ロートリンゲン:マシェティで女性を刺殺したシリア難民

日曜日、ドイツ南部のロートリンゲン市で、一年半前にドイツに移住したシリア難民の21歳男性が、マシェティ(長刀のなた)で女性2人と男性一人に襲い掛かり、襲われたうちの妊娠をしていた女性が死亡する事件が起こりました。

日曜日の事件はドイツ現地時間14時30分頃、ロートリンゲンの中央バス停留所で起こりました。犯人は、マシェーテで女性2人と男性1人に襲い掛かり、駆け付けた警察官にも襲い掛かりましたが、現場を通りかかった市民が、運転するBMWで意図的に犯人に衝突し、路上に倒れたところを駆け付けた警察官によって逮捕をされました。

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10日間の間で、西ヨーロッパでは4件の、ドイツ南部では3件目にあたる市民に対する攻撃事件が行なわれました。そのうちの二件はISが犯行声明を出し、関わりを認めています。

金曜日にはミュンヘンで、大量殺人に憧れる18歳のイラン系ドイツ人によって9人が射殺される事件が起こりました。

7月18日には、ドイツに保護を求めている17歳の難民が、ヴェルツブルグの電車内で、乗客に対して斧で襲い掛かり、香港出身の4人が重傷を負い、地元客の1人が負傷する事件がおこりました。

その4日前にはフランスのニースで、チュニジア出身の運送配達員がトラックでパリ祭を祝う市民に襲い掛かり、84人が轢殺されました。

これらの事件のうち、ISISが関わりを認めているのは、ヴェルツブルグとニースの事件ですが、テロでなくても、イスラム主義国や人権、遵法という概念の無い発展途上国から大量の難民を受け入れれば、市民に対する暴力犯罪が多発するでしょう。

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欧米人の低い出生率と、イスラム教徒移民の高い出生率を考えれば、若い世代の移民の移住などを考慮すれば、ヨーロッパのイスラム教人口は、2050年までには、ヨーロッパの全人口の16%に達すると考えられています。http://www.pewforum.org/2015/04/02/europe/

シリアからの難民についても、地上軍を派遣する上でのISISに対する徹底的な掃討作戦をとらずに、大量発生するだけの難民を欧米その他の国が受け入れるだけならば、シリアはISISやイスラム教過激派民兵のものとなり、少数民族への民族浄化が進むだけです。「介入しなければ良い」では済まされません。

「アメリカは戦争が好きな国」というアメリカの軍事介入を否定するだけの「アメリカ悪玉説」「欧米陰謀説」にかかわらず、アメリカの軍事介入が保っていた平和や自由、秩序があることが分かります。

同盟国やNATO支援の『条件』を主張する、ドナルド・トランプという『ソシオパス』

トランプ氏の書いたとされる「Art of the Deal」は、実は本人の書いたものではなく、トニー・シュワルツというゴーストライターによって書かれたものですが、シュワルツ氏は、トランプ氏を「慢性的に、その瞬間、瞬間に嘘をつき、自分のつく嘘を真実だと信じている。自己愛がひどく、注目を浴びるためには何でも言うし、どんなことでも行なう。注意を払いつつ落ち着いて座る事がほんの数分も出来ない。大統領として軍事情勢に関する日々の報告会議中、じっと座って聞くことは不可能だ。彼が大統領として核爆弾のスイッチを押す権限が与えられれば、人類の破滅に繋がると真剣に考える。私があの本のタイトルを考えて良いなら、(犯罪者に多い)『社会病質者』と名付けるだろう」と述べています。
 
シュワルツは、「トランプ氏は、あの本に書かれたような人物ではない。国民があの本を読んで、あの本に書かれている魅力的なビジネスマンが真のトランプ氏だと勘違いしたまま彼が大統領となれば、私は一生罪の意識から逃れられない。トランプ氏の真実は明らかにされなければならない」と、沈黙を破った理由を、ニューヨーカー誌や、グッド・モーニング・アメリカなどのニュース番組でも説明しています。(彼がゴーストライターであった事や、その他の詳細は、その他のジャーナリストに確認されています。)
 
トランプ氏の病的ともいえる『自己愛』と『注意力の散漫』は、ローマ皇帝ネロやカリグラなど、歴史上の暴君に見られる特徴です。
 
今日の報道によれば、トランプ氏はシュワルツを法的手段に訴えると脅しています。

www.newyorker.com

 
いずれにせよ、私は以前から、まずトランプ氏の世界情勢、外交、軍事、また経済知識の無さを上げて、彼が大統領に相応しくないことを主張してきました。ヒラリー・クリントンが、どれほど腐敗にまみれていたとしても、或いは「仕事のできない人物」であったとしても、トランプ氏の連発する同盟国への安全保障を脅かすような挑発は行ないません。彼は主要公約の殆どを転換していますが、「アメリカは(同盟国によって)利用されている。嘲笑の対象となっている」という被害妄想的主張は続いています。
 

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特にNATO加盟国への軍事支援の拒否、日本や韓国からの撤退などの公約は、共和党からの正式指名を受けた当日も変わることが無く、これに対してNATOの憂慮が伝えられています。
 
以下は、ニューヨーク・タイムズの記事を訳したものです。
 
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共和党からの正式指名を受ける水曜日、ドナルド・トランプは、NATO加盟国が攻撃を受けた際に、彼は「まず加盟国が同盟に対して貢献をしているか確かめる」と、米国が自動的に防衛支援をする協定に対して、疑問を投げ掛けた。
 
NATOに最近加盟したバルト三国を脅かすロシアによる恐喝行動に対し、トランプ氏は、もしロシアが彼らを攻撃した場合、これらの国々が「我々に対する義務を全うしているか」先ず確かめ、援助を送るかどうか決めると答えている。
 
「もしこれらの国々が我々への義務を果たしているなら、答えはイエスです」
 
主要同盟国への軍事支援が状況次第だとするトランプ氏の声明は、主要政党の候補者として、始めてだろう。しかしながら「アメリカの軍事支援に対して更に多くの軍事費負担をしないならば、ヨーロッパやアジアなどの同盟国から米軍を撤退させる」というトランプ氏による今までの主張と一致している。
 
