるとしているし、メキシコとは、国境沿いの壁の支払いを巡って諍いや挑発が絶えない。日本に対しては、中国やメキシコと同様に、貿易不均衡がアメリカから職を奪っているとして、次回の安倍首相との会談には、麻生財務相を同行させるように要求している。オーストラリア首相に対しては先週末の電話会談中、11月の大統領選挙での圧勝を自慢したかと思えば、1,250人の難民受け入れの約束事を「馬鹿な約束だ」とし、「今日は他にも外国の首脳と電話会談したが、この電話会談が一番最悪だ」と、ターンブル首相に対して怒鳴った挙句、途中で電話を切っている。ドイツに関しては、メルケル首相とプーチン首相のどちらを信頼するか聞かれ、トランプは答えられていない。イギリスに対しては、与党と対立している独立党のナイジェル・ファラージュを駐米大使に勧め、テレサ・メイ首相との会談前にファラージュとの会合を行なっている。

Trump Administration Set to Impose New Sanctions on Iran Entities as Soon as Friday - WSJ 

Trump risks isolating critical neighbor with Mexico feud - POLITICO  

U.S. asks Aso to join Abe-Trump meeting - The Japan News  

‘This was the worst call by far’: Trump badgered, bragged and abruptly ended phone call with Australian leader - The Washington Post   

Donald Trump avoids saying who he trusts more — Vladimir Putin or Angela Merkel | The Independent 

Donald Trump Meets Nigel Farage Ahead of U.K.'s Theresa May | Time.com

 
外国との諍いばかり続けるトランプの外交に、既にどこかの国と戦争になっているかのように国民はウンザリしているのだ。今日発表されたギャロップ社の世論調査によれば、メキシコとの国境沿いの壁建設を賛成する声は38%だが、反対は60%だ。また、イスラム諸国からの90日間の入国禁止令に賛成する声は42%だが、反対は55%である。シリア難民受け入れ禁止令に賛成している割合は36%だが、反対する割合は58%だ。

About Half of Americans Say Trump Moving Too Fast | Gallup

 
トランプ政権の外交政策への反感が強い。誰かを非難すればするほど、自分こそ悪者に見えてしまうのがトランプ氏でもある。これでは、戦争をしたくても支持する国民は大多数になることは無く、あまりにも諍いが増えれば、大統領職務遂行不能と見做され、大統領職務から罷免されるかもしれない。
 
トランプ政治の2週間をもって、殆どの人は、「予想していたよりも遥かに酷い」と落胆している。くり返すが、世界の殆どの戦争は、予想していなかった突発的な出来事によって引き金を引かれるものだ。アメリカと中国との戦争が歩かないか、明言する事は出来ないが、もしあるとすれば、それは日本の一部言論人や産経新聞の期待するような、中国だけが大きな痛手を被るような類いとはならない。勿論、日本も巻沿いを食うだろうし、日本の被害は、地理的な条件から、アメリカのそれを上回るかもしれない。
 
自分の見たいようにしか見ない眼鏡を通してでなければ、トランプ外交の未来は決して明るくはない。
 
この点だけは確信をもって言う。

中国との戦争を語る狂気のトランプ陣営

トランプ大統領のアドヴァイザーであるスティーブン・バノン氏は、5年以内の中国との戦争を示唆している。

Donald Trump's closest advisor Steve Bannon thinks there will be war with China in the next few years | The Independent

 
こうしたトランプ政権の強硬姿勢を喜び、それに期待をする日本のメディアやトランプ支持者の気が知れない。
 
まず軍事面から見ても、これはアメリカ、また同盟国にとって決して有利な戦争ではない。例えば南シナ海における中国の拡張を止める為にアメリカが中国を攻撃すれば、中国は反撃をすると既に明確に誓っているが、中国はアメリカ本土を攻撃し得る通常兵器を持っていない。

 

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もし通常兵器を使用するとすれば、在日米軍基地や在韓米軍基地への攻撃しかないだろう。アメリカ本土に届く兵器による反撃を行なうとすれば、核兵器を使用するしかないのだ。またアメリカ本土が核攻撃を受けその軍事力が著しく減退すれば、日本や韓国のような極東の同盟国が中国の更なる餌食となる事は分かり切っている。
 
しかもトランプ政権ほど、アメリカ諜報機関や軍事専門家からの報告を無視しているアマチュア集団は他には無い。
 
トランプ大統領は、安全保障会議へのCIA長官やケリー長官の参加には、親ロシアの態度を隠さないマイケル・フリン元将軍の許可を必要とさせている。安全保障会議に於けるジェームズ・マティス国防省長官の意見を覆す為に、国土安全保障庁のジョン・ケリー長官を外し、スティーブン・バノンをメンバーとしている。軍事戦略の専門家や、諜報の専門家の意見が届かない仕組みとなっているのだ。

Trump’s National Security Coup Cuts Intelligence Out of Big Decisions | Observer

 
己の無知や限界を意識できないトランプ氏は、毎日行なわれる筈の諜報機関からのブリーフィングにも不満を隠していない。「大統領がブリーフィングに飽きてしまい、テレビを見たがる」と側近が匿名で報道機関に漏らしている程だ。

Donald Trump's closest advisor Steve Bannon thinks there will be war with China in the next few years | The Independent

 
こうしたトランプ政権の実情を鑑みて、軍事諜報の専門家、ジョン・シンドラー氏は警告を発している。「これは冗談やお遊びではない。バノンやトランプの愚者集団は、今すぐ挑発を止めるべきだ。」
 
尤もこの事態の深刻さは、自分の見たい神話や幻想しか見られない反中国のナショナリストやトランプ狂信者には興味が湧かないかもしれない。
 
中国の拡張は厳しく批判されるべきだし、止められなければならない。しかしながら、トランプ政権に引きずられる今日のアメリカにそれが可能かどうかは、全く別の次元である。中国による軍事拡張の脅威を本気で止めるには、諜報や軍の専門家を軽んじる傲慢なアマチュア集団では不可能だし、彼を選出してしまった時点で、当分の間の機会を損なったと言える。
 
多くの戦争というものが突発的な事件によって勃発する事を考えれば、トランプ政権というアマチュア集団は、戦略の無い挑発をするべきではない。
 
 
 
 

 

『アメリカ・ファースト(第一)』とは何なのか

私は、トランプ大統領の主張する「アメリカ・ファースト」というスローガンに対して、なぜ日本人が嫌悪感を持たないのかが理解できない。このスローガンに対しては、保守派の政治評論家ビル・クリストル氏も「米国大統領がアメリカ・ファーストを連呼しているのは、非常に恥かしい。このスローガンの歴史を知らないのだろうか」と述べているが、全くその通り、この主張は「アメリカさえよければよい」という意味で使われてきた。このスローガンには、外国人への配慮は欠片も無かったのだ。

「アメリカ・ファースト」は、真珠湾攻撃の数日後真であった委員会の名称で、1940年9月4日から1941年12月10日まで続いた、「世界で何が起きていても、とにかくアメリカは巻き込まれたくない」という一国主義を掲げる政治圧力団体である。

当時のアメリカは、ナチスドイツによってヨーロッパで起きているユダヤ人虐殺を無視しようとしていた。ユダヤ人が大量虐殺され、民族浄化されても、外国の戦争に巻き込まれたくないと考えていたのだ。当時のアメリカ人には、ユダヤ人の悲劇は我慢できたのようだ。であるからこのスローガンは、ドイツにもう一つの家庭を隠し持ち、ドイツとの戦争を避ける事を主張していたチャールズ・リンドバーグに代表される通り、多くの反ユダヤ主義者によって叫ばれていた。

現在のアメリカが、これを繰り返す大統領を恥ずかしく感じるのには理由があるのだ。

この政治圧力団体が解散した理由は、真珠湾攻撃と日本の宣戦布告によって、開戦が決定されたからだ。

勿論どの国でも、最優先されるべきは国民の安全である。それを否定するつもりは無い。しかしながら、アメリカ・ファーストは「アメリカを一番にして、二番目には同盟国、近隣国」という意味では使われなかった。あくまでもアメリカ・ファーストであり、またアメリカ・オンリーであり、セカンドやサードは無かったのである。
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このスローガンは、戦後も「アメリカさえ無事ならば、アメリカさえ良ければ、他で何が起こっていても構わない」という意味で使われ続けた。それは、アメリカで有名なスース博士の挿絵にある通りである。

この挿絵は「アメリカ・ファースト」と書かれたセーターを着た母親が、子供たちにヒトラーを思わせるオオカミの本を読んで聞かせている。

「そしてオオカミは、子供たちを嚙みつくして彼らの骨を口から飛ばしました。でも、この子供たちは外国の子供たちなので、別にどうでも良かったのです。」

アメリカ・ファーストとは、「アメリカさえ良ければ、外国人の悲劇は気にならない」という意味でしかない。そして日本やメキシコは、例え経済が崩壊し、政権が転覆し、軍事侵略をされても「アメリカさえ良ければ気にならない」という宣言なのだ。