また、トランプ氏はトルコやその他の専制主義国である同盟国が彼らの政敵を粛正したり市民から権利をはく奪している事について、圧力をかけることはないと答えている。彼に言わせれば、アメリカは他国の行動を変えようとする前に「まず我々自身の問題を解決しなければならない」そうだ。
 
「我々には、説教をする権利はないと思います」トランプ氏は、ダウンタウン・クリーブランドのホテルで行なわれたインタビューの傍ら、共和党全国大会の様子をテレビで見ながら、質問に答えている。「我々の国で何が起こっているか、見てください。人々が警察官を殺害しているような状況で、どうやって他国に説教できるんです?」
 
45分に及んだ会話で、トランプ氏は、「アメリカが長い間負担してきた分の同盟国を防衛するコストを同盟国に負担させ」、「アメリカにとって益でないと思われる長年の条約を解消」し、「アメリカのパートナーとなる意味を再定義する」と、彼に指名を勝ち取らせた『過激ナショナリスト的なアプローチ』を再び強調した。
 
彼は、世界中の国々が彼のアプローチと協調する事となると言う。トランプ氏は、現在ある「合意の継続」を願うと言うが、それはもし同盟国らがもはや存在しないアメリカの大きさを利用する事を止めたら、の話だそうだ。
 
木曜日に予定されている自身の演説を前に、彼は過去4ヶ月彼の選挙テーマであった「アメリカを第一に」を主張し、メキシコとカナダとの間に結んだ「北米自由貿易協定」も、更に大胆な交渉が望めないならば破棄する用意があると主張した。
 
大統領として、NATO加盟国である同盟国を自動的に防衛する事に疑問を投げ掛けたトランプ氏の発言の何時間か後には、それでなくてもアメリカの約束を不安に感じているヨーロッパ指導者は、トランプ氏の発言に対して驚きを隠せないコメントを発表している。
 
「同盟国間の確証がNATOの価値観の鍵です」NATOの事務総長で、前ノルウェー首相のジェンス・ストーテンバーグ氏は声明を発表した。彼はアメリカの選挙に介入をしたくないと語りつつ、「二つの世界大戦から理解できるのは、ヨーロッパの平和は、アメリカの安全保障にとっての重要だという事です。」
 
アメリカは28国と同盟を結び、故トルーマン大統領によって署名されたNATOの条約第5条では、ある加盟国が攻撃をされた際には、その他のどの加盟国も支援を送ることが要求されている。これが発動されたのは、2011年の9月11日、アメリカが攻撃を受けた時だけだ。
 
この条約は長年、特にエストニア、ラトヴィアやリトアニアのような、ソヴィエト連邦解体後に加盟した弱小国などの、ヨーロッパ諸国への攻撃を抑止する中心的な要因となってきた。
 
地域における最も親同盟派の一人であるエストニアのトーマス・ヘンドリック・イルヴェス大統領は、すぐさま、彼の小さな国がアフガニスタンにも派兵し、アメリカとの相互の防衛協定を守っている事を証明するツイートをした。
 
トランプ氏は、月曜日に行なわれたメラニア夫人のスピーチと、ミッシェル・オバマ大統領夫人が8年前に行なったスピーチの類似性に関する議論が収まりつつあることを嬉しく思うとし、「後になって考えれば、」前日にアシスタントが文言を混同させたことを、説明していた方が良かった、と語った。
 
人々に、この全国大会から何を得てほしいかという質問に対して、トランプ氏は「私が人々に非常に好かれているという事実を、です」と答えている。
 
トランプ氏は、アメリカの同盟国や敵国に対する彼のアプローチが、第二次世界大戦後、アメリカを平和の守護人とした「必要不可欠の国」であるという国際主義を主張してきた、今までの共和党の伝統と違うことを認めている。
 
「今は、40年前とは違っています」トランプ氏は、自らのアプローチと、リチャード・ニクソンの時代の法秩序と世界情勢が比較される事を拒否して言う。世界中から米軍を撤退する脅しを繰り替えし表明する。「我々は、軍事費に莫大な予算をつぎ込んでいます。しかも8000億ドルの貿易赤字があります。これが賢いやり方な筈はありません。」
 
トランプ氏は繰り返し、世界におけるアメリカの国益を単なる経済利益に見出そうとしている。平和維持の役割を担うものとして、北朝鮮のような敵国に対する核抑止力の提供者として、人権の擁護者、また同盟国の国境の保証人としての役割は、それが果たしてアメリカ経済への利となるかどうかによるようだ。
 
近代の大統領でアメリカの優先順位をそのように位置付けた人物はいない。この大会においても、トランプ氏の政策よりも、ブッシュ政権を思い起こさせるような国際介入を求める声があるのにだ。
 
しかしながら、北朝鮮によるミサイルや核兵器の脅しや、或いは南シナ会での中国の動向を前にしても、トランプ氏は考えを変えるつもりは無い。彼は外国にあるアメリカ軍は、あればそれに越したことはないが、必要では無いと言う。
 
「我々が(中国や北朝鮮から)アメリカを守る為であるなら、(撤退後でも、アメリカの国土から)いつでも軍を再派遣する事ができます。」トランプ氏によれば「その方が余程安上がり」だそうだ。
 
多くの軍の専門家は、北朝鮮に対するミサイル防衛に最も適した場所は日本と朝鮮半島だとし、トランプ氏の考えに否定的だ。アジアの国々による負担金を考慮すれば、アメリカ国内だけに基地を抱える事は却って高くつく。
 
トランプ氏とのトルコ情勢に関する会話は、明らかにトランプ氏が自身をホワイトハウスに据えて、中東における重要な同盟国を危機に陥らせる混乱を、アメリカとしてどのように対処するべきか、考えている事がわかる瞬間だった。アメリカはトルコのインジルリク空軍基地を抱え、ISISに対する攻撃機はそこから発陸され、ドローンや約50の核兵器を所持している。
 
トランプ氏は、トルコの選挙によって政権を勝ち得た独裁者であるエルドアン大統領に対しては、称賛以外の何もないようだ。「あの状況を転換させた事を評価します。あのクーデターは自作自演ではないかという人もいますが、私はそうは思いません。」
 