トランプ大統領のくり返すこの宣言にシンパシーを感じ、理解を示すトランプ支持の人々は、このスローガンの持つ残酷な歴史や意味を知らないのだろう。

なぜヒラリーの民主党は敗退したか

トランプ氏が大統領選に勝利した原因は、トランプ支持者の熱意にはない。
 
トランプの選挙ラリーに行ってみたという日本人が「トランプ氏への熱気は、凄まじい。あの熱気を見て、トランプ氏勝利を確信した」と意見するが、『熱気』という、主観を通してしか測れない熱心さは、「いや、ロムニー元知事のラリーの方が熱気があった」という別の意見も生じさせる。尤も、いくら熱心な支持者がいても、彼らとて、躊躇しつつ投票する有権者と同じ一票しか有していない。勝敗を決めるのは、どの候補者の場合でも、支持者の熱気ではない。
 
しかも、実際のトランプ氏の得票数は、ヒラリー・クリントンのそれより約300万票少なかっただけではなく、2012年の大統領選挙で共和党から出馬し、オバマ大統領(当時)に敗退したミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事の得票数よりも少なかったのだ
 
共和党議員への票は、2012年の大統領選挙時とほとんど変わっていない。民主党の得票数が減少したのだ。トランプ大統領、及び共和党が勝利した事には間違いないが、その勝因を問う場合、それは共和党にあると言うよりも、民主党の弱体化にあると言える。
 
トランプ氏が持っていてロムニー氏が持っていなかったものは、ヒラリー・クリントンという最も不人気な対抗相手であり、8年間にわたる極左オバマ政治への不信感だ。その不信感は、オバマ大統領その人に対してというよりも、民主党に対して表れた。

 

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          ヒラリー・クリントンの不人気は、民主党支持層を回復できなかった。
 
オバマ政治、また民主党が支持を失ったまず一番大きな原因は、その対テロ対策、また移民を含めた外交政策にある。私には個人的に親しくするトランプ支持者がいるが、彼らが共和党指名選挙の段階からトランプ氏を支援していた理由は、彼の「すべてのイスラム教徒を入国禁止にする」という、極端であからさまな反イスラム教政策にある。勿論この公約は、憲法というものが宗教による差別を禁じている点や、テロへの戦いでイスラム教徒との協力関係にある点から考えて、メディアや軍関係者、外交専門家などから猛烈な反発を浴びた。しかしながら、過激イスラム教徒によるテロへの恐怖感は、ヨーロッパ各地でのテロが起きる度に、自分たちに襲い掛かる現実として感じられたのだ。
 
勿論、アメリカで起きたイスラム教関連のテロは、「ホーム・グロウン」のテロと呼ばれ、新しくアメリカに移民したイスラム教徒によるテロではなく、アメリカで育ったイスラム教徒によるテロである。それでも、現在シリアやパキスタンなどのイスラム教国から受け入れる移民の子供達が、アメリカで育ちながらも、10年、20年先、過激イスラム教にシンパシーを感じ、アメリカでテロを起こさないとは限らない。また、テロではないにせよ、イスラム教徒の移民が、自分たちのイスラム教文化やシャリア法の適用などを求め始めるケースが増えていた。こうした動きに、アメリカの国柄が破壊される事を懸念する声があがった事は、当然の流れである。
 
例えば、2015年テキサス州のアーヴィング市では、アハムド・モハメッドという当時14歳の少年が、自分で制作したという『時計』を、自分の通うマッカーサー・ハイスクールに持ち込んだ。ところがこの「制作品」はアタッシュケース爆弾と見分けがつかない代物だった。秒針の音がするアタッシュケース『時計』は、教師によって没収され、警察が呼ばれた。結局これは爆弾ではない事が判明し、モハメッド少年はオバマ大統領によってホワイト・ハウスに招かれている。この一家はアーヴィング市を相手取って「イスラム教徒に対する偏見を基に、不当な差別を行なった」として、約16億円を求めて訴えを起こした。

 

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 アハムド少年の作ったとされるアタッシュ・ケース時計。素人には、アタッシュケース爆弾にしか見えない。

 

アメリカでは、幼稚園児がハロー・キティのオモチャの拳銃で「撃つぞ」と叫んでも、場合によっては問題になってきた。過剰反応である事には違いはないが、犯罪には厳しく対応をする為に、紛らわしい真似をしない意識が徹底している。この期に及んで、専門家でなければ違いが判らないアタッシュケース『時計』を持ち込んだ少年に対する学校や警察の対応が間違っていたとは、常識的には思われなかった。この一家がアメリカ人によるイスラム教徒への差別を訴えれば訴えるほど、反感を招いたのだ。
 
またアーヴィング市の市長は、モスクの指導者たちが、市内のイスラム教徒に対し、イスラム教の法律であるシャリア法を適用した裁きを行なっているとして訴え、外国の法律を合衆国内で適応してはならないという州法にしたがって裁判で勝利している。
 
 
このような例は、イスラム教徒の人口がある程度増える地域に於いて見られ、『イスラム教徒の女性が警察のパトロールで止められ、マグショットの写真を撮る際にも、被り物を取る事を拒否し、市当局を訴えた』というニュースもある。「各地でイスラム教徒らの新しい移民たちが、アメリカの文化を変えようとしている」という不安感が漂った事は、ブレイトバート誌などのアルト・ライト・メディアが詳細に報道していた。
 