エルドアン大統領はクーデターの未遂を、政敵を粛清するのに悪用しているのではないか、という質問に対して、西側の掲げる正義の基準や『法による支配』をトルコ指導者が順守する要求はしなかった。「世界がアメリカがいかに悪い状況なのか見た時に、市民の自由など語れるでしょうか。我々が語っても良いメッセージは伝えられません。」
 
オバマ政権は、不安定な地域での重要な同盟国の安定を恐れるあまり、トルコに対するあからさまな圧力を与えることを自制しているが、ジョン・ケリー国務長官は、エルドアン大統領に法に従うことを求めるいくつかの声明を発表した。
 
トランプ氏はトルコやトルコの状況に似た国を拘束する事への自省を見せてはいない。しかしながら彼のアメリカの道徳的権威についての議論は、なにも新しいものではない。ロシアや中国、北朝鮮やその他の専制独裁国らが、アメリカの国内暴力犯罪や無秩序を指して自らの行いを正当化し、アメリカはこれらの国々を批判する資格がないとする論議だ。
 
トランプ氏は、エルドアン大統領にISISへの戦いを本格化させるように説得する事が出来ると確信をしている。しかしオバマ政権は、アメリカが支援する、ISISに対して最も効果的な攻撃を行なうクルド勢力が、クルド人の独立を恐れるトルコによって日々攻撃をされている現実に直面している。
 
これらの問題をどのように解決するのか聞かれ、トランプ氏は一瞬、置いてから、「話し合いによってです」と答えた。
 
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「話し合いで解決をする」とは、よほどご自分の能力や魅力に自身があるのでしょう。

また共和党全国大会から人々が得るものを、「(トランプ氏が)どれくらい多くの人々に好かれているかの確信」だとする真意は、「アメリカを再び偉大な国にする」や「アメリカをまず第一に」というスローガンとは異なり、ご自分の利を第一とするか、或いはご自分をアメリカという国家に投影しているようにすら受け取れます。

NATOや同盟国からの米軍撤退は、プーチン露大統領に近く、ロシアの意向を受けた、トランプ陣営の外交アドヴァイザーであるポール・マナフォート氏の入知恵でしょう。

Donald Trump’s Russia connections – POLITICO

 

いずれにせよ、このニューヨーク・タイムズの記事からも見とれるトランプ氏の無知、傲慢さ、自己愛は、シュワルツの告白した通り、確かに病的であり、ヨーロッパやアジアの同盟国の安全保障を脅かすものだだと言えます。

米保守メディア、ブルームバーグ誌による「自民党・憲法草案」への警告

先日は、アメリカ保守メディアであるナショナル・レビュー誌の、『ファシズムに逆戻りする日本』という記事をご紹介しました。
 
日本の憲法改正に関係して、アメリカの保守派メディアでは、その他にもブルームバーグ誌などが、同じ「天賦人権の否定」を危惧した『日本の右化を拒否する機会」という記事を書いています。
 
実はこの記事を書かれたノア・スミス記者は、2015年2月にも、「日本はアジアの専制国になるのか」という記事を書かれました。
 
まず、スミス記者が去年書かれた記事を抜粋します。
 
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勿論、日本人は自由のない国に住みたいとは願っていない。ある調査では、80%以上の日本人が最近の特別秘密保護法に反対をしている。また自民党の憲法改正にも反対をしている。日本の人々は、戦後70年間の自由を喜んでいる。その自由が、もともとは外国勢力によって与えられたものであってもだ。
 
(憲法改正に伴う)危険は、日本人が自らの自由を放棄するように誘導される可能性である。多くの西側のジャーナリストらは、憲法9条の改正の必要性に固執してしまって、人権を『義務』の引換に注意を払っていない。安倍政権によって経済の息を吹き返す可能性が高い傍ら、野党が力を持たず、分裂し、能力がないことは、憲法改正問題への議論にとって懸念の一つである。

 

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(中略)
 
しかし、新憲法に危険があることは確かである。第一に、これは自民党による、経済の悪化や福島原発事故によって騒々しく騒ぎ立てる文民の社会を崩壊させる試みかもしれない。特別秘密保護法と報道の自由への締め付けは、憂慮すべき兆候である。日本は既に、「国境のない記者団」による報道の自由に関する世界ランキングに於いて、2010年には10位であったものの、2015年には61位に落ちてしまった。
 
第二に、自民党の草案は国際関係にとって災害的な影響をもたらしかねない。現在のトルコやハンガリーが行なっているような自由のない民主主義を取り入れるならば、日本はアジア地域に於いて中国という抑圧的国家に代わる国としての魅力を失う。また、同盟を結び付けている『共通の価値観』がなければ、日米同盟を弱めることになる。日本も中国のように自由のない国家となるならば、米国は日中間の問題では、中立の立場を保とうとするだろう。
 
最適な解決策とすれば、日本が憲法の9条のみを改正し、その他については改正しない事だ。しかしながら、政治的にはそれは不可能なトリックだろう。自民党が9条を改正するならば、権威主義的な『義務』の強要と、人権軽視の扉を開く事にもなるだろう。日本にとって現実的な最良の解決策は、欠陥のある憲法の改正を、指導者たちが1940年代のメンタリティーを棄て去る時まで待つことかもしれない。
 
日本は歴史の重要な局面を向かえている。より自由のある社会になる可能性と、自由のない社会になる可能性だ。前者の方が賢く道徳的な選択であることは言うまでもない。
 
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スミス記者は、衆院ダブル選挙の自民党圧勝後に書かれた7月14日の記事では、憲法9条の改正に関して、
 
「多くのアナリストや、多くの日本人とは違い、私は(9条改正が日本の)再軍国主義化に繋がるという議論は注意をそらすものだと考えている。もし、かの有名な憲法9条が改正されれば、日本の自衛隊は、ただ単に「日本軍」と名前を変えるだけだ。日本が帝国の拡張や第二次世界大戦を繰り返す事は無い。改正によって日本が何かに積極的になるとすれば、それは弱小の同盟国を中国の拡張主義や、好戦的な北朝鮮から守り、自由のない社会をもたらすのではなく、自由をもたらす手段として用いられるだろう。」
 
と、9条改正については肯定的な見解を述べられたうえで、更に大きな懸念は「社会生活や経済における変化である」と書かれています。
 
これについては、自民党支持母体である「日本会議」が「日本の伝統」を強調する為、既に現実には適応できない「終身雇用制」の再興によって、安倍首相の下で進んでいた女性の社会進出が阻まれたり男女雇用のギャップが広がる懸念を吐露されています。
 
最も大きな懸念として、
 
「しかしながら、自由主義の価値への脅威は、女性の権利のみに止まらない。日本会議と安倍首相の支持者であるその他の保守派は、憲法から個人権利を保障する文言の削除を求めている。政府の命令に従う公示を、個人の権利への保障より重んじているのだ。これらの改革は、自由主義を世界に広める使命を負った民主主義国家としての日本の地位を弱めるだろう。」
 
と書かれています。
 
ナショナル・レビュー誌と同様、自民党の憲法改正草案が『天賦人権』を「西洋の価値観」として省いたことを強く警戒した上で、「日本会議」の伝統回帰主義が、個人の権利や女性の権利の傷害となることを警告しています。
 
殆どの日本の有権者にしてみれば、日米同盟を好意的に捉える米国保守派メディアの警告は、過剰反応であるかのように感じられるかもしれません。或いは、正しく意図を解釈していない、という不満もあるでしょう。
 
それでも、もし、これらの懸念が米国メディアの「完全な誤解」である場合、これから理解出来ることは、日本が一番大切な同盟国であるアメリカに対してさえも、シンクタンクなどを通じた情報発信の協力関係や、ロビイストが無い現実です。
 
勿論、外交においては、以心伝心など期待する方が間違っているのですが、「以心伝心」どころか、米国のメディアや政界に働きかける日本のロビイストすら無いのですから、これは以前、「南京大虐殺」と「安保法案」を共に主張した「日本の心を大切にする党」の選挙活動を批判した際にも述べた事なのですが、「李下に冠を正さず」という諺通り、議員らによる誤解を招く表現や主張は避けるべきなのです。
 
これらの議員の方々は、ご自分の言動の与える影響についても、『誤解をする方が悪い』程度にしか考えられていないかもしれませんが、実は、非の多くは日本の側にあります。
 
 
もう一点、日本とアメリカの社会文化の違いも考慮するべきだと思われます。
 
アメリカでは、歴史は歴史学者、情報発信はメディアの役割であり、これらに政府が介入すれば、(かなり誇張があるにせよ)「ファシズム」「全体主義」「政府による弾圧」であると、強く拒否します。
 
対して日本では、歴史論争や、マクグロウヒル社の教科書の記述の際にも「政府は何をしている」と活動家や産経新聞などのメディアから政府介入を求める声が上がりました。
 
ところが実際に、安倍首相がマクグロウヒル社の教科書の記述に否定的見解を述べた際には、アレクシス・ダデンのようなアメリカのリベラル学者からの猛反発だけでなく、ジョージ・アキタ博士のような親日派の歴史家からも、「外国政府による学問の自由への侵害だ」と反発されました。
 
特にアメリカの保守派は、連邦政府の介入は小さければ小さいほど良いと考えていますが、自民党による新憲法の草案が、政府の役割を大きくしたことは否定できません。
 
アメリカの懸念が杞憂であるならば、いかにそれが「杞憂」であるか、説得力のある説明を行なうか、懸念の材料となっている「草案」箇所の書き直しも検討するべきです。
 
勿論、アメリカの懸念するままの憲法改正が行なわれたとしても、アメリカが何かの陰謀を巡らせて日本の政治の流れを変えるようなことはありません。むしろアメリカは、世論の動向によって「自国がどのように日本に関わっていくか」を変えようとするだけです。
 
日本をアジアにおける貴重な同盟国と見るのはアメリカの保守派の意見ですが、これら米国保守派にとって危惧される「ファシズム」へ日本が逆進し、スミス記者の書かれたように、トルコやハンガリーのような専制主義国に変化しようとしていると受けとられれば、リベラル派、一国主義者、保守派、ナショナリストに関係なく、殆ど全てのアメリカ人が、日本の防衛の一端を担う責務から逃れようとするでしょう。
 

トルコ、クーデター失敗を悲しく思う

先週金曜日に起こったトルコ軍によるクーデターの失敗で、現在までに、1,577人の大学長、2,745人の裁判官、21,000人の教師が罷免され、トルコの刑務所に拘束されている全ての政治犯は弁護士をつける権利、家族への面会、電話を掛ける『権利』をはく奪されています。

トルコはEUへの加盟が取り沙汰される以前は、世俗イスラムの国でしたが、これは軍による『イスラム主義者』への弾圧があったからです。EUからのトルコ軍による政治介入やイスラム主義への弾圧を非難によって、トルコはイスラム主義者への弾圧を廃止した為、イスラム主義が復権しました。

それ以来、「民主主義」によって「イスラム主義者」が政治に関わるようになり、イスラム主義者であるエルドアン大統領の独裁のもと、世俗主義者やクルド人ら少数民族が弾圧され、ISISはシリアとトルコの国境を自由に行き来しています。

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このクーデターに対して、殆どの外国政府は非難の声明を発表していますが、軍のクーデターという『非常措置』によって、トルコは今までイスラム主義と決別してきました。今回のクーデター失敗によって、エルドアン大統領の独裁圧政に反対する、或いは反対していると疑いをかけられた多くのトルコ人らが逮捕、罷免されています。

今回のクーデター失敗ついて、中東専門家のダニエル・パイプ氏が書かれていますので、それを以下に訳します。

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「殆どの主要国家はトルコの国会に代表者を送る4つの政党と等しく、クーデター未遂事件を非難した。エルドアン大統領の座を狙っていると批判される宗教指導者のフェトゥラー・ギュレン師でさえも、これを厳しく非難した。