勿論、過激イスラム教とイスラム教の関係を否定し、却ってキリスト教及びユダヤ教を批判するオバマ大統領や民主党の主張は、もともと民主党支持者の多い大都市以外の殆どの地方都市において民主党離れを起こしていたのだ。この兆候は、すでに2014年の中間選挙の時点で、民主党の歴史的大敗と、共和党の飛躍でも見て取れる。地方における民主党の支持基盤の弱体は、不人気なヒラリー・クリントン元国務長官では回復できなかったのだ。この点こそが、ヒラリー・クリントンと民主党の敗退の原因である。
 

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  2014年の中間選挙での地図。共和党の大勝利によって、合衆国の多くの地域が赤く塗り替えられている。
 
選挙直後ワシントン・ポスト紙は、普段は民主党に投票する世俗イスラム教徒の女性が、なぜ今回に限ってトランプ氏に投票したかを説明した記事を掲載した。この女性によれば、イスラム教徒の移民増加に伴い、アメリカ社会の自由や平等が侵害される事を懸念する世俗派、或いは穏健派のイスラム教徒がいる。
 
くり返すが、これらの「普段、民主党に投票するのに、今回はトランプ氏に投票した」という有権者の票は、2012年にオバマ大統領(当時)に対して敗退したミット・ロムニー候補以上の票は与えなかった。「普段、共和党に投票するのに、今回はヒラリー・クリントン元国務長官に投票した」という反トランプを掲げる共和党支持者の票が、ヒラリー・クリントンに勝利を与えなかったことと同じである。
 
しかし、何故民主党が敗退をしたのかという理由の説明にはなる。
 
因みに、私には民主党支持者の友人も多くいるが、彼らはイスラム教徒への差別はしない一方、「イスラム教は平和の宗教である」などと言う主張にもは強く反対する。こういった民主党支持者は、ブッシュ大統領のような保守派政治家の「世界の警察官、アメリカ」には賛同せず、むしろ外国への軍事介入には否定的である。今回の選挙では、オバマ大統領のような急進的左翼ではない民主党支持者は、『イスラム教は平和の宗教』には賛成し得ず、ヒラリー・クリントンの不正にも好感を持てず、結局、リバタリアン党のゲイリー・ジョンソン党首に投票している。ジョンソン党首の外交政策は穏健な民主党議員と同様で、一国平和主義を標榜している。穏健な民主党支持者は、今回の選挙ではリバタリアン党か、緑の党に流れたようだ。これら第三の党と呼ばれる弱小政党の果たした役割を、忘れるべきではない。
 
リバタリアン党だけでも400万の票を得ているが、勝敗の決め手となった州では、票をヒラリー・クリントンからむしり取ったと分析されている。ヒラリーからの票がこれら第三の党に流れれば、結果的にはトランプの勝利へと繋がる。たとえ彼らが一番毛嫌いをしているのはトランプその人であってもだ。

Third party voters criticized after slim Trump margins - NY Daily News

Poll: Clinton, Trump most unfavorable candidates ever

 
因みに、トランプ大統領就任の翌日21日、女性をメインにした大規模な反トランプ行進が世界各地で行なわれた。参加をした女性の多くはリベラル派である。この反トランプ行進を企画したリンダ・サーソールはイスラム主義者であり、シャリア法を素晴らしいものとして擁護し、イスラム教を棄てた人権活動家、アヤーン・ヒルシ・アリへの名誉博士号授与を「彼女は憎しみの煽動家で、それに値しない」と反対している。

Linda Sarsour’s Muslim Identity Politics Epitomize Feminism’s Hypocrisy

 
アメリカにおけるシャリア法の活用を求めるリンダ・サーソールを「私のヒーロー」と呼び、擁護しているのが、レズビアンの活動家として有名なサリー・コーンである。皮肉なことに、真にシャリア法が適用されているイスラム社会では、同性愛者は石うち等で死刑に処される。サリー・コーンだけではなく、スーザン・サランドンやマーク・ラファロなどのハリウッド著名人が「私は彼女を支持する」とサーソールを支持するが、これらの急進的ハリウッドの有名人の一人として、シャリア法の下では生きられない筈だ。(*但し、サーソールの偽善を指摘するあまり、サーソールとISISの繋がりを指摘する陰謀説専門メディア「Gateway Pundit」の記事は、全く信頼に値しない。)

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    反トランプ女性大行進を企画し、アメリカにおける女性の人権蹂躙を訴えるリンダ・サーソール
 
私はトランプ大統領による「アメリカ=修羅場」就任演説を批判するが、これらリベラル派のハリウッド有名人が叫ぶ、「アメリカにおける人権侵害や女性への人権蹂躙」なども的外れであると批判する。本当の人権侵害は、イスラム主義国や共産主義国、専制主義国等で行なわれている。
 
リンダ・サーソールやサリー・コーンがともに大統領に反対する大規模デモを行なう自由が、いくらトランプ大統領の下とは言っても、アメリカにはある。そのような自由は、反トランプ・デモを企画したサーソールの目指すイスラム主義社会には無い。
 
この偽善から方向転換をしなければ、民主党の支持基盤の回復は無いだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

反日大統領トランプによる『TPP脱退』と、客観的な分析や証拠に反してトランプに心酔する日本人ナショナリストの奇怪

どこの国でも、ナショナリストたちは、自国を美化する神話には興味を示すが、自国へ深刻に影響を及ぼす現実の安全保障や経済にはあまり関心を持たない。彼らにとって守るべきは『名誉』や、「他者に何と言われるか」であり、国の平和や近代民主主義、自由主義国家としての安定では無いようだ。胸を悪くするような反対意見や報道ならば、法律によって罰せられる事すら願う。「言論、表現、思想、報道の自由」が、自分の異論を広める為に用いられる時には、これらの自由の制限をすら求めるが、これらの自由の制限をすれば、どんな権力の乱用を可能とするか、将来的な観測が出来ない。また、自由が保障されている社会だからこそ、経済発展を成し遂げる事が出来るという側面にも気づいていない。

 
さて、私は今回、日本人ナショナリストを批判するつもりでこれを書いているが、ナショナリストと言っても、特にトランプ支持のナショナリストを指している。私は以前、オバマ大統領を「アメリカ史上最悪の大統領」と批判してきた。またヒラリー・クリントンの不正についても書いてきた。FBIのジェームズ・コーミイ長官が、大統領選挙投票数日前にヒラリー・候補への捜査を開始した時にも、彼女を庇いはしなかった。確かに彼女には不正があったからだ。
 
ところがトランプ氏の不正は、ヒラリー・クリントン元国務長官の不正を凌ぐ不正である。そして彼は、もし彼が選挙中の公約を実現すれば、アメリカ経済だけでなく、日本経済を含む世界的な不況を起こし兼ねない政策を掲げているのだ。しかも彼の対日観は、1980年代の貿易不均衡、日本との貿易摩擦が激しかった頃のまま、「日本の為に、アメリカ人は職を失ない、日本の貿易の為にアメリカは負担を強いられている」という被害者妄想にとり付かれたままなのだ。
 
近年のアメリカ大統領で、彼ほどあからさまに日本への敵意を表している大統領はいない。日本については、パートナーとしてよりもアメリカから搾取する経済大国としか考えていないのだ。ところが何故、ここまで日本についての敵意を表すトランプ大統領を支持する日本人ナショナリストがいるのだろう。

 

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トランプは在日米軍に関して、日本が「少しも負担額を払っていない」と主張した。ワシントン・ポストの記者に、「日本は50%払っています」と窘められると、「何故100%ではないのだ」と聞き返している。あくまでも日本が全額負担するまでは、アメリカにとって「アンフェア」であると言いたいのだろう。またトランプ氏は日本が「アメリカから何も買っていない」と非難している。これについてもメディアはトランプ氏の誤りを指摘しているが、トランプ氏には貿易不均衡が是正されるまで、「搾取されている」という被害者妄想から抜け出せないのだ。これはトランプ氏が自由貿易の何たるか、貿易不均衡が何故生じるかを全く理解していない証拠である。
 
トランプ氏の掲げる対日政策は、日本の安全保障と経済を著しく傷つけるものだ。トランプ支持のナショナリストは、ビジネスマンとしてのトランプの経歴で以て、これは交渉をする上での前提であるとトランプを弁護するが、これはそもそもビジネスマンとしてのトランプの経歴を知らないからだ。
 
トランプはトランプ大学の詐欺事件でも知られている通り、弱小のビジネスや個人から資金を巻き上げ、賃金を払わず、意図的な借金を負い18年間税金を支払わず、カジノ経営による4回の破産後、アメリカの銀行から融資を断られた後はロシアの資本から援助を受けてきた人物だ。この経歴からいくつも分析ができるが、日本にとって良い交渉相手ではない。
 
安倍政権がトランプの要求を無理に満たそうとすれば、必ず日本経済の犠牲が伴う。トランプが要求する通り、貿易不均衡を正すため、日本は大量のアメリカ車を購入出来るだろうか。米軍基地負担100%が支払えるだろうか。これらを国民は承諾するだろうか。このようなトランプの無理な要求を呑もうとすれば、日本経済は必ず打撃を受け、国民生活に支障が出る。経済成長を果たせなければ、安倍政権は支持を失い、自民党は敗北する。代わりに控えるのは、さらに親中派の政権である事をナショナリストは全く考えていない
 