それでも、金曜日にクーデターのニュースが飛び込んできた直後に「エルドアンはトルコにおける最近の選挙で不正を行ない、独裁政治を行なっている。軍によるクーデターで失脚するべきだ。成功を期待する」とツイートした通り、これが失敗したことに、何とも言えない失望を味わっている。


ツイートのような字数の限られているソーシャルメディアでは充分に説明できないので、自分がなぜ、「民主主義」によって選ばれ、民主主義によって政務についているレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の失脚を願っているか、3つの点から説明しようと思う。

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エルドアンは、イスタンブールの市長、又トルコの首相として、初期の段階では法による統治を行なっていたイスラム主義者である。しかしながら、権力が強まるにつれ、特に選挙に関して、彼は法の順守から逸脱し始めた。彼は国営メディアを独占し、対立政党の政治家への身体的暴力を奨励し、不正選挙を行なった。特に去年11月1日に行なわれた全国選挙において、多くの不正行為を行なった事が明らかにされている。

またエルドアンは独裁政治を行なっている。彼が大統領に当選して二年のうちに、次々に様々な組織を傘下に置いた。結果は、膨大な数のトルコ国民が、直接的、又間接的に彼の支配の下に働く事となったのだ。首相や、閣僚、裁判官や警察、教育者、銀行家、メディアのオーナーやその他のビジネスのオーナーなどが、エルドアンの傘下で働いている。軍の指導層はエルドアンに不本意ながらも従っているが、クーデターの未遂が確認された通り、エルドアンの直接傘下ではないのは軍隊だけかもしれない。

エルドアンは独裁の権力を、トルコ南東部のクルド人らに対する、内戦とも言える規模の弾圧、ISISが近隣住民への侵略を行なうのをほう助し、スンニ派イスラム主義の普及といった悪の為に使用している。

軍による介入がトルコでは肯定的な成果をあげていた。トルコは軍によるクーデターがもっとも肯定的な効果をもたらしていた国である。1960年、1971年、1980年、1997年に起こった4回にわたるクーデターで、将校らは彼らの役割について、自制のある理解を示していた。国の方向性を改めたかと思うと、軌道に乗った時点で撤退をした。彼らの介入は、それぞれ、ほぼ5年、2年半、3年、また一年未満だった。

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エルドアンによる逸脱した独裁を終わらせる為の軍による再調整は、たとえエルドアンの党からアブダラ―・ギュルやアリ・ババカンのような、もう少しましなイスラム主義者を後釜に迎える事となっても、トルコを利するだろう。

1997年のクーデターでの指導者であるセヴィック・ビルは、「トルコにおいては、イスラム教と民主主義の結婚なされてある。子の結婚の子供は『世俗主義』だ。この子供は、時によって病気になることもある。トルコ軍という医者がこの子を治療し、この子の命を救う」と語った。現在、この子は重い病気を患っており、医者が必要だ。哀しい事に、今回は医者が止められてしまった。この病気がどんなに酷くなるか、想像するしかない。

クーデター失敗の直後、6,000人のトルコ人が逮捕された。3,000人の裁判官と検事が罷免され、アメリカとの関係はエルドアンがギュレンの引き渡しを求めるに従って、危機を迎えている。過去に辿ってきた道も険しいが、未来はもっと険しく見える。

過去にも予想したことだが、エルドアンの失脚の原因は外交上の失敗によるだろう。国内政治から国際関係で使っている挑発的言動によって、彼はいつか限度を超え、反対者によって終わりを迎えるだろう。トルコは大きな代価を払って、エゴの塊りのような狂人を追い払う事となるだろう。

ナショナル・レビュー誌の書く『ファシズムに逆戻りする日本』

ナショナル・レビュー誌が『ファシズムに逆戻りする日本』という記事を掲載しましたので、これについて、意見を述べたいと思います。
 
なお、私はこのナショナル・レビュー誌の記事の全てに同意をしているわけではありませんが、大筋、このような『ひどい誤解』を招いた責任は、ナショナリスト的言論のもたらす影響や結果を顧みない日本の側にあると考えます。
 
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ナショナル・レビュー誌は、アメリカの保守派メディアでありながら、伝統的保守派の原則を重視する傍ら、偏狭で感情的なナショナリズムを否定し、その多くの寄稿者は共和党支持者でありながら『反ドナルド・トランプ』を掲げる、真のジャーナリズムの一つとして数えられています。
 
昨日、そのナショナル・レビュー誌が「ファシズムに逆戻りする日本」という記事を掲載しました。これは憲法改正を掲げる自民党の衆議院選挙の勝利に警戒感を発したもので、この記事を書かれているのは、同じく保守系言論誌である「The Weekly Standard」にも寄稿するジョシュ・ギャラーンター記者です。
 
日本が抱える深刻な安全保障の危機や、地政学の変化、今後の日米同盟の在り方を考えれば、日本の『憲法改正』の動きは、一番の同盟国であるアメリカに歓迎されるべきで、実際にアメリカでも、多くの保守派メディアは今まで日本の憲法改正を好意的に支持してきました。
 
ところがギャラーンター記者は、それまでほとんど米国の保守派メディアが懸念してこなかった『憲法改正』、『国歌斉唱』、『旭日旗掲揚』等の意図を、最悪の偏見を通して解釈しようとしているように思えます。それでも、実はこのような誤解を招いている主な原因は、日本側のナショナリストの主張であると考えます。
 
あからさまな反日左翼リベラル派のメディアならともかく、ナショナル・レビュー誌のような保守派言論誌が日本の憲法改正を「ファシズム国家に逆戻り」と書いた事は懸念されるべきであり、このような誤解の原因がどこにあるのか、またこれの意味する事が何であるかを考える必要があります。
 

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この記事は、憲法改正への懸念の原因として、まず「『天賦人権』を『西洋の価値観』とした上で、これを否定する自民党の憲法改正草案」を問題視しています。
 
自民党の憲法改正草案は、
 
『天賦人権説は西洋的な「神の下の平等という観念を下敷きにした人権論」なので、日本独自の考え方によって「第十一条 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である」に改めるとしている。』
 
となっています。
 
そもそも『天賦人権論』は、「すべて人間は生まれながらに自由かつ平等で、幸福を追求する権利をもつという思想」ですが、これを「西洋的な人権論」として否定する事にどういった理があるのか、なぜ「西洋的な人権論」を否定し、「日本独自の考え方」に改めなければならないのか、なぜ現在の「日本の考え方」が「西洋的な人権論」に対立するものなのか、言い換えれば、日本は西洋と比較して人権に対する考え方が違うと自ら宣言したことになりますが、その理由が、他者・他国に理解できるようには全く説明されていません。
 
説明責任を果たしていないということは、相手の側の憶測や想像、時には疑念に任せる事になります。
 
自民党は他者への説明義務を果たしていないだけでなく、片山さつき議員などは自身のツイートで、『天賦人権論をとるのは止めようというのが私たちの基本的考えです。国があなたに何をしてくれるか、ではなくて国を維持するには自分に何が出来るか、を皆が考えるような前文にしました!』と述べています。

 

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全ての人が生まれながらに持つ『天賦人権』、或いは『自然権』と呼ばれるものは、「人間が、自然状態(政府ができる以前の状態、法律が制定される以前の状態)の段階より、保持している生命・自由・財産・健康に関する不可譲の権利」であって、納税や教育を施すといった、国民としての義務を怠ったとしても侵されるべきでない『基本的人権』です。日本国民としての義務の遂行の代価として与えられる「参政権」などの『国民の権利』とは、全く別の次元の権利です。
 
片山議員は、参議院外交防衛委員会の委員長を務めた人物ですが、全ての人が生まれながらに持つ『基本的人権(天賦人権)』と、『義務の伴う国民としての権利』を混同されているのかもしれません。
 
混同されていないとすれば、片山議員の言う「私たちの考え」が、「西洋的」な「天賦人権」に替えて「国が何をしてくれるかではなく、国を維持するには自分に何が出来るか」という意識を国民に課すものとなり、(尤もこの発言は、故ケネディー大統領が演説中に述べられた発言として有名で、皮肉なことに『西洋的』な考えであると言えますが)「日本的な考え」とは、人が生まれながらにして持つ「基本的人権」を認めないものだと解釈をされても仕方ありません。
 
世界の国々の中にも、国民や住民の基本的人権を求めない国家は、イスラム教主義国や共産主義国等のファシスト国家にありますが、これらの国々はアメリカとの基本的原則や価値観を共有していない国々として考えられています。
 
ナショナル・レビュー誌は「新憲法は衆参両議員の三分の二の賛成があれば、国民投票にかけられる。自らの人権に反対して投票する率が51%を超えるとは考えられないが、一方では与党が三分の二以上の議席を確保した」と書き、日本国民がなぜ今更自らの基本的人権を否定する(としか考えられない)憲法改正を望むのか、理解に苦しんでいることが伺われます。
 
欧米における戦前の日本に対するイメージは、ナチス・ドイツやイタリアといったファシスト国家との同盟によって、基本的人権を否定するファシズム国家として考えられています。「アメリカによる戦後の占領によって、日本はファシスト国家から近代民主主義国家へと変わった」という解釈を、殆どのアメリカ人が有しています。
 
これは事実とはかけ離れた姿とも言えますが、真に日本の明治、大正、昭和史を知り尽くしているような欧米人でなければ、多かれ少なかれ、こうした見識を持っているでしょう。たとえ事実とはかけ離れていても、こうした見方が現実に定着している現在、東京裁判の否定や現行憲法の規定する『人権論』への異論は、「日本は戦前の姿に戻ろうとしているのでは」という疑いを生じさせます。
 
このような疑念にお墨付きを与えているのが、日本のナショナリストや過激右翼による、戦前復古を思わせる主張です。
 
自民党は去年11月20日の総務会で、極東国際軍事裁判(東京裁判)や占領時の憲法制定過程など過去の歴史を検証する「歴史を学び未来を考える本部」の設置を決めましたが、旗振り役となった稲田朋美政調会長は「東京裁判で裁かれた日本の歴史、占領期間も含めてきちんと自分たちで検証することが必要だ」と繰り返しています。本部設置は従来の歴史認識に不満を持つ保守層の声を受けて決まった側面があることを否定できません。事実、東京裁判史観と否定する言論人は、「中韓両国の対日歴史戦に対して、わが国は歴史の事実を具体的に発信するしかない」としてこの勉強会に期待を寄せています。
 
「裁判を受け入れて日本は独立を回復したので、効力は認めるが、とらわれる必要はない」と東京裁判について語っていた稲葉政調会長の立てあげた勉強会が東京裁判を否定するものではなく、政治家が個々にではなく党内で勉強会を開く事に政治目的が全く無いと主張する事にこそ無理がありますが、たとえ東京裁判に対する直接的な否定に繋がらなくても、そういった受け取りを他者によってされる事は勉強会に出席される面々も承知されているでしょう。
 
憲法改正を掲げる自民党が東京裁判を否定し、戦前復古を試みているのではないかとナショナル・レビュー誌が疑うもう一つの要因に、自民党議員が多く連なる『日本会議』の主張があります。
 
「自民党は『西洋の天賦人権説』に一体何の不満があるのか、と思われるかもしれない。安倍晋三を含む多くの自民党議員や大臣らは、日本会議という過激ナショナリスト団体のメンバーである。最近まで文部大臣であった下村博文によれば、この組織は『日本は第二次世界大戦において日本が犯罪を犯したという自虐的歴史観を棄てるべきだ』と主張している。実際、日本会議の史観によれば、日本は戦争の被害者側である。議会調査局によれば、日本会議は『日本は第二次世界大戦中、東アジアの国々を開放させた、と称賛されるべき』であり、『東京裁判は正当性が無く』、また『南京大虐殺は誇張されたか、或いは捏造された』と信じられている。中国人や韓国人の『慰安婦』が日本軍によって強制売春させられた事を否定し、日本が現行憲法では禁じられている軍隊を再び持つべきだと考え、天皇崇拝を復活させるべきだと述べている。」
 