私のまわりには、日本人の中の自国への国防意識の欠如を嘆く人々がいるが、彼らとて自衛隊に勤務している人ばかりではない。その通り、世論調査によれば、日本人のおよそ11%のみが自国を守る為に戦うと答えているだけだ。この数は先進国の中で最低のレベルである。

Only 11% of Japanese people willing to fight for their country: Gallup survey ‹ Japan Today: Japan News and Discussion

 
トランプ支持の日本人ナショナリストらは、米軍の撤退を機に、日本人の中に国防の意識が芽生える事を期待しているようだ。もしかしたら、日本人の中の国防の意識を芽生えさせるには、米軍の撤退しかないと考えているのかもしれない。但し米軍が撤退したとしても、何も起こらなければ意識は変わらないだろうし、何か起こった後では遅いのが本当だ。
 
例えもしここで、日本の世論に突然の国防の意識が芽生えたとしても、中国は日本の変化を穏やかな目で見守ってくれるだろうか。それはあり得ない。核に対する絶対的なアレルギーを無視して日本が核開発に着手すれば、まず安倍政権は崩壊するし、中国は必ず先制攻撃を開始する。そのついでに中国が尖閣や沖縄に侵略すれば、ロシアは間違いなく中国に加勢し、北海道のあたりを侵略するだろう。日本人ナショナリストが「プーチンは柔道が好きな親日家」と期待しても、彼らの淡い期待くらい何も無かったかのように踏みにじる冷酷さは、プーチンの得意とするところだ。(もっとも、最近のプーチン大統領の発言を見れば、日本側に過度の期待をしないように牽制しているように聞こえる。それでも淡い期待を寄せるのがナショナリストなのだ。)
 
仮にトランプの無理な要求に何とか応えようと安倍内閣が努力すれば、日本経済は深刻な打撃を受け、政権は支持を失う。その時に、中国が強硬姿勢を取らず、懐柔政策を行なう場合も考えられる。トランプ政権は4年、長くて8年しか続かないが、中国は南京などの歴史問題や尖閣などの領土問題をこの先20年、50年取り上げないと提案するかもしれない。中国にとって、これくらいの期間の先を読んで外交を行なうことは簡単だ。日本経済のパートナーとして中国がさらに重要な位置を占めれば、親中派の議員が有力となり、日本の外交政策も親中路線へと変更せざるを得ない。勿論、同じ誘惑の誘いが中国から韓国に対してなされる事も当然あり得る。フィリピンのドゥテルテ大統領就任とともに、中国は対フィリピン政策を強硬外交から懐柔外交へ変更した。中国がその期を判断し、強硬路線を改める事は出来る。
 
但し、もし中国が「歴史、領土問題をしばらくは取り上げない」と約束したとしても、この蜜月期間の後には、或いはトランプ政権後には、中国が再び折りを見て歴史、領土問題をぶり返す事は、明らかである。しかしながら日本には、その時に機敏に対応できるほどの柔軟性はないし、親中議員に国会は牛耳られているだろう。
 
トランプは今日にもTPP撤退の大統領特別指令に署名し、アメリカはアジア制覇の役割を中国に押し付けた。アメリカの脱退は安倍政権を直撃する。中国の張俊中国外務省国際経済部長は、この降って湧いた好機に、「もし、中国が指導者としての立場を取ったと言いたい人々がいるなら、それは中国が突然指導者として自らを推したからではない。それは元々のフロントランナーが突然後ろに下がり、中国を前面に押したからである。」と語っている。

Trump’s Pacific Trade Retreat - WSJ

 
安倍首相は、この期に及んでもまだ、TPPの重要性をトランプ大統領に説明しようとしている。稲田防衛庁に至っては、在日米軍基地がいかにアメリカの国益に叶っているか述べているが、これはトランプにとっては挑発でしかない。アメリカの主要メディアはTPP脱退の政策が安倍政権を直撃するだろうと懸念を発している。悪い事に、大統領就任後のトランプ氏は、複数の政策顧問の反対意見を押し切って、TPP脱退を含む大統領指令に署名したようだ。この先いくつ「複数の政策顧問の反対を押し切って」愚かな決定を下していくのだろう。

The first days inside Trump’s White House: Fury, tumult and a reboot - The Washington Post

 
SNAニュース・ジャパンはトランプ大統領によるTPP撤退を天才的戦略とは見做さず、却って「精神障害を負った男」とトランプを表現している。トランプは大統領就任後3日間の間に、大統領特別指令を発し、自分が大統領に就任した2017年1月20日を記念して、北朝鮮さながらの『愛国心の日(National Day of Patriotic Devotion)』と制定した。そのうち気が付いた時には、いつの間にか彼の誕生日が国民の祭日となっているかもしれない。