現在の日本を取り巻く極東アジアの安全保障上の必要から、憲法改正が叫ばれて久しくありますが、日本国民の多くが「戦前の日本に逆戻り」を願って憲法改正を掲げる自民党に投票した筈はありません。『日本会議』が開いた安倍晋三首相率いる自民党圧勝を祝うパーティーにおいて、旭日旗が掲揚され、国歌斉唱が行なわれても、それが戦前の『ファシズム』の再台頭を意図したものでは無い事は、殆どの日本人や親日派には理解できます。
 
但しこういった「理解」は、真の知日派、或いは親日派でなければ期待できない、という別の側面があることも忘れるべきではありません。
 
折りに触れてなされる海外に対する謝罪の意の表明によって懸念のいくらかが払拭されても、誤解を招く発言が自民党や日本会議から出ているにも拘らず、安倍首相がこれらの議員との距離を置かなかった事は、大きな誤りであると言えます。
 
また排他的ナショナリズムの台頭としてヘイトスピーチが取り沙汰され、挙句の果てにはナチスによるユダヤ人虐殺を否定し、大日本帝国だけでなく、ナチスを礼賛するスローガンを掲げたデモさえ行なわれた事もありますが、このような主張をする人々の多くが自民党支持者である事は米国の疑いに拍車をかけるだけです。
 

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また、日本が戦争犯罪の否定を試みれば試みるほど、反比例する形で、諸外国では戦時中の日本の残虐性を強調する主張が繰り返される原因となります。
 
米国のメディアや政府には、日本国内の言論や主張を検閲したり、禁じようとするつもりはありません。しかしながら、保守派メディアですら日本の憲法改正や自民党の勝利に懸念を表したことから理解できるのは、左翼リベラル派だけでなく、保守派やナショナリストを含めた米国の世論は、これから更に日本の安全保障を担う務めを厭う方向へと進んでいくことです。
 
「日本は情報発信能力に劣る」とは、自他も認める日本外交の難点の筈ですが、自らの意見を主張する能力に欠けると自認しているわりには、責任ある立場の政府議員らが、他者がどのように解釈するのかを全く考慮しない軽率な言論を繰り返している事に、私は憤りすら覚えます。
 
尤も、「アメリカが押し付けた」として東京裁判の正当性を否定するだけでなく、「GHQによって洗脳された」、「中韓の反日運動の裏にはアメリカがある」などと反米を煽動する『日本人保守派』にとっては、アメリカとの軍事同盟こそ余計なお世話かもしれませんが…

ニース・テロとバタクラン劇場での拷問

バスティーユ牢獄襲撃を発端として始まったフランス革命を記念するパリ祭の当日、パリに次ぐ観光地であるニースで、花火を見物する市民を、チュニジア出身のイスラム教徒が「アラーフー・アクバール!(アラーは偉大なり)」を叫びつつ、次々に84名を轢殺すテロが起こりました。
 

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ニューヨーク・タイムズなどは、犠牲となった市民のうちにイスラム教徒の女性が含まれていた事を報道し、また「トラックが轢殺した」と書くことで、イスラム教徒により、非イスラム教徒がテロの対象となっている事を緩和させ、イスラム教徒への反発の高まりを抑えようとする意図があるようです。

http://www.nytimes.com/2016/07/16/world/europe/attack-nice-bastille-day.html?_r=0

 
或いは、犯人のチュニジア人を「精神疾患者」と報道する事で、「イスラム教は平和の宗教であり、テロとは無関係」といった路線を維持しようとしているのかもしれません。
 
勿論、何らかの精神疾患を負っている人物だからこそ、ISISのような過激テロ組織に惹かれるとも言えます。
 
ところが、昨日、多くの保守派メディアによれば、フランス政府は去年11月にパリのバタクラン劇場で起こったイスラム教過激派(ISIS) のテロにおいて、ジハーディストたちが犠牲者を射殺、或いは刺殺しただけでなく、その前に拷問を加えていた事実を非公開していた事が明らかになっています。
 

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拷問の噂は、テロ直後にも生存者の証言として報道されていましたが、フランス政府はこれを認めることはしていませんでした。
 
 
 
犠牲者の男性は睾丸を切り落とされ、それを口に押し込まれたり、女性は陰部にナイフを刺しこまれたり、目玉をくり抜かれ、斬首や手足、腹部の切り落としなど、肢体切除が行なわれていたようです。
 
これは生存者への証言や司法解剖による調査を基にした報告書ですが、フランス内のイスラム教徒に対する反感の高まりを抑える目的があった事が指摘されています。
 
ドイツで元旦に起きたイスラム教徒によるドイツ女性の集団強姦事件が、当時に報道されていたよりも規模の大きな1000人を超す女性が被害に遭っていた事が明らかとなり、フランスでは「もし、またイスラム教過激派によるテロが起これば、フランスは内戦に陥りかねない」という懸念がなされていた矢先でした。(7月11日報道)
 
フランス政府が『バタクラン劇場での拷問』の事実をようやく公表したちょうどその時、ニースでのテロが起こされました。
 
過激イスラム教徒による拷問は、コーランの『戦いの教え』に基づくもので、非イスラム教徒に対する処刑だけでなく、意図的に苦しみを与える拷問を命じ、憐みの情を禁じています。
 
拷問の所業は、イラク戦争や、現地へ駆け付けた中東出身のイスラム教徒によってボスニア戦争に於いても行なわれていました。
 
 
こういった「教え」の実際を直視せずに「平和の宗教」と擁護し、「何らかの原因を西側が作ったのだろう」と「両者同罪」とすることは、我々近代文明社会に生きる人間にとって『自殺行為』であると考えます。

にわか『犠牲者』を気取るブラック・ライブズ・マター運動とトランプ支持者

ポーランド・ワルシャワで行なわれた土曜日の会見で、ダラスで起きた警察官への襲撃事件に関して、なぜかオバマ大統領は「犯行動機の解明は明らかにされてはいない」としています。
 
ダラス警察の発表によれば、5人の警察官を殺害した犯人のミカー・X・ジョンソンが警察に射殺される前に、「白人の警察官を狙っている」、また「『ブラック・ライブズ・マター』の運動に触発された」と語っており、『動機』は明らかだと言えますが、このような警察組織に対する不信感や憎しみを、意図的でないにせよ煽動した人物がオバマ大統領本人である為、「原因不明」としているのでしょう。
 