Donald Trump's 'day of patriotic devotion' has echoes of North Korea | US news | The Guardian

 
トランプ支持の日本人ナショナリストらは、トランプの主張を鵜呑みにし、主要メディアが嘘をついていると信じているようだ。但し、トランプの日本への偏見を正しているのは、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などの主要メディアである。トランプのお抱えメディアである、ブレイトバート誌などの三流誌が、トランプの偏見に対して物申すことなどは決してしない。
 
「日本の名誉を取り戻す」ことを掲げる日本人ナショナリストが、なぜ現在の日本に対するトランプによる冒涜や捏造、誇張、偏見に対して物申さないのか、彼を弁護する理由は何故なのか、なぜ客観的な分析や証拠も無く、もっと明確に言えば、客観的な分析や証拠に反してトランプを弁護し、彼に期待し、心酔するのか、到底理解できない。事実に反して、トランプ政権で日米関係が良く変わるかのように吹聴するナショナリストらは、連日の連敗にもかかわらず日本の勝利のみを宣伝した戦時中のプロパガンダよりもひどい。
 
トランプ大統領の下で日米関係が好転する事は無い。日本にとっては、いくらリベラル派であり、民主党であり、腐敗していても、ヒラリークリントンの方がマシであったのだ。そもそも自由貿易を阻止しようとするトランプを保守派に仕立て上げ、トランプとヒラリーの対決を保守派対リベラル派であるかのように宣伝したトランプ支持者は、保守が何を意味するかも理解していないのだ。
 
この先も、トランプ支持の日本人ナショナリストらは、日本を誤った方向に導くだろう。
 
 
 
 
 

 

平成天皇の譲位

83歳になられた今上天皇が、高齢を理由に公務への差し障りがあるとして、譲位の願いを述べられている。憲法に定められ、また、ご自分の義務感から、歴代の天皇に勝る公務の量をこなしてこられた平成の明仁天皇に対する国としての配慮は、天皇ご本人がご自身のご意向を述べられなかった事を良い事幸い、手つかずになっていたのが本当だろう。
 
私はイデオロギーにとらわれず、常識的な意見を申し上げる。天皇や皇族方に対する言葉使いも、意図が伝わるように、丁寧語だけで書かせていただく。

 

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83歳になられる天皇が譲位を願われているなら、「譲位は許されない。摂政を代わりにおくべき」「国家の在り方は別である」などと理屈をこねて、人間的な不可能を押し付けるべきではない。

櫻井よしこ氏ら「譲位ではなく摂政を」 天皇陛下の生前退位で有識者ヒアリング

 
都合の良い時は「先人たちは皇室と日本国の将来の安定の為に譲位の制度をやめた」と「伝統」を持ち出すのは卑怯である。真に伝統にこだわるならば、天皇が自らの意向に従い皇太子を選び、宮家を設立し、譲位できる体制こそ、日本の伝統であった事を認めるべきだし、「先人たち」を持ち出し、彼らの将来的予測や知恵が絶対であったかのように絶対視するべきではない。明治時代に設定した皇室典範の制度が、現実にそぐわない事もあり得るのだ。真に『保守派』を気取るならば、非現実的な精神性を、天皇や皇族であっても、他者に求めるべきではない。
 
科学的、生物学的な困難は、精神力によってどうこう出来る事では無い。「日本精神さえあれば、竹槍をもってでもB29を撃退できる」と科学を否定したファナティックな旧日本軍の軍人と、今日の日本は違うのだ。
 
「憲法違反の恐れ」と言うならば、外国からの攻撃を受けた場合、現行憲法内で何をするのか。憲法が制定された時点で想定されてなかった事態が生じる場合、国民の安全に関する事ならば、新たな事態に対応できるように憲法解釈を変更してきた筈だ。
 
実際、戦後直後には、昭和天皇は譲位を考えられていたし、政府も皇族方もそれを支持していたが、譲位を止めたのは、マッカーサー元帥の知恵である。当時、12歳であった今上天皇の年齢を考えれば、昭和天皇が在位し続けた方が、日本統治が容易だったことは占領軍の判断として理解できる。まさか、マッカーサーの政治判断を、「先人の知恵」と呼ぶ訳ではあるまい。
 
緊急事態に直面して、臨機応変な対応をしなければ、生身の人間からなる皇室はどうやって存続し、安定し、繁栄できるだろう。「高齢は緊急事態ではない」と、臨機応変な対応が皇室に対して出来ないならば、「他者の痛みは我慢できる」という野蛮な仕打ちを、国が皇室に対して続けているとしか映らない。
 
天皇に対する期待も、皇族方に対する期待も、度を越せばそれらはただの野蛮の一言につきる。天皇が摂政を置く事ではなく譲位を願われているならば、天皇の望む通りに対応をするべきだ。譲位をすることと、摂政を置く事の違いは、誰よりも天皇がご存じの筈である。まさか「私の方が皇室の伝統、責務、公務、祭祀の務めにおいて、天皇陛下よりも詳しい」と、誰が言えるのか。
 
勝手な憶測ではあるが、例え摂政を置いたとしても、天皇である事の精神的な重みから解放をされる訳ではない。その重みから解放され、新たな天皇としての現皇太子の姿を見て安心をしたいと願われているとすれば、それは人間として、また親として、当然の心情である。
 
いずれにせよ、選択肢を多く出すことは重要であるが、何よりも汲まれるべきは天皇の意向である。
 
本当に皇室の安泰や繁栄を願うならば、安泰し得る皇室、繁栄し得る皇室、また更に一言付け加えるならば、嫁ぎ易い皇室へと、皇室を支える体制も含めて変えられてゆく必要がある。
 
 

女性大行進とトランプの奇妙な共通点

トランプ新大統領の就任式から一夜明けた21日、昨日のトランプ大統領就任式を見ようと駆け付けた群衆を遥かに上回る数の女性たちが、首都のワシントンDCやシカゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク、タラハシーなど全米各地でトランプ大統領に反対するマーチを行なっている。このデモは、アメリカだけでなく、カナダの首都オタワやロンドン、パリなど、西側諸国で一斉に行われているようだ。

 

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トランプ氏のように女性を性の対象としてしか見ない(と思われる)男性の大統領就任に対して、女性が嫌悪感を覚えるのは理解できる。トランプ氏は女性を容姿で判断し、本人の同意なく身体的接触を行なってきた。「有名人だから何をしても許されるんだ」と語っていた事も発覚している。

 

しかしトランプ氏は、POWや身体障碍者、マイノリティー、自分よりお金の無い人々等、男性であっても馬鹿にしている。おかしな弁護だが、トランプ氏が女性だけを差別しているわけでは無い。また女性であっても、トランプ氏に取り立てられた人々も多い。

 

トランプ氏のような低俗で、野蛮で、下劣極まりない人物の大統領就任に反対をしているのかと思いきや、デモはアメリカ内の「女性に対する賃金差別」「女性への人権蹂躙反対」など女性の権利向上への訴えに変わってきている。

 

アリシア・キーは、「私の体は私のもの。男性の好きにはさせない」とデモで語るが、彼女の体は誰かに蹂躙されたのだろうか。そうだとしても、それはまさかトランプ大統領の所業ではないだろう。マドンナは、自身も下品な言葉使いで怒りを表しつつ、「今回の選挙では、善は悪に打ち勝たなかった。それでも最後には善が打ち勝つ」と述べたが、ヒラリー・クリントンが「トランプよりマシ」である事は同意できても、あれだけ不正行為や腐敗の多いヒラリー・クリントンを善と呼ぶことには、彼女にとっての善が何であるか疑わせる。しかもマドンナは、「そうしたことが何かを本質的に変えることは出来ないと分かっている」としながらも、「ホワイトハウスを爆破でもしようかと思った」と発言している。このような過激な発言は、彼女の動機を正当化してくれない。

 

これらの有名人億万長者らが声を枯らして訴える女性の人権向上とは、何なのだろう。彼女たちはどんな人権蹂躙をアメリカで経験しているのだろう。もしかしてアメリカは、トランプ氏の表現したような「母親と子供が貧しさに閉じ込められ」ている『修羅場』のような国なのだろうか。

 

それにしてもこれらの女性は、ISISから逃げ出した元性奴隷の女性が涙ながらに国連で証言した時、サウジアラビアの女性がヒジャブを着用していない為に処刑を宣告された時に、どこにいたのだろう。これらのデモに参加する女性たちは、女性の人権を認めない原始的、過激イスラム教に対しても、『イスラム教は平和の宗教』『彼らの文化を侵害するべきではない』と擁護していたのではないか。

 

世界には、我々が声をあげるべき、人権に対する深刻な蹂躙が山ほどあるのだが、そうした人権蹂躙が本当にアメリカにあると考えているならば、彼女たちはトランプの描いた『修羅場としてのアメリカ』に同意しているのだろう。極右ナショナリストと左翼らが、右回り、左回りの違いがあるだけで、結局は一致する典型的な例である。

 

トランプ氏への批判は、その言動、政策によって、正確に行なわれるべきだ。しかしながら極論をもって極論を正すことは出来ないのだ。トランプ氏やこれらの有名人らが、金や大理石、マホガニーの御殿に住みつつ「我々は不当に扱われている」と叫んでも、熱心な支持者を喜ばせるだけで、大多数の中流アメリカ人の声を代弁しているとは、到底言えない。