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オバマ大統領は、ダラス警察のプロとしての職務に関し「彼らの職務は非常に難しく、しかも素晴らしい功績を果たしています」と称賛しつつ、警察官を守る為には、より厳しい銃規制が必要だとの考えを示しました。

Obama says motives of Dallas cop killer Micah Xavier Johnson 'hard to untangle' - Washington Times

 
「もし、警察官らの安全を考えるなら、銃の問題をわきに置いて、それが何の関係もないかのようなフリをする訳にはいきません。銃の問題は、この事件に深く関連をしています。勿論、それだけではありませんが、警察と警察が守る地域社会の間の緊張感に対して、全く関連性が無いとは言えません。大きな問題となっているのは、(銃規制の問題について)語る事さえ、分裂を招いている現実です。」
 
アメリカにとって、つらい一週間であった事を認めつつ、オバマ大統領は、アメリカは「ある人々が示唆する程、分裂している訳ではありません」という気休めで国民を慰めるつもりなのかもしれませんが、「ダラスであっても、どこであっても、警察に対する攻撃は、全ての人種のアメリカ人、全ての境遇のアメリカ人が、当然の怒りを感じています。これはブラック・ライブズ・マターのデモ隊に参加する人々や、警察の行動に対して疑問を感じるBLMの家族の人々も同様で、『(警察に対する攻撃は)受け入れられない』とし、ここに分裂はありません」と主張しています。
 
また、アメリカ初の黒人大統領としての功績について、人種間の「格差」については、「より公正で、より一致し、より平等な国をつくる為に」発言していると語りました。
 
「私が願うのは、アメリカ人として全ての国民が、人種間の困難の歴史を理解し、お互いの声に耳を傾け、奴隷の歴史や(制度的人種差別主義の代名詞である)「ジム・クロウ」や人種差別が、公民権運動や、選挙権付与、或るいはバラク・オバマの大統領就任によって、一夜では消え去らない、ということを理解する事です」
 
オバマ大統領のこの発言だけでなく、イスラム教過激派によるテロに対する発言からも言える事ですが、オバマ大統領は、『ブラック・ライブズ・マター』の運動に啓発されたテロリストを運動そのものと切り離し、イスラム教テロリストをイスラムの教えそのものから切り離しています。
 
また、起こる全てのテロや犯罪を「教え(イデオロギー)」とは切り離して考える為に、「原因は不明」とし、解決だけは「銃規制」で片付けます。(ちなみに、アメリカでは既に多くの銃規制が為されています。)
 
ところが、これらの殺人者たちが『ブラック・ライブズ・マター』の運動やイスラム教の教えによって啓発され、煽動されている事に間違いはありません。
 
これらの危険思想を『人権運動』や『平和の宗教』と呼び、「思想に問題は無い」と容認し続ける限り、これらによって触発され、殺人を犯すテロリストたちは後を絶たないでしょう。
 
オバマ政権の司法長官であるロレッタ・リンチ司法長官は、警察による殺害を批判しつつも、ブラック・ライブズ・マターの運動そのものは「平和的なデモと言論の自由によって我々の国を改善しようとする人々に対しては、あなた方の意見が重要であることを強調したい。あなた方の法的な行動によって、醜い暴力行為をカバーしようとする人々によって気落ちしてはいけません。我々は憲法によって保障されているあなた方の権利をこれからも守り、より良い国と明るい将来をつくる為の困難な使命を、ともに務めていきたい」と語り、ブラック・ライブズ・マターの運動のデモを称賛し、その安全を保障しました。

 

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反警察組織、反白人を掲げるブラック・ライブズ・マターのデモですが、これを警察が保護し、警察官に犠牲を払わせつつ、犯人を運動から切り離すことによって、運動自体は優れたものとして称賛するオバマ政権の主張を、私はこの上もない卑怯であると考えます。
 
このような極論は、別の極論を生み、『にわか白人至上主義者たち』が声高に人種差別発言を繰り返すようになりました。
 
これらの白人至上主義者たちは、反オバマ・反リベラル派を掲げる熱心なトランプ主義者ですが、「トランプは、不法滞在者を強制送還させると言っているんだ。ここはメキシコじゃない。お前みたいなリベラル派がいるから、この国は崩壊しかかっているんだ。もう白人がマジョリティーの国ではなくなってしまった。白人には何の権利もない。手遅れになる前に、少しは賢くなることだ。革命が起こされるだろう」と『革命』を叫んでいます。
 
ブラック・ライブズ・マターは、「黒人の権利が認められず、黒人は差別されている」と主張しますが、トランプ支持者は「白人の権利が認められず、白人は差別されている」と主張します。
 
一枚のコインの表裏のように、オバマ支持者のリベラル派とトランプ支持者の白人至上主義者は、煽動された被害者意識と憎悪を新たに、同じ主張を行なっていますが、オバマ大統領が政権を取り、「組織的な黒人差別がある」主張する前は、ブラック・ライブズ・マターという運動は生まれませんでした。
 
5人の警察官を殺害したミカー・X・ジョンソンの両親が、「息子は白人に対する憎しみは感じていなかった筈です」と答えたのも頷けます。

Dallas shooter Micah Johnson's parents reveal he wanted to be a COP prior to attack | Daily Mail Online

 

同様に、ドナルド・トランプ氏が、候補者として「我々こそ被害者だ」と主張し、ポリティカル・コレクトネスを批判し、KKKの指導者であったディビッド・デュークのような人物を擁護する以前は、白人至上主義などは嫌悪と侮蔑の対象となっており、表立って差別的な主張する事はおろか、誤解を招くいかなる言動も注意深く避けられていました。

 
ブラック・ライブズ・マターの運動家にせよ、白人至上主義者にせよ、これらの人々は、自らの「不遇」、或いは「不満」に対する答えを『他者への憎悪の思想』に見出したと言えますが、実は自分たちが「平等」以上の「特権」を求め始めている事に気づいてはいないようです